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ベルガモットとただのワガママ

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『IQ250の天才詐欺師が、異世界転生者から【最強の武器と能力】を奪い取り、家族の復讐を果たすために、世界の全てを欺く物語』


https://ncode.syosetu.com/n9099fr/  (8/18追記)










 文香の下へ戻る途中、俺はゴブレイさんのことを考えた。

 本当に引き金をひいたことが正解だったのだろうか。何か他に選択肢はなかったのだろうか。

 あのときに引いた引き金は今までのもので一番重たかった。

 ゴブレイさんを殺してしまったことは、真の意味で俺が人殺しをしたということでもあった。今まで殺した奴ら、生島園華、生島建造、ラザエル、ザトース、スタイン、こいつらは人間ではない。ゴブリンと同じだ。だが、ゴブレイさんだけは違う。ゴブレイさんは人間だった。

 今までの倫理観の崩壊を実感しながら俺は嘘松王国領の宿に着いた。


 もう時間は朝だ。着いたときにはマジックフォックスのメンバーは回復していた。

 文香が状況説明は果たしてくれていたようで、3人から何度も感謝の言葉を述べられた。

 狐狩りは嘘松大国では重大な問題となっているみたいで、宿のメイドさんからも感謝された。

「この恩は必ず返します」

 楓さんはそういってバビロンに向かった。ゴブレイさんが亡き今、俺が略式で終えた手続きの続きを楓さんがこなさなくてはならない。


 ネオ・ゴブリンロードは、ゴブレイさんが相打ちしたということにして、話を伝えた。

 復活していたゴブリンロードについては話すかどうか迷った挙句、何も言わないことにした。この情報は自分で持っていた方がいい気がしたのだ。

 朱莉あかりさんと皐月さつきさんは一度自国に戻るらしい。こちらも楓さんと同様、今度何かしらの形で恩返しをさせてくれと言ってきた。メイドさんが気をつかってくれ、もう一泊してもいいというので、ありがたくそうさせてもらうことにする。


 徹夜で宿からバビロンまで往復するのは流石に疲れた。文香に日記は読んでもらってもいい、本は絶対に読むなと言って睡眠をとることにした。

 目覚めたとき、文香は魔法の本を読んでいた。魔法大国である嘘松王国の本には文香のまだ知らない魔法や、別のやり方で整理された学問体系が書かれていて非常にためになったという。

 夕食には豪華な料理が並んだ。シャワーを浴びて、ひと段落すると、俺と文香は今後の方針について話し合うことにした。


「まず、この本についてだが、これは俺が今日の晩にでも読もうと思う。十六夜天狐が持っていたものだ。何か情報があるかもしれない。しかし、ゴブレイさんの手記に書いてある通り、これは危険な仕事になると思う。死に戻る許可が欲しい」

「......わかりました。あなたは約束を守ってくれました。だから今回は認めます」

「ありがとう。それと近頃の予定として、闇商人の場所に行こうと思う。ここでも死に戻る許可がほしい」

「許可します」

「助かる」


 しばしの沈黙。


「一人目の転生者を1年以内に始末することにする。最初の目標は十六夜天狐だ。これは決して私怨とかではなくて、地理的な条件と、楓さんたちに恩を売れたことなどを考慮した結論だ。これについて文香はどう思う?」

「その場合、私たちの存在や魔導銃のことが知れ渡ってしまうと思うけれど、本当に大丈夫かしら?ギルドでの階級も昇格するだろうし、情報的優位があるいま、イキリトを先に倒すのもありだと思うけれど」

「それも一理あると思う。少し俺の考えてる大まかな未来予想図を説明させてくれ」


 俺はアンリミテッドノートブックスを開く。


「まず現状を整理しよう。今は西大陸と東大陸で事実上の冷戦が行われている状況だ。大量のアンデットによる労働力、高度な技術力、そして世界樹の恵みによる膨大な資源力、これらの要素がそろったユグドラシル連合。それ対して、部族間でのいざこざは絶えず、技術力も首都ラインクラッドにかたよって存在する西大陸。

 こんな圧倒的に有利な状況にありながら、カインズが仕掛けてこないのは何故か?それは、なろう王イキリトが余りにも強すぎるからだ。一つの大陸分の戦力を持つ奴に俺たちが勝てるという見込みは低い。仮に勝てたとしても、パワーバランスが崩壊した隙に、ユグドラシル連合は攻撃をしかけ、カインズの勝利となってしまう」


 別のページを開く。


「嘘松王国は東大陸に協力するような態度でありながら、中立の立場を公言している。嘘松王国の西にある国々は中立国でありながら嘘松王国と敵対している国がぼちぼちある。十六夜天狐を倒した後、それらの国に亡命する。そしてそのまま西の大陸の情報を得たい。しばらくは様子を見て、何も起きなければ西大陸に移動する。だがその可能性は低いだろうな。何も起きないはずがない。王のいなくなった嘘松王国にはなろう王国、ユグドラシル連合、どちらも黙っていないだろう。新たな動きが始まるはずだ。もし戦争が勃発すれば二人の戦力は削れる。その好機を利用して二人を殺し、残りの転生者を始末する、これが大まかな予定だ」


「私はどこまでもついていくわ」


 話が一旦途切れると、俺たちは紅茶(のような飲み物)を一口すする。

 ベルガモットのような香りに驚く。


「これはすごい。前の世界のアールグレイとほとんど変わらない」

「これがアールグレイなのね。茶葉にベルガモットの香りをつけた紅茶。知識としては知っていても飲んでみるのは初めて」


 心地のいい沈黙。熟年夫婦が作るようなそんな空間。


「今回のネオゴブリンロードで何か気が付いたことはあるか?」

「そうね。私は直接それをみたわけではないから何とも言えないけれど、やっぱり話を聞く限りだと裏に誰かがいる気がするわ。安直な考えかも知れないけれど、ゴブリンロードが生き返っているということから考えると、カインズが関わっている気がしてならないかな」

「文香もそう思うか。俺も同意見だ。ゴブレイさんは西の毒にやられたと言っていた。このことからもそれが正しい気がする。しかもゴブリンロードの状態は本当に生きているみたいに綺麗だった。あれはこっちの大陸で習える死霊術の範囲を超えたものだ」

「カインズは私たちの存在に気が付いているのかしら?」

「わからない。だがその可能性も考慮しておいた方がいい」



 文香と話を終えると、俺は例の本に取り掛かることにした。文香には同室にいてもらい、危険だと俺が判断した瞬間、『A Study(シャーロック) in() Scarlet(ホームズ)』を使用してもらう。

 俺が今の状態と違う状態になっていたら、直ぐに魔導銃で戻る。昼寝をしたので戻るのは今日の昼だ。


 万全の準備を整え、俺は本を読み始める。手元あるアンリミテッドノートブックスに得られた情報や疑問は随時まとめて書いていく。

 本の解読は骨の折れる作業だった。文字は全て手書の日本語で書かれていて、字は乱雑だ。

 内容も狂人が書いたようにめちゃくちゃで、いらないと思った事項があとになって重要な意味を持っていたことがわかるなんてことが多々あった。ただでさえ抽象的で理解しがたいのに、聞いたこともない単語などが随所で使われており、コツを掴むまでにかなりの時間がかかった。


 本の前半に書かれていたのは主に屍食鬼ししょくきが崇めている神についてだった。しかし、肝心な神の名前はわからない。これは名前が直接的に書かれていないからわからないわけではない。その部分にあたる場所に書かれている文字が日本語ではないからだ。どの国の言語かは知らない。英語や、ヨーロッパ圏の言語でないことはわかる。文字と言ってもそれは記号に近い。あまりにも見慣れないそれは以前の世界にあった文字ではないような気さえする。アンリミテッドノートブックスにその文字を書いて、文香に見てもらう。だが結果は同じ。文香も知らないという。

 それについての考察はひとまず置いておくことにして俺は先を読み進めた。解読作業も慣れてきたから残りの半分は今までの半分以下の時間で読み切れるだろう。


 後半部分には神に対する儀式の様々な行い方について具体的に書かれており、内容は猟奇的でゾッとするものであった。本を読み終えた後、体調の確認をする。

 最初の1,2ページを読んだ時に気持ち悪さを感じたが、半分を読むころにはその気持ち悪さもなくなっており、読み終わっても特に体に変化はなかったように思えた。

 得られた情報の中で天狐に繋がりそうなものは一切なく、総評としてはこの本はただの変な教団の本という結論に至った。

 ゴブレイさんの日記にあるような体の変化は起こらず、激しい飢餓感も全く感じなかった。

 一応、文香に『A Study(シャーロック) in() Scarlet(ホームズ)』を使用してもらったが、読む前と何も変わってないと言われた。


「どうして俺には何も起こらないんだろう?」

「最初は変な感じを受けたのよね?」

「最初の1,2ページだけ身体に違和感を感じた」

「もしかするとだけれど、それもその右手のおかげなんじゃないかしら?」

「なるほど。そうかもしれないな」


 怪我の回復や麻痺の回復、そして魔導銃の威力強化。これらの力は全て右手、もっと詳しく言えば「女神の血」によるものだと解釈してる。

 ほとんどステータスが似ていた(現在は役割分担のお陰でスキル欄なども変わってきた)俺と文香での、これらの差異はジョブによるものとは考えにくいし、魔導銃の実験などからもあながち間違いではない気がする。


「どうしますか?私がその本を読めばはっきりすると思うけれど」

「うーん」

 どうしたものか。

 十六夜が持っていたということは十六夜もこれを読んだ可能性がある。そうなると、転生者だから読んでも平気だったという線もある。

 しかし、もしこの予想が違ったとしたら文香は屍食鬼になってしまう。それでも、そうなった場合は死に戻りをすれば全てリセットできる。

 論理的に考えるとするならば、ここで文香に読ませないという選択肢はない。だが。



「その提案は断らせてもらうよ」

「どうして?」

「俺もたまにはワガママを言いたくなったんだ」


 そう。これは単なるワガママだ。文香を犠牲に何かを得たくないという俺のワガママ。人の生死に関して倫理的価値観を失いつつある今の俺にとってこれは唯一の希望だった。


 翌日、俺たちは再びバビロンに戻った。

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