ゴブリン・スレイヤー
新キャラ登場
後日、俺達はギルドに今回の依頼の報告と報酬をもらうため訪れた。
「倒したゴブリンは約70。それとホブゴブリンが3体。人質は1人救出。他の人間は既に殺されていた」
受付嬢が少し驚いたような顔で答える。
「ゴブリン70体にホブゴブリン3体ですか?それだとB級のレベルの依頼じゃないですか!」
やはりそうだったか。D級の依頼にホブゴブリンがいるのは極稀だと聞いていたがそれが3体もいたのだから。俺のミスだと思っていたがそうではなかった。間違った情報を入手してたわけではなかったのだ。
「そうなのか。かなり手こずったがなんとか達成できた」
「そうね。何度死にそうになったことか」
文香がフォローを入れてくれる。今死んでも戻るのは今朝になってしまうし、嘘をつくメリットもそこまでは無さそうだ。
流石にこれがAやS級レベルの難易度と言われれば死に戻りを選択しただろうが、この程度なら問題ないだろう。
ギルドから普段よりも多めの報酬を受け取る。その後は武器屋に行き新しいナイフを買った。
それから3か月後。
俺と文香は毎日ゴブリンを狩り続けB級に飛び級した。
DからBへ飛び級する程度の者なら1年に6,7人はいるというから大丈夫であろう。
俺と文香は3か月間で1000以上のゴブリンを殺し続けた。
それが条件だったのだろうか。3日前に起きたときスキル欄に新たに『ゴブリン・キラー:Lv1』が追加されていた。
効果はゴブリンに対してだけだったので、これをセットすることはないが使いようはある。他に変わったことと言えば俺の『体術:Lv5』がスキル欄からある日を境に消失したことだ。
最初はかなり焦ったが、実験してみると、スキルの効果は発動していることがわかった。仲良くなったS級冒険者から聞いたところ、この現象はスキルの吸収というらしい。ものにもよるが、長く使い続けたスキルはその使用者自身に溶け込み、スキル欄にセットしなくても効果が常時発動するという。文香も『火属性魔法強化』を吸収したといっていた。
文香は最近魔法の研究を始めた。オリジナルの魔法を作るのは難しいがやりがいがあって楽しいと言っていた。
仲良くなったS級冒険者の話をしよう。
彼の名前はゴブレイさんだ。職業は〈ゴブリン・スレイヤー〉。
ゴブリンを狩り続けることで習得できる上位職だ。この職業を習得している者は彼と他数名しかいないらしい。
ジョブ能力としては『ゴブリン・キラー』と似たような効果がある。
能力は暗闇での暗視、ゴブリンに対する防御耐性、攻撃補正など。
ちなみに彼は既に『ゴブリン・キラー』を吸収している。
ゴブレイさんは固定パーティーを組まない。理由はわからない。それについて質問をしたがはっきりした答えは得られなかった。
俺と文香は毎日ゴブリンを狩っていたから、偶に現場で彼を見かけることがあった。
最初はその怪しい風貌に他の転生者の手先だと思って警戒していたが、調べてみると本当にゴブリンを殺したいだけの冒険者であるようなので、彼がS級であるということもあって仲を深めた。何度かパーティーを組んで依頼を受けたことがある。彼のゴブリンに関する知識は非常に豊富で学ぶ点も多かった。彼の戦闘スタイルは決まっていない。いや、戦闘スタイルを決めないのが彼の戦闘スタイルというべきだろう。
ゴブレイさんは顔まで隠す兜と金属プレートの防具、それに狭いところでの攻撃に適したショートソードで巣に入る。そして最初のゴブリンを倒すとゴブリンがもっていた武器を奪い、使っていくのだ。
このやり方をするのには理由がある。それは武器が劣化するのを防ぐためではない。この世界では前の世界とは武器の劣化の仕方が違う。武器には耐久値というものがあると言われていて、それがゼロになったとき武器は壊れる。俺のナイフが使い物にならなくなったのは血でナイフが劣化したことが直接の原因ではない。血を浴びることは確かに武器の劣化を早めることではあるが、点検をすれば耐久値は回復するので単純にナイフの寿命がきただけと考えるのがよいだろう。俺がはじめてのゴブリン狩りでナイフをダメにしたのは、修理と新品を買う値段がほぼ変わらなかったのと、武器が壊れるのがどんな感じか知りたかったからだ。
閑話休題。ではなぜ彼は武器をいちいち取り換えるのか?
それは彼のギフトに理由があると思う。本人から直接聞いたわけではないが、彼のギフトは「武器の初撃を強化する能力」だと推測できる。最初の攻撃の際に武器が黒く光るためギフトがかかわっているのは確かだが、実際の能力が俺の考察と合っているかどうかの補償はない。
スキルは大体予想がつく。『ゴブリン・キラー』は本人が吸収したから除外できるとして、他に考えられるものは『上位察知』『毒耐性』『魔法耐性』などだろう。
本人の口から直接聞いたわけではないのでこれらはあくまで推測の域を出ないが、人間の知覚レベルを超えた察知力の高さは上位察知以外で説明がつくとは思えないし、毒耐性に関しては解毒ポーションを使わないことから予想が付く。
ゴブレイさんの防具は物理防御力が高いものだ。この世界では現実の兵士が着る鎧のようなものは物理防御力が高く、その代わりに魔法防御力が低いといった傾向がある。ローブのような服はそれと逆のことが言える。
ゴブリンにも様々な種類がいてゴブリンシャーマンは魔法を使ってくるし、レッドキャップは武器に魔法属性をエンチャントする。それらの対策をゴブレイさんが怠っているとは思えないし、見たところそのような攻撃を受けてもあまりダメージを受けていないようであるから魔法耐性という推測もあっているだろう。
俺たちがゴブレイさんの正確なスキル構成やギフトを知らないように、ゴブレイさんも俺たちの構成を知らない。
ギルド内では固定パーティー以外の人に能力などを聞くのはマナー違反だという風習もあるし、そもそも聞く必要性がない。恐らくゴブレイさんは俺たちのスキルを『ゴブリン・キラー』やその他、物理魔法攻撃の補正スキルだと思ってるだろう。
本当のことを言えば俺と文香がゴブリンを即死させることができるのは、それらのスキル補正のためではなく、ただ単にステータスが高いからなのだが。そんなこんなでお互い秘密はあるが、ゴブレイさんは論理的な人であるし、信頼できる人だから俺たちはいい関係が築けている。
最後に彼と話したことで一番印象的だったことを書こう。
俺がゴブリンを殺すことに対して罪悪感を得たことはないのかと質問したときのことだ。
そのときにはすでに俺の中でゴブリンを殺すことに躊躇はなかったが、ゴブレイさんはどう克服したのか興味があった。
「人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンなんです」
ゴブレイさんの結論は簡潔で明快なものだった。ゴブリンを絶対悪と決めつけ、存在を否定する。
あの現状をみたことがある今ではこの言葉に納得できる事が多い。




