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ネオ・ゴブリン

 今日もバビロン郊外の大樹でゴブレイさんと待ち合わせをしている。

 依頼は彼が受注してくれた。文香と談笑をしていたらほどなくしてゴブレイさんがやってきた。


「「こんにちは」」

「こんにちは。今日もよろしくお願いします」

 ゴブレイさんは口数が多い方ではない。話題を振るのはいつも俺たちの方だ。


「最近、ゴブリンの依頼が減っている気がしませんか」

「そうですね。依頼数は明らかに減っています」

「何があったんですかね?」

「わかりません。ただ、最近のゴブリンは一つの場所に大きな巣をつくるようになりました。そして罠や武器の質も上がっています。人質の扱いも以前よりひどくなっている」

「ゴブレイさん以外に私たちがゴブリンを大量に狩り始めたことが原因なんじゃないかしら」

「それはないと思います。お二人がゴブリン狩りを始める少し前から数が突発的に急増していたことは確認しています。何か裏で大きなことが起きているのかもしれません。そんな時に私以外にゴブリンを狩る者が出て来てくれたのは幸運でした」

「それならいいんですけど」

 そんな会話をしていたら今回の目的地についた。



 今回ゴブリンの巣があったのはエルフの集落付近。ゴブリンは人間以外にもエルフを襲うこともある。エルフの集落とは言ってもいつもと戦い方が変わるわけではない。ゴブリン達は穴を掘り地下に大きな生活スペースを作るからだ。

 集落の入り口には5体のゴブリン。入り口までは視界が開けているため、これ以上近づけばバレてしまうだろう。地下にいるゴブリンにまで俺たちの襲撃がばれてしまうと人質の身に危険が及ぶ可能性がある。

 魔導銃がつかえる状況なら迷わずぶっ放していただろう。魔導銃の技はナイフの技とは違って使い勝手のいいものが多かった。

 特に連射をする時などは技のモーション補正があると助かる。魔導銃の技を使用すればこのゴブリン達は遠距離から一掃できたのだが、ゴブレイさんの手前それはできない。


「どうしますか?」

「私の持ってる弓矢なら3体を同時に殺せます。その間に大河さん文香さんには魔法を撃ってもらうというのが一般的な作戦になりますが、文香さんの魔法は威力が強すぎます。それだと中にいるゴブリンに気づかれてしまう可能性があります。文香さん、一番弱い魔法であのゴブリンを仕留めることができますか?」

「多分難しいと思います。この距離で魔法の威力の調整をするのはなかなか高度なテクニックがいるので。すみません」

「いえいえ。謝らないでください。あなたの超火力はゴブリン達を一気に清掃するのに重宝しますから」

「魔法は届きませんが一つ案はあります」

「教えてください」

 文香が作戦を説明する。俺もゴブレイさんもそれに納得し実行することにした。文香の手がゴブレイさんに触れると、ゴブレイさんの身体が赤い光に包まれ消える。


「運搬されている最中の人はどんな感覚なんだろうな」

「わからないわ。悪い心地ではないらしいけれど」


 ゴブレイさんは文香がこの能力を持つことをすでに知っている。ギフトか何かだと思っているだろう。文香のこのジョブスキルは俺の『超位運搬術』が生物を運べないのと違ってありとあらゆるものを運べる。だが、唯一運べないものがある。

 それは俺だ。この原因は自身の考えにあると俺は推測している。文香にとって俺以外のものは「物」でしかないという考えがこの結果につながっているのだろう。

 文香は持っていた杖も運搬術で収納していく。そして俺は文香に手持ちのナイフを貸した。


 ナイフをたどたどしく構え文香は前進していく。ゴブリンはその姿を見つけると悪戯(いたずら)な微笑みを浮かべた。獲物が自らの足で歩いてきたと思っているのだろう。

 だが、それは違う。狩られるのはお前たちだ。

 文香がゴブリンに向けて手のひらを向ける。

 赤い光に包まれてゴブレイが出現する。

 ゴブレイは右手のショートソードで手前の2体のゴブリンの首を切り落とした。そして逃げようとする残りの3体にすかさず腰の投げナイフを投擲する。ナイフがゴブリンにヒットし、ゴブリンは倒れた。

 ゴブレイさんは中の様子を確認し、俺に合図を送った。襲撃は気が付かれていないようだ。俺は文香たちの下へ駆け寄った。集落の中を確認する。30以上のゴブリンがそこにはいた。

 半分くらいが昼寝をしていて、残りの半分はおかしな踊りをしている。ゴブレイさんはゴブリンの死体から荷物をあさる。


「ここのゴブリンのナイフも毒が塗ってありますね。最近は毒ナイフ持ちが増えてますね。お二人の対策は万全ですか?」

「俺はスキルをセットしています」

 これは嘘だ。俺のスキル欄には毒耐性系統のスキルが存在していなかった。理由は単純だ。俺に毒が効かないからだ。かかることにはかかる。しかし、数秒立てば毒が消える。この現象は文香には見られなかった。一つの仮説だが、これも右手の能力なのかもしれない。右手の血が毒を消しているような気がする。


「私は解毒魔法を覚えているので。この魔法は自分にしかかけられませんけど」

「なら大丈夫です。先に進みましょう。文香さん、範囲魔法をお願いできますか?」

 文香が左手の杖を構える。一歩踏み出せばそこは集落の内部だ。サイレント・ワールドはエリア内の音を完全に消す魔法。魔法がかかっている間は地下にいるゴブリンが襲撃に気が付くことは無い。


「《サイレント・ワールド》」

 音が消える。文香は右手の杖を取り出し魔法を詠唱する。

「《オーバーマジック・レリギアス・フレイム・ワイド》」

 紅蓮の炎がゴブリンに襲い掛かる。ワイド化された文香の魔法は地上にいたゴブリン全てを灰にした。


「素晴らしい魔法です」

 その光景にゴブレイさんが感嘆の声を漏らす。

「ありがとうございます。これが魔法職の役目なので」



 俺たちは地下への入り口を探した。10分もたたないうちにゴブレイさんが入り口を発見する。

「流石です。俺がその辺りを探した時は気がつきませんでした」

「経験の差ですかね」


 地下の入り口にトラップはなかった。その後、俺たちは順調に進み、人質のいる開けた間についた。敵の影は見えない。


「不気味だ。どうしてゴブリン達の姿が見えない」

 ゴブレイさんが言うなら間違いない。この状況は異常だ。

 広間の中には5人の女性が円を描くように吊るされている。彼女たちの服は脱がされているが、凌辱のあとはない。

 文香に目でコンタクトをとる。



A Study(シャーロック) in() Scarlet(ホームズ)』を使うべきか?


 今回『A Study(シャーロック) in() Scarlet(ホームズ)』をセットしてるのは俺だ。ギルドで聞き込みをしたところ、このスキルを所持しているという冒険者の噂は聞かなかった。

 ゴブレイさんの目の前で使うには少しリスクがある。文香が迷ったような顔をする。

 するとゴブレイさんが口を開いた。


「私は探知系スキルをセットしていますが、それにも反応はありません」


「そうですね。見張りがいないのは不可解ですが、人質は先に助けましょう。一応、念には念を入れて文香にはここで待機をしてもらいます。ゴブレイさんは手前の2人を助けてください。僕は奥の3人を助けます。それと、もう隠しておく必要もないので公言します。僕のギフトは転送です。触れた相手を転移させることができます」


「そうでしたか。では、奥の人質はお願いします」

 そういってゴブレイさんと俺は踏み出す。


 ドサ。


 鈍い音が響く。一番奥の女性の首が地面に落ちた。

「な!?」

 なにもいなかった広間にゴブリンが現れる。人質の近くにいるのは釜を持った上位種レッドキャップ。次の瞬間、他の4人の首が切られ、それも地面に転がった。笑い声と共に、目の前にゴブリンの集団が現れた。


「いつからそこにいた?」


 おかしい。この世に不可視化の魔法があるとは聞いていない。


「『A Study(シャーロック) in() Scarlet(ホームズ)』」


 超感覚により、人質の直ぐ側に穴があったことがわかった。中央に得体のしれない反応がある。だがそれにかまっている余裕はない。

 俺とゴブレイさんはすぐさま戦闘を開始する。


 俺はナイフと体術で目の前のゴブリン達を殺す。俺の近くにいたのは5体。それらはすぐに片付いた。

 ゴブレイさんの方も目の前のゴブリンは殺し切ったみたいだ。周りを確認する。すると広間の中央にいくつかの人影が現れた。

 俺は魔導銃を取り出した。

 手前の奴はわかる。ゴブリンシャーマンだ。だが、その横の2体、こんなゴブリンはいままでであったことがない。

 ホブゴブリンより身体は小さいが他のゴブリンよりは体格がよい。肌は青色をしていて、右手に剣、左手に盾を装備している。

 いや、その盾はよくみるとゴブリンの腕に同化しているようだ。そして何よりも気になるのがその目。両目の上の額には生々しいまぶたの無い大きな瞳があるのだ。

 3つの目がこちらを向く。ゴブレイさんが倒したゴブリンの武器を奪って切りかかった。

 ゴブレイさんの身体がギフト特有の黒い光に包まれ、その剣撃が不気味なゴブリンの腹にヒットする。ゴブリンは倒れない。ゴブレイさんは冷静に次の一撃の動きに入る。

 しかし、ゴブリンはそれを盾ではじき、体勢をくずしたゴブレイさんに剣を突き刺す。

 その動きのは手慣れていて不気味だ。ゴブレイさんは攻撃を受けた後、直ぐに後ろに下がりながらポーションを飲む。


「あのゴブリンは相当強いです」

 ゴブレイさんはそう言ってゴブリンの死体から武器を奪う。

「迷ってる暇はない」

 俺は魔導銃を放つ。弾は右側の青いゴブリンの顔面に命中するとゴブリンはその場に倒れ息絶えた。

 すぐさま俺はシャーマンにも弾を打ちこむ。シャーマンも同じようにして頭が吹き飛び倒れた。

 ゴブレイさんが手前の青ゴブリンに切りかかる。それと同時に俺は引き金をひく。放たれた弾はゴブリンの盾にあたりはじかれる。

 ゴブリンは死んでいない。

 ゴブレイさんは腰のポーチから黒色の小さな玉を取り出した。


「【武器よさらば】」


 ゴブレイさんの声とともに武器が現れた。

 それは2メートルはあるような大剣だ。ゴブレイさんはそれを振りかぶる。大剣は青いゴブリンの体を真っ二つにした。



 ***



 人質は助からなかった。


 洞窟の探索を終え、バビロンに戻ると、ギルドに今回の報告をした。あの青いゴブリンの存在はゴブレイさんからギルドに伝えられ、彼の今までの功績もあり、その脅威は十分に認識された。


 そして、青い個体のゴブリンはネオ・ゴブリンと言われるようになった。

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