緊急クエスト―2 マジックフォックス
作戦当日。
ゴブレイさんのAグループは既に作戦を開始し、しばらくの時間が過ぎた。
この世界に時計はないが、当然「時間」という概念はある。
初級の光魔法である《カウントダウン》を発動すると、魔法陣の周りを光がゆっくりと回る。その一周が30秒だと定義されているのだ。カウントダウンの30秒は元いた世界の30秒と感覚的な違いはない。カウントダウンの20回分とちょうど同じようになるように作られた10分を測る砂時計は割と流通しているものだ。砂時計はキッチンタイマーの役割として家庭に何個かあるありふれたものになっている。どのような技術で砂時計が作られたのかは知らない。だが、いまはなろう王国の領土下にあるドワーフの国には高い技術力があるという。魔法を使って製品を作れるらしく、この世界の文化水準は戦後の日本並みのものではある。電気の代わりに魔力が使われるだけだ。
バビロンに向かう道中で出会った怪物たちの服も蓋を開けてみれば答えは単純で、服は素材に専用の魔法を使うことで作れる。といってもその方法で服を生産するのはごく少数の栄えている地域だけで、田舎の村では手織物が主流だ。
バビロンで服を作る魔法を習得する機会はなかったが積極的に習得してみたいと思う。もしそのような魔法があるならば、高分子有機化合物の分子構造を変えられるわけで、その魔法を応用すれば強力な技が作れるかもしれない。まあ今それを考えても仕方がないのだが。
砂時計の最後の砂が落ち、時間になった。
「それでは作戦を開始します」
楓さんの声と共に、俺たちはエルフの里に侵入した。エルフの里には今までで見てきた中で一番多い数のゴブリンがいた。そこにあったのはゴブリンの集落ではなく、もはやゴブリンの里だった。
パッと見ただけでもゴブリンの上位種がうじゃうじゃいる。ホブゴブリン。ゴブリンシャーマン。レッドキャップ。それぞれ20以上はいるだろうか?ホブゴブリンが普通のゴブリンに戦いかたをレクチャーしたりだとか、ゴブリンシャーマンの指導で豚のようなモンスターを家畜として世話をしていたりだとか、信じられない光景がそこにはあった。
見張り台にいたゴブリンがこちらに気が付くと、鐘を鳴らした。総勢200程度のゴブリン。流石にこの数は厳しいかもしれない。
そんなことを思っていた俺の横で、文香が杖を構え、マジック・フォックスのメンバーが尻尾を構えた。
皐月と朱莉が口を開く。
「「魔法の話する?」」
そう言った瞬間、二人の身体が黒く輝く。この色はギフト特有のものだ。
その光景に驚く俺に文香が耳打ちをする。
「これは嘘松王国民だけが持てるギフト、【Plausible Story】。オーバーマジックよりも数段高いレベルで魔法を強化できるの」
どうしてリーダーの楓さんはこれをしないのだろう?
ゴブリンがこちらに向かってきたタイミングで4人は顔を合わせ、魔法を放った。
「 《オーバーマジック・レリギアス・フレイム・ワイド》 」
文香の魔法。今回のスキル構成はこれまでの実験を踏まえてベストのものになっている。
スキルの補正が乗った文香の魔法はゴブリン達を焼き尽くす。
「「「 《フレイム》 」」」
マジック・フォックスのメンバーが詠唱した魔法はそれだけだった。俺の知っている《フレイム》は《アズ・フレイム》よりも低位の、実戦じゃ使えないような魔法だ。
だが楓さん達が放った魔法はそうではない。楓さんの3本の尾から巨大な球体が奥のゴブリンの群れに向かって飛び、着弾後、辺り一帯にいたゴブリンを轟音と共に葬り去った。
4人の初撃で殆どのゴブリンは死んだ。残ってる数は20程度。これならファイズと俺で狩りきれる。
俺たちが踏み出した瞬間。楓さんはまた魔法を唱える。
「 《フレイム》 」
また先ほどのように2本の尻尾から魔法が飛ぶ。しかし先ほどの魔法と違い、小球がゴブリンにヒットする。
「 《フレイム》 」
この魔法は見たことがある。俺もよく使うベネディック・フレイムだ。
魔力欠乏症で顔色の悪くなった皐月さんと朱莉さんを置いて楓さんは魔法を唱え続ける。
「 《フレイム》 」
「 《フレイム》 」
「 《フレイム》 」
楓さんの魔法で、生き残っていたゴブリンも全て死んだ。楓さんをみると顔色がすぐれない。魔法の連射により相当の魔力を消費したのだろう。俺がMP用のポーションを取り出すと、楓さんはそれを手で遮った。
「【拍手喝采】」
パン!
楓さんが一人で手をたたく。身体は黒い光に包まれている。
「これは?」隣の文香に質問をする。
「これも嘘松王国民だけが使えるギフト。90%の人はさっき二人が使っていた魔法強化のギフトをもって生まれて、残りの10%は魔力を回復するギフトを持つの」
楓さんの顔色が元に戻っていく。
魔力を回復するギフト。そんな強力なギフトがあったとは。
ポーションはあくまでも自然回復力を高めるものに過ぎない。
自然回復以外に生命力を回復をしたい場合は、光属性の回復魔法を使えばよい。手が生えてくるということはないが、痛みや出血は治まる。より高位の魔法をつかって時間さえかければ破壊された部位の治癒もできるが戦闘では無理だ。
生命力と違い、魔力量を回復する魔法は存在しない。ポーションで自然回復を高める以外に方法はないのだ。
この嘘松王国特有のギフトはその常識を覆すものだった。
「流石S級冒険者ですね。あんなにいたゴブリン達をこんな短時間で処理できるなんて」
俺は楓さんに話しかける。
「ありがとうございます。でも、私としては文香さんに驚きました。あれほどの魔法が打てることもそうですし、何よりもあの火力の魔法を使っても顔色が一切変わってないことが驚きです。魔法にあそこまでの火力を載せた一撃を放てば、皐月や朱莉のようにダウンしてもいいはずでしょうに」
「偶々そういうスキル構成にしているだけですよ」
文香がそう言ってごまかす。今日の文香は火力に対するスキルと、探知系のスキル、そして《ゴブリン・キラー》以外をつけていない。
「どのような方法で魔法の詠唱の短縮をしているのですか?」
「サイレント・マジックはわかりますか?」
「わかります」
スキルには魔法を無詠唱化するものがある。
「通常のサイレント・マジックの更に上位のスキルを私たちは所持していました。だからあれだけの詠唱で上位魔法も打てるのです」
「なるほど。すごいですね」
そんな話をしている内にCグループが近づいてくる。
Cグループのメンバーが皐月さんと朱莉さんにポーションを渡す。その間にファイズのメンバーはゴブリンの死体をあさり始めた。この世界では倒した敵から戦利品をもらうのは当たり前のことだ。だから俺もファイズの行動には何も思わない。
彼らは懸命に死体をあさるったが焼き尽くされた死体には何も残っていなかった。
Cグループは辺りにゴブリンが残っていないことを確認し終えると、指定されたルートに向かった。
俺たちBグループは皐月さんと朱莉さんの魔力がある程度回復するのを待ち、あらかじめ決めていたルートから地下に侵入していく。
地下にはコケ以外に光源はなく、薄暗かった。楓さんと文香が《グロウ・ファイアフライ》を唱え、視界を確保した。
薄気味悪い地下を道なりにそって進んでいく。道がゴブレイさんの制作した地図通りなのを確認し、少し安堵できた。目的地は地下最奥部の玉座の間。前回、ゴブリンロードがいた場所だ。ゴブレイさんが警戒しろと忠告してくれた何か所かのポイントを通り過ぎたが、ゴブリンはいなかった。
「不気味ですね。地下に入ってからまだ一体もゴブリンを見かけてません」
楓さんがそういった。
「他のグループがやってくれたんじゃないか?」
ラザエルが軽い感じで話す。無警戒な奴だ。腰にはロングソードが収められている。
「Aグループは反対のルートを通っているはず。そしてCグループとルートが重なるのはもう少し先の地点よ」
朱莉さんがそう答える。
「そうだったな」
ラザエルがニヤニヤしながら返事をする。
今回の作戦はゴブリンの殲滅。A、Cグループは作戦の途中、グループ内でもパーティーごとに分かれ、全ての出入り口を完全に封鎖する。
俺たちBグループは魔術師の魔力消耗を考慮して、最初に地上のゴブリンを狩ってから、玉座の間までは魔術師が極力魔法を使わなくていいような計画になっている。
物理攻撃をメインとする俺とファイズのメンバーが接近戦でゴブリンを狩り、最終決戦まで魔術師に魔法は使わせない。
言ってみれば魔術師の運搬が俺の役割。運搬なら運転手の名誉にかけて失敗するわけにはいかない。
「案外、ゴブリンロードなんて生まれて無かったんじゃないか?」
スタインが言った。
「いや、その可能性は低いかと。ゴブリンに関して膨大な知識をもち、前回自らの手でゴブリンロードを狩ったゴブレイさんが言ったんですから」
俺がそういうと、文香も口を開く。
「私も大河と同じ意見です。私たちはゴブレイさんと何度か一緒に依頼を受けましたけれど、彼のゴブリンに対する研究心はすごいものでした。いま私たちがゴブリンに遭遇していないのは何か向こうの作戦な気がします。ネオ・ゴブリンのこともありますし、警戒しておくに越したことはないでしょう」
「他のグループのルートに待ち構えているとか?他のグループが全滅なんてことがなければいいですけど」
皐月さんがさらっとそういった。
「その可能性も考慮するべきでしょうね。私たちは常に最悪の想定をしなくてはなりません。グループを3つに分けたことには、リスク分散の意味合いもあるでしょうし」
楓さんが冷静に付け加える。
俺たちは更に奥へと進んだ。
分かれ道が見えたとき、突然、先頭にいたマヒルヒマが立ち止まり、手を広げて俺たちを制止した。
「何か音がする」
「音、ですか?」
俺には何も聞こえなかったが。
スキルにセットしてある『上位探知:Lv5』も反応していない。だが、マヒルヒマさんはいま「音がする」といった。何か聴覚に関するスキルを保持していて、その範囲が俺のスキルの範囲より広いのだろう。
「どうしましょうか」
楓さんが言う。
「どちらの方向から音がしたかわかりますか?」
「そこまではわからない。だが、凄く危険な気配がする」
「そうですね......」
「3つに分かれて探索するのはどうだ?一つがここに残り、他の二つで少し進んでみる。敵を見つけたらすぐに叫んでもらって、残った人たちが駆けつける。これでどうだ?」
ザトースが意見を出した。
「2つのグループに分けましょう。一つがここに残って一つが進む。
Cグループとルートが分担されていないこの分かれ道でゴブリンを逃すわけにはいきませんので」
楓さんがそう決定する。
「それならば、俺が進もう。魔術師の方々を進ませるわけにはいかないからな。だが一人だと流石に危険かもしれない。大河くん、俺についてくるんだ」
マヒルヒマさんが提案する。
「わかりました。私も探知系のスキルもセットしてありますし我々2人が適任でしょう」
残る前衛職がラザエルだけというのは少々不安だが、それを口に出すのは失礼にあたる。不真面目そうな彼も仮にはA級の冒険者だ。
それに文香にはもしものための準備はしてもらっている。腰のレイピア自体は大したものではないが、圧倒的なステータスで放たれる《刺突》はそこらへんのA級冒険者より強い物理攻撃だ。
「君の探知スキルの精度はどれくらいのものなんだ?」
「半径20mほどの円のなかにいる敵の数がわかります。距離や方角がわかるわけではないですけど、五感に依らない感知が可能です」
「なるほど。なかなか強力じゃないか。それならば前方は君がみてくれ。後方や横穴の注意は俺がする」
俺とマヒルヒマさんは右側の分かれ道をゆくっりと歩き始めた。
『ゴブリン・キラー』で夜目はきいているが、洞窟は緩やかなカーブをえがいてて、奥を見渡すことはできない。
カツ。カツ。
何もない空間に二人の足音だけが響く。
カツ。カツ。
『上位探知』にも反応はない。
カツ。カ.......。
突然、音が消えた。
「なんだ?」
それに驚き、立ち止まる。
すると、目の前に何かが転がった。
これは、爆弾?
ピカッ!
音こそないものの、投げられた何かが強烈な光と共に爆裂した。爆風を食らった俺の身体は吹っ飛び、仰向けに倒れる。何が起こった?状況は?マヒルヒマさんは無事か?
「キャアアアアアアアア!」
叫び声がしたと思うと、直ぐに消えた。
「まずい!リーダーはやく!」
ぐさっ。
立ち上がろうとした瞬間、腹に痛みがはしる。マヒルヒマが俺の腹にナイフを刺した。刺したナイフを引き抜くと、マヒルヒマは不敵な笑いを浮かべてこういった。
「悪いな」
目の前が暗くなって、俺は倒れた。
どうやればブクマとかPtとか貰えるんですかね?一応改行とかはしてきました!




