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闇商人―2 蠅の王

「次の質問は、ネオ・ゴブリン、いやその裏にある存在について教えてもらいたい」

「その様子だと何か途中まで情報を掴んでいるようにみえますね。お客様はどこまで知っているんですか?」

「正直に白状してしまうと、ギルドの緊急クエストの報告をした冒険者というのは俺だ。この目でネオ・ゴブリンロードを見たのは俺とゴブレイさんだけで、彼は既に亡くなっている」

「お客様が例の」


「そうだ。そして今持っている情報から、ネオ・ゴブリンの一連の事件には西大陸が関連していると推察した。更に言えば、ヘルヘイム帝国、魔導王カインズが関連していると思っている」

「なるほど。既にそこまで考えていましたか。しかし、そうなると話は少し難しくなりますね。それから先の情報は非常に高くつきますよ。失礼なことを言いますが、お客様は払うすべがありますか?」


「今持っている金貨500枚でどうだ?」

「全然足りませんね」

 リセットすればいい。だから、全ての物を差し出せる。

「家に金貨5000枚はある。これでどうだ?」

「それでもダメですね」

「じゃあ情報をだそう。俺の知っていることなら何でも答える」

「それも結構です」


 クソ。これでもダメか。何か策は......。

 考えに沈んでいる俺の肩を文香がたたく。すると文香が俺の耳にそっと口を近づけて囁く。


「魔導書、なんてどう?最悪の場合、魔導銃もあるわよ」


 最悪の場合、というのは魔導銃を手放してしまうと俺が楽に死に戻りできないということだろう。

 ありがとう。そう文香にお礼をいって、闇商人に向き直る。


「魔導書はどうだ?」

「それはいい考えですね。本を知っていることと、本を所有していることの間には埋められない隔たりがある。魔導書ならなおさらです。その魔導書は私にとって大きな価値を持ちます。わかりました。話せることは話します」


 隣の文香が少し誇らしげな顔をしている。

 その表情が可愛くて、思わず手を握る。

 文香はビックリした様子で僅かに顔を赤らめた。


 コホン。闇商人がわざとらしく咳をして話を始める。


「まず、結論から申し上げますと、ネオ・ゴブリン事件の裏にはカインズの動きがあります。

 はえの王計画。彼らはそう呼んでいます。そうですね、どこから話しましょうか。うーん、まずはカインズの部下の話からしましょう。名前はウルデゴミス。この男が今回の事件の主犯です。

 ウルデゴミスの能力は簡単に言ってしまえば凶悪なモンスターを作りだすというものです。

 彼は二つの方法でそれをします。

 一つ目の方法は、モンスターに知性を与える方法。

 二つ目の方法は、人間や亜人を野蛮化させるという方法。

 前者では『パノプティコン』というスキルを使用します。

 後者では【はえおう】というギフトを使用します。」


 パノプティコン。前の世界の言葉だ。功利主義者のベンサムが考案したシステムで、犯罪者たちは円形に配置された監房の中にいれられ、監房はマジックミラーで仕切られる。犯罪者はその中で常に他者に監視されていることを意識しながら生活する。その生活を営む上で、犯罪者は自ら更生していくというものだ。


 そして、はえおう。ウィリアムゴールディングの作品だ。無人島に漂流した少年たちが、サバイバル生活を経て野蛮になっていく話だ。最初は自分たちで定めたルールを守っていたものの、最終的には顔に戦化粧いくさげしょうをし、仲間同士で制裁という名の殺しを行う。


 これらの知識は闇商人の話したスキル名と照らし合わせて違和感がない。つまり、こいつは真実を述べている可能性が高い。


「ここまで話せばお客様もわかるでしょう。ネオ・ゴブリンはウルデゴミスの『パノプティコン』によって生み出されました。しかし、それは蠅の王計画の過程に過ぎません」


「ネオ・ゴブリンと蘇生させたマザーで子を作らせ、ネオ・ゴブリンロードを作る。そしてネオ・ゴブリンロードに対し、スキルより強力なギフトを使用して、蠅の王を完成させる。そういうことか?」


「少し違います。蠅の王はネオ・ゴブリンロードではなく、その敵によって作られるはずでした。より強い蠅の王を作りだすには様々な条件があります。それ相応の敵を用意しなければなりません」


「......。つまり、蠅の王になるのはゴブレイさんだった」

「そうです」

「蠅の王を作る目的は?」

「バベルの塔を倒壊させるためです。彼らが何故それを望むかまではわかりません」


 すると、いままで黙っていた文香が口を開く。


「闇商人さん、あなたの情報には不可解な点がありますね。今の話ぶりだと、ゴブレイさんはカインズに利用されていた。強力な蠅の王を生み出す条件に、対象の屍食鬼化というのも含まれているのでしょう?しかし、ゴブレイさんに『屍食鬼写本』を渡したのは十六夜天狐です。カインズではありません」


「お客様方は嘘松王国の目的についてどこまで知っていますか?」


「西と東の中立国でありながら、立地的な条件によって、どちらかといえば西側についている」


「違います。事実はその逆です。嘘松王国は裏でヘルヘイム帝国と繋がりを持っています」


「そういうことなら説明はつくか。なら別の質問だ。実際にネオ・ゴブリンロードは倒されたが、ゴブレイさんも蠅の王にならなかった。ウルデゴミスはどういう方法で蠅の王を完成させるつもりだったんだ?」


「依頼を受けた冒険者の中に、美男子はいませんでしたか?ただの美男子ではありません。異常なまでに美しい、同性でも目が惹かれるようなそんな美男子です」


 Cグループにいたあの二人組が思い出される。


「確かにいた」

「その男がウルデゴミスです。カインズの優秀な部下たちはその性質上人間の域を超えた美貌をもっているのです。お客様の話が事実ならウルデゴミスは冒険者の中に紛れ、その機を伺っていたということになりますね」


 しかし、俺というイレギュラーな存在のせいで計画は頓挫した。

 そうなるとかなりまずい。カインズに俺たちの存在が知られてしまったかもしれない。檸檬れもんが見られていなければいいが、そうだとしても一つの死体も残っていないあの広間を見られたら疑問を持たれるだろう。

 こんなことになるならCグループの捜索に行っていればよかった。今リセットしたところで間に合わない。


「そうか。ようやく全貌が見えてきたよ。あなたに対する信頼も十分ある。話を変えて、最後の質問をしてもいいか?」


「内容によりますが、こちらとしても前向きに検討したいところですね」

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