緊急クエストー3 ファイズ
ばっ!
意識が覚醒し、俺は跳び起きる。ここは洞窟の中、俺はまだ死んでいない。
生命力はほとんど減っていない。これは感覚的にわかる。そして何が起こったかも予想が付く。
マヒルヒマは敵だ。襲撃される前に音が消えていた。おそらく《サイレント・ワールド》が発動された。発動したのはファイズのメンバーだろう。この裏切りは計画的に行われたのだ。
意識が飛ぶ前に女性の声が聞こえたことを思い出す。文香の声ではなかった。だが、文香も危ない。前後の道を見る。どちらの道から来たのだろうか。倒れかたから推測して、来た方と思われる道を進む。進みながら思考する。
目的はなんだ?俺はどのくらいの時間倒れていた?
『上位探知』が反応する。敵の数は4。ファイズのメンバーがまだ近くにいる。慎重に進むと、奥から話声が聞こえる。
「いやぁ~順調に進んだな」
この声はラザエルだ。
「ザトースの発動タイミングが完璧でよかったよ」
マヒルヒマの声。
「そんなによかったなら一番は俺でいいか?」
ザトースが答える。
「いやいや、リーダーが来るまでの間に戦ってたのは俺なんだからよ俺が一番だろ」
ラザエルが言う。
「戦っても何もお前がヘマしなきゃ戦う必要なんてなかったろ?俺の魔法が無かったらどうしてたんだよ」
スタインが言う。
「いやいや、ちゃんと言われた通りに攻撃はした」
「だったらどうしてすぐに倒れなかったんだよ?」
「何かしらの麻痺対策をしてたんじゃないか?」
「案外、物理攻撃力がめちゃくちゃ高かったりして」
「いやいや文香ちゃんは魔法使いだし、物理攻撃力が高いからってことはないだろう。つーかこんなお淑やかな女性が俺たちより強いとか想像できねよ」
「そうか。その理論だとこの美女たちは皆魔法使いだし、2,3日は目覚めないってことだな?」
「そうなるな」
「ま、そういうことで文香ちゃんは俺がもらいまーす」
殺す。文香に手を出した瞬間殺す。
「は?どうしたらそういう結論になるんだよ。まあいい。俺はやっぱり楓さんかな。この凛々しい女の泣くところが早くみたいぜ」
「お前たち、そろそろいいか?幸いここには4人の美女がいる。誰が誰をヤるかは後で決めよう。そんなことよりも、あの男の処理をどうするかだ」
マヒルヒマが仕切り直すと少し空気に緊張が走る。
「本当に爆発で死ななかったのか?闇商人から仕入れてた特性の爆弾だぞ?妖狐の爆発魔法が込められたあの爆弾で?」
「あぁ。あの男はあれでもまだ生きていた。だから、一発入れておいた。どんなに防御力や生命力があっても麻痺らせれば全部同じだ。あと1日は目覚めることは無いだろう。幸い、麻痺対策はしていなかったらしい。もっとも対策していたところで俺の麻痺特化のスタイルの前には関係ないことだが」
「なるほどな。リーダーは一発入れてきてから俺の声を聴いて駆けつけてきたのか。助かったぜ。俺の麻痺攻撃とスタインの麻痺魔法じゃ文香ちゃんはやれてなかった。状態回復魔法を持った文香ちゃんが麻痺対策をして、パーティー単位で一応麻痺対策はできてるってことか」
「にしても、この女もいいな。嘘松王国の妖狐が美人なのは有名だが、ここまで美人な人間は初めて見る。
人妻の色気というかなんと何というか雌のフェロモンがぷんぷんする。程よい肉付きに、でかい胸と尻。それに処女みたいにきめ細かい肌と麗やかな髪。犯すのが楽しみだぜ」
「はぁ!?スタインお前も文香ちゃん狙いなのかよ?あぁ、もう我慢できねえ!善は急げだ!もうこの場で犯っ」
ブシャ!
銃声と共に、ラザエルの頭が血で染まり壊れる。
「なんだ!?」
バン!
2発目がスタインの額に当たり、脳が弾け飛ぶ。
それを見て、マヒルヒマは戦闘態勢入る。後ろではザトースが尻もちをついたまま呆然としている。
「動くな。動いた瞬間お前たちの頭はあいつらと同じようになる」
俺の言葉を聞いてザトースは唾を飲む。
バン!
マヒルヒマの手が腰に動いた瞬間、俺は腕を撃ち抜いた。
「正直者は生かしてやる。どっちが生き残るんだろうな?」
そう言いながら銃を二人の間で行き来させる。
「俺だ!」
先に叫んだのはマヒルヒマだった。
「俺はリーダーだ。俺を生かした方がいいに決まっ.......て」
マヒルヒマの腹部から血が噴き出す。ザトースが後ろから短剣を突き刺していた。
「ザトースゥゥ!!」
マヒルヒマの断末魔を聞いてザトースの顔が歪む。
「あああああぁぁぁ!死ね!死ね!死ね!」
ザトースが剣を引き抜き、再び突き刺す。剣が刺される度、辺りに血が飛び散る。マヒルヒマが完全に息絶えた後もその行為は止まらない。
「おい。もうやめろ」
俺の声を聞き、ザトースは止まる。
「お願いします!知ってることは全部話します!だから命だけは助けてください」
「生きるか死ぬかはお前次第だ。俺の質問には全て答えてもらう」
「わかりました!なんなりと!」
「そうだな」
まずは文香の身が心配だ。情報を引き出すのはそれからだ。
「麻痺を回復させる薬みたいのは持っていないのか?2,3日も昏睡状態にする麻痺は不便なはずだ。何かしらアイテムをお前たちが持ってたりしないのか?」
「あります! ありますぅ!」
ザトースはマヒルヒマの死体の下に駆け寄り腰のポーチから袋を取り出し差し出してくる。
袋の中には5粒の丸薬があった。俺はそのうちの一つを取り出し、ザトースに渡す。
「飲め。毒みしろ」
「毒!? 毒なんてそんなことするわけありません!」
ザトースが飲み込むのを確認すると、俺は残りの丸薬を4人に食べさせる。丸薬が口に入った瞬間4人の身体は緑色に輝いた。最後に文香に丸薬を飲ませたとき、文香が目を覚ます。
「あなた。無事だったのね」
「あぁ。俺の方は大丈夫だ。そんなことよりそっちの方が心配だ。身体は動かせるか?」
文香が身体をゆっくりと起こす。
「まだ痺れは残っているけど一応大丈夫そう。助けてくれてありがとう」
「いや、礼には及ばないよ。無事でよかった」
マジックフォックスのメンバーはまだ目を覚ましそうにない。
文香が起き上がったのを見て安堵すると、俺の心にも余裕が出てくる。
さっきの話からすると文香の回復だけ早いのは麻痺の時間が物理攻撃力に依存するからに違いない。
さて、まずこいつに聞きたいのはファイズの正体と目的だ。それと話に出てた闇商人についても気になるな。
「文香、ここで『A Study in Scarlet』を使ってくれ」
「わかりました」
文香が目を閉じ、スキルを発動する。
「『A Study in Scarlet』」
瞼を開いた文香の目は緋色に輝いている。
「早速だけど、質問に答えてもらう。最初に言っておくが、俺たちに嘘は通用しない。文香のこのスキルは相手の言葉の真意を読み取ることができる。知ってることは一つ残らず全て話せ。使えないと判断した瞬間お前の命はない」
まぁただのブラフだが。『A Study in Scarlet』にそんな効果はない。相手の表情はよくわかるようになるから前の世界で得た心理学の知識を使って大まかな気持ちを読み解くことくらいしかできない。
「一つ目の質問だ。お前たちの正体は何だ?」
圧倒的に有利な状況。具体的な質問よりも幅を持たせた質問をしたほうがいい。背後に別の組織があるなら話してもらいたい。
「正体?俺たちはただの悪党です。グループ名はファイズ。元リーダーがいなくなってからこういう事を始めました」
嘘をついているようには見えない。本当にただの屑だけだったということか?
「そんなことは知っている。裏に別の組織はあったりしないのか」
「ありません!信じてくださいぃ」
「お前たちの目的はなんだ?」
「狐狩りです」
「もっと詳しく話せ」
「妖狐をさらって売ることを僕たちの界隈では狐狩りと言います。妖狐の尻尾は魔術触媒としての価値が非常に高いので。それと妖狐には美人が多いので尻尾を切り取られた妖狐は性奴隷としても需要があります」
引き金を引きたい気持ちを抑え、質問を続ける。
「どうして金が欲しかったんだ?」
「どうしてか......?大した理由はございません。ただお金が欲しかっただけです」
「二つ目の質問だ。闇商人について知ってる情報を全て話せ」
「闇商人はこういった裏の取引をしてくれる商人です。正体については詳しくは知りません。噂ではかなり強い冒険者だったとかなんとか。神出鬼没でなかなか出会えませんが僕たちは前回の取引でいい客だと思われたようで、近頃バビロン西の裏路地で商売をするという通達を受けました」
「それはいつなのか答えろ」
「3日後から数日間ですぅ!地図もありますぅ」
ザトースはマヒルヒマの懐を再び漁ると、地図を出してきた。バビロンの都市内に関する地図で一か所赤い×印が描かれている。
「合言葉は?」
「合言葉はありません!そこに行けば入れてくれます」
「本当だな?」
俺が一歩近づくとザトースは怯える。
「本当ですぅ!!!」
俺は文香の方をみて、アイコンタクトをとる。
「嘘は言ってないわ」
文香はそう答える。
「お前たちは何か買ったりするのか?」
「あなた様に使った爆弾や、リーダーのナイフに着ける麻痺毒は以前に購入しました」
俺は頷いた。後に思考する。
こいつに聞ける情報はもう殆どないだろう。問題は後処理だ。いくつか考えられるが。聞いてみないと何が一番適切な道かわからないな。
ザトースに銃を向けたまま文香と話をする。
「こいつらに襲われたことをマジックフォックスのメンバーは知っているのか?」
「皐月さんは不意打ちで倒れてしまったけれど、他の二人はすぐに気が付いたわ。その後朱莉さんが魔法で眠らされて、楓さんが尻尾を構えたところで麻痺してしまいました」
「なるほどな。じゃあ大丈夫か。文香、あの怪物の死体を出してくれ」
文香が手をかざし、あの忌まわしい怪物の死体を出す。洞窟には腐った魚の匂いが充満し、そのおぞましい顔をみてザトースは声をあげる。
「ザトース。この怪物に知っていることはないか?些細なことでもいい」
「わかりません」
「そうか。わかったよ。お前の利用価値はもうない。ここで死ね」
「ああああああ!!嫌だ嫌だ嫌だ!死にたくない!助けて!助けてくださぁいいいい」
俺はザトースの心臓にめがけて引き金を引く。銃弾は胸に命中し、ザトースは息絶える。
ザトースの服が赤く染まっているのを見ながら、落ち着いた気持ちでリロードする。
現段階ではこれが最善の手だったろう。本来ならば魔導銃をここで見せずに4人を無力化するのがベストだっただろうが、それは言っても仕方がない。俺一人だったのなら迷わず死に戻りを選択しただろうが、文香を悲しませたくはない。ラザエルを魔導銃で殺してしまった以上、こいつらは処理せざるを得なかった。
幸い、マジックフォックスのメンバーも途中までの事情は知っている。ここで嘘松王国民に恩を売っておくことができるのはむしろラッキーだったと言える。
「ごめんな、文香。俺が感情的になったせいで少し面倒なことになった。マヒルヒマとザトースの頭部は切りとろう。他二人は焼き払い、文香の魔法で殺したことにする。マジックフォックスのメンバーと二人の頭部、そして二人の焼却死体を宿まで運搬するのを頼んでいいか?その後はそこで待機してくれ。目が覚めたら事情をうまく説明してほしい。運搬に関しては、ギフトだと偽ってくれ。それと珍しいギフトだからと口止めも頼む」
「わかりました。あなたはどうするの?」
「俺は先に進むよ。ゴブレイさんや他の冒険者のことも気になるし。緋の目でどこまで見える?」
「奥に進むと更に深くに続く階段があって、そこを降りた先に大量の熱源があります。遠すぎて正確な数やそれが何をしているかはわからないわ」
そう言い終えると、文香の目が元の色に戻ってくる。
「わかったじゃあ行ってくるよ」
「あなた、一つだけ約束して。絶対に死なないこと」
「あぁ。約束する」
俺は先に進むことにした。
今日の投稿はこの辺にしておきます!
2日目にして1000PV。悪くないんじゃないかなと思います。
ブクマ、評価もありがとうございました。
明日からは投稿頻度を少し落としてみようと思います。
1日2~3話を目安に最初の転生者を倒すまで投稿します。
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