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はじめてのゴブリン狩り

この話を読んでもらえば大体感じが伝わるかと思います。

こっから話がいっきに面白くなっていきます。どうぞご期待ください!

 D級になって受けられる依頼は増えた。他の冒険者との交流もできてきて、B級やA級の冒険者パーティーに加わって行動することも増えた。といってもただの荷物運びや雑魚狩り要因なのだが。もちろん運べる物の量などは偽わった。報酬も悪くなく冒険者に関するノウハウも知ることができて良い時間が過ごせたと思う。


 そして今日から文香と俺の2人で依頼を受ける。今日受ける依頼はゴブリン退治。退治といえば聞こえがいいが、正確にはゴブリン殺しだ。

 今まで俺はゴブリンを殺すことに躊躇(ためら)いがあり、この依頼を避けていた。雑魚狩りをするときに遠距離から魔法で数体を倒したことがあるが、逃げるゴブリンの背中に魔法を放つのは気持ちのいいものではなかった。

 4足歩行のモンスターを殺すのに躊躇いはなかった。だが、ゴブリンを殺そうと思うとあの怪物のやけに人間じみた腹を思い出してしまう。前世での生島を殺したこと、バビロンでの道中に怪物を殺したこと。これらは憎しみや復讐といった激しい感情に動かされてのことだった。だがゴブリンは違う。

 ゴブリンの中に優しいゴブリンがいたら、と考えた時、戸惑いを抱いてしまうのだ。しかしこれらの感情はいいものだとは必ずしも言えないと思う。

 この世界や菜々美を救うという目的に合わせて自分の中の倫理というものを見直す必要がある。転生者が善人だった場合でも俺は相手を殺さなくてはいけないから。


 今回の依頼を通じて何か得られればいいのだが。

 そんなことを考えていたら洞窟のそばについた。ゴブリンの巣の一番楽な攻略方法はその洞窟の入り口を破壊してしまうことだろう。それができたなら直接的な殺しの感覚を味わうこともない。だが今回の依頼にはさらわれた村人の救出も含まれている。ゴブリンは定期的に人里に現れては女性を連れていくのだ。基本的にゴブリンにメスはいない。超低確率でメスのゴブリンが生まれることもあるが、その場合、ゴブリンの集団は加速度的に大きくなりD級が受けられるレベルの依頼ではなくなる。

 では、どうやってゴブリンは増え続けるのか?まあ、今の説明から導かれる結論は一つだろう。ゴブリンは人間や亜人種との交配で個体を増やす。

 ゴブリンにさらわれた女性の2週間以内の生存率は約50%だという。だが元の生活に戻り再びやり直せる人はほぼいない。ゴブリンの凌辱は身体より先に精神を殺す。

 今回の依頼の人質は2日前にさらわれている。まだ助かる余地は十分にあるし、救出後のケア次第では元の生活に戻れるかもしれない。


 俺と文香は遠くから洞窟を見る。外には4体のゴブリン。拾い物なのかそれとも盗んだものなのかゴブリンたちは不格好だがしっかりと装備をしていた。周りを見渡し、俺たち以外の冒険者がいないことを確認する。腰に装備していた魔導銃を構え狙いをつける。


「右2体は俺がやる。文香は左2体を頼む。合図は俺が出す」

 文香も右手に杖を構える。

「3、2、1」


「「 《ゾルト・フレイム》 」」



 詠唱と共に魔導銃と杖から魔法陣が展開される。俺はトリガーを引く。赤い火の魔法がゴブリンたちに襲い掛かる。文香が魔法を放った左2体のゴブリンは魔法の衝突と共に燃えて死んだ。俺の撃った魔法は1体のゴブリンにしか命中しない。


「まずい」


 ゴブリンは仲間が倒れたことに気が付くと洞窟の中へ逃げようとする。すかさず俺は引き金を引いた。


 バン!


 魔導銃がゴブリンの頭に命中しゴブリンの顔面が吹き飛ぶ。隣で文香が魔法の詠唱をキャンセルした。


「どうしたの?あなたが魔法を外すなんて珍しいじゃない。まあこの距離だとそういうこともあるのね」

「いや、距離が問題なんじゃない。本当はもっと近づくこともできた。だけど近づけなかったんだ。覚悟が足りなかった」

「どうする?私一人でも多分今回の仕事は無事にこなせると思うけど」


 文香は躊躇いなくゴブリンを殺せる。俺が自分の迷いを文香に話した時、文香は複雑な表情で俺の話を聞いていた。

 前の世界でトラックだった文香にとっては人間もゴブリンも変わらないらしい。文香にとっては俺と俺以外という区別が重要だという。だからといって俺の気持ちが理解できないわけではないから、俺が躊躇う気持ちは共感はできないが認めてはくれている。

 その話をした時に俺と文香はひとつの約束をした。善良な人々の命は奪わないこと。これが俺と文香の線引きだった。

 しかしこの線引きをしてもなお俺はまだ自分自身を納得させることができなかった。そのせいでこうやって文香に迷惑までかけてしまっている。


「もう大丈夫だ。迷惑かけてすまない」

「全然気にしてないわ。気楽にいきましょう」


「あぁ」

 俺たちは洞窟の前についた。

 今回セットしているスキルは以下の5つ。


『体術:Lv5』


剣術ナイフ:Lv5』


『魔導銃:Lv5』


『射撃:Lv3』


『The Gre(グレート)at Gatsby(ギャッツビー)


『射撃』は『魔導銃』がLv3になったときスキル欄に追加してあった。効果としてはエイムに補正がかかること、連射の隙が短くなったことなどがある。

『体術』はついにカンストまでいき、ただでさえ前の世界と比べて能力が上がっていた走るだとか跳ぶだとかの動作に更に補正がかかって、人間離れした動きが可能になった。

『The Gre(グレート)at Gatsby(ギャッツビー)』 は俺の切り札だ。文香のスキル欄にも最初から存在していたスキルでもある。最初見たときいまいちどんな能力かわからず、その名前に惹かれてたまたま使用してみたのだが、とても強力なものだった

 何故この名前になってるのか。なんとなく理由はわかる。

 元ネタは明らかに前の世界での本『The Great Gatsby』だろう。アメリカの文豪F・スコット・フィッツジェラルドの代表作だ。

 このスキルは、一瞬という短い時間を華やかに散っていったギャッツビーそしてフィッツジェラルド自身の人生から連想して名付けられたものだと思う。彼らが輝いたのはほんの一瞬かもしれない。だけれどその一瞬は他の何よりも価値の濃密な時間であり、その輝きは永遠のものでもある。

 今回の依頼でも最良の結果を求めて使うかもしれない。



 文香が左手の杖を構える。


「《グロウ・ファイアフライ》」


 文香の杖から青い魔法陣が現れると、そこから8つの光の玉が出てくる。光の玉は蛍のように俺たちの周りを飛び交う。

「綺麗な魔法だ」

「私もこの魔法は結構お気に入りなの」

 俺たちは洞窟に足を踏み入れた。


「スキル、『隠密行動』」

 そういって文香がスキルを発動させる。

『隠密行動:Lv5』使用者とその周囲1mの者の気配を消すスキルだ。

 視認されるまで効果は続く。運よくいけばモンスターの真後ろまでいくことができるのは実験済みだ。一本道を歩いて行く。もう5分は歩いただろうか。


「敵の姿がないな」

「不気味ね」


 そんなことを言っていたら少し開けた場所が見えてきた。

 文香が光の玉を暗くする。闇に包まれる空間の中に何か光輝くものがある。周りに敵がいないのを確認してそれに近づいてみる。そこにあったのは不気味な飾りのついた骨の案山子(かかし)だった。案山子の頭部にあるのはイノシシのような頭蓋。案山子が羽織るマントは細かい骨でできていた。人間の指の骨みたいな小さな骨。身体のところどころが発光するコケのようなものに覆われており、暗い洞窟のなかをその案山子は気味悪く照らしている。


「この骨って」

 文香が呟く。

「多分、そうだと思う」

「これはどんな意味があるのかしら?」

「わからない。何かの祭具かもしれない。あるいは罠か。文香、光を明るくしてくれ」

 光の玉が辺りを照らす。俺は来た道の隣にもう一つの道があるのを見つける。


「やっぱりな。この不気味な祭具は罠だ。侵入者の視点をこちらに向け、後ろから襲い掛かるためのものだ。恐らくこの後ろの道が正しい道だろう」

「どうする?二手に分かれる?」

「うーん、ここでスキルを使ってもいいかもれない」

「わかった」


 文香が目を閉じ、呼吸を整える。

 このスキルを発動するには集中力が必要だ。発動するまでの間文香は無防備になってしまう。だから俺は周囲の警戒を強める。数秒間の沈黙。文香がこっちを向いて頷く。準備ができたようだ。


「『A Study(シャーロック) in() Scarlet(ホームズ)』」


 文香がスキルを発動し、目を開く。その目は緋色(ひいろ)に輝いている。

「奥の道はやっぱり行き止まりみたい。進んだ先に広間があって武装したゴブリンがいる。数は12。道中に縄のトラップが仕掛けてある。後ろのもう一つの道も途中で二手に分かれてる。左側の道の先に人質がいるのはわかる。見えるのはここまで」

「了解」

 文香が使用した『A Study(シャーロック) in() Scarlet(ホームズ)』は使用者に超感覚をもたらすスキルだ。使用者は暗闇の中だろうが森の中だろうが、一定範囲の全てのことを知覚することができる。そこで得られる情報は第六感的なものも多く、見えなくても感じたといったものも多い。

 文香が人質が後ろの道の更に左の道にいるのがわかったといったのはそういうことだろう。


「奥の道は魔法で塞いでしまおう。それから後ろの道に向かって二手に分かれよう」


「《ジオ・デュラムマジック・ナチュラルディザスター》」


 文香が魔法を唱える。土属性の最高位魔法。この魔法は地形を変える。洞窟がズズズと動き、道が完全に塞がった。


「よし、進もう」

 俺たちは後ろを向いて、右側の道へと歩き出す。ほどなくして分かれ道に着く。


「俺は人質のいる左に進む。文香はその間に右にいるゴブリンを殲滅し、終わり次第ここに戻ってきてくれ。右では派手にやってくれていい。俺の方は人質の命を最優先にして慎重にゴブリンを殺す。行動前に文香にはサイレント・ワールドを発動してもらいたい」

「わかったわ」

 文香はまた杖を構える。


「いくぞ。3、2、1」


「《サイレント・ワールド》」

 文香が魔法を詠唱した。それと同時に俺は駆け出す。文香は右の通路に向かうと魔法を唱えた。


「《オーバーマジック・レリギアス・フレイム》」


 文香が唱えのは火属性でも上位の攻撃魔法レリギアス・フレイム。その魔法は文香のスキル『火属性魔術強化:Lv5』に加えて、オーバーマジックで強化されている。

 その強烈な一撃は大広間にいたゴブリン32体全てを焼き尽くした。

 同時刻。俺の目の前にゴブリンの巣の最深部が見えてきた。文香の唱えたサイレント・ワールドはエリア内の音を30秒間完全に消す。ゴブリンはまだ俺に気がついていない。文香の放った魔法の光が巣を明るく照らし、目前の景色がはっきりする。


「《アズ・フレイム》」

 走りながら魔導銃のトリガーを引き、手前にいたゴブリンに魔法を放つ。放たれた火の玉は巣を照らす。


「『The Gre(グレート)at Gatsby(ギャッツビー)』 」


 スキル発動と共に世界がスローモーションに動き出す。『The Gre(グレート)at Gatsby(ギャッツビー)』は使用者の集中力を極限まで強化する能力。

 極限まで強化された集中力は時間の感覚さえも変える。刹那の時間が10秒以上のものになるのだ。

 そう。今は俺だけの時間。

 洞窟の内部を観察する。ゴブリンの数は24。そのうちデカいのが3体。ホブゴブリンか。人質は1人。奥の壁に(はりつけ)にされてる。人質の様子がよく見える。脚はもがれ、肌をさらけ出した状態。股からはゴブリンの体液が垂れている。その更に奥にあるのは......3人の死体。それと6つの空瓶。四肢を切りとったあとポーションを使用して止血をしたんだろう。死にたくても死ねない人質は(はら)み袋として酷使される。

 加速した思考の中で俺は決意する。

「ゴブリンは人ではない。こいつらは一人残らず殺さなきゃいけない」


 右手のナイフで手前にいたゴブリンの首元を掻き切る。と同時に左手の魔導銃で人質近くのホブゴブリンに向け弾を撃つ。そのまま続けて隣のゴブリン3体にも魔導銃を放つ。手前にいた別のゴブリンがこちらに殴りかかってくる。徐々に感覚は戻りつあるが動きはまだスローモーションにみえる。軸を少しずらし、パンチを(かわ)す体制に入る。

 その時に先ほど放った4発が全て奥のゴブリンの顔面に命中することを確認する。巨大ゴブリンの拳は空を切る。『体術』のおかげで相手の動きは手に取るようにわかる。

 俺は左手の魔導銃を宙に投げ、右手にあるナイフを相手の腕に突き立てる。空中に投げていた魔導銃を右手でキャッチしすぐさまリロード。巨大ゴブリンの脚に技をかけ、右手で押し込み転倒させる。

 そして腹に向かって2発ぶち込む。次に向かってきた3体のゴブリン達は体術でさばく。腹、顔、腹それぞれに打撃を入れればゴブリンは吹っ飛んで倒れた。

 人質までに道ができると俺はそこを走り抜け人質の身体に触れる。俺が人質に触れた瞬間、人質の身体は赤く輝き消えた。


 ジョブスキルが発動したのだ。ジョブスキルはギフトやスキル、技とは違う概念のものだ。

 文香の〈トラック〉は『超位運搬術』と似たようなジョブスキルが使える。それと同じように、俺の〈運転手〉にも能力があった。

 俺の能力は触れた者を〈トラック〉に送ること。トラックの仕事は荷物を運ぶことだが、その荷物を荷台に積むのは俺の仕事だ。


 人質を無事転送し終わると俺は残りのゴブリンに向き直った。恐らく一番楽なのは魔法を詠唱すること。『火属性魔法』をセットしてないとはいえ、オーバーマジックとレリギオス・フレイムの組み合わせを使えばここにいるゴブリンはすぐに殲滅できるだろう。

 だが、俺はその選択肢を選ばない。こいつらは自分の手で殺したい。そう思ったのは弱い自分と決別するためだ。


 12体目のゴブリンをナイフで串刺しにした後、ナイフが使いものにならなくなった。広間から3体のゴブリンが逃げだそうとしているのが見えると、そちらに向かってナイフを投げる。すぐさま右手の魔導銃で標準を合わせそれを放つ。ナイフがゴブリンに到達する前に弾は直撃し、奴らは倒れた。俺は魔導銃を腰にしまった。


 広間に残っているのはボスらしきホブゴブリンだけ。他のホブゴブリンよりも一回り大きくて、汚れてない防具、そしてロングソードをしている。

『The Gre(グレート)at Gatsby(ギャッツビー)』を発動した時、隅々まで観察をした俺にはわかる。このロングソードはあの女性の脚を切ったときに使われたものだ。

 ゴブリンが剣で突進してくる。素早い動きだが、俺には見切れる。躱しながら、相手の動きを利用して柔道の要領で巨体を地面に押し倒す。

 ロングソードを持つ手に蹴りをいれ武器を吹き飛ばす。そしてすぐさま馬乗りになり顔面にパンチを一発。

 強烈な一撃。ゴブリンは意識を失ってしまった。俺はゴブリンの上から離れロングソードを拾ってくる。

 腰のポーションを取り出し、ゴブリンに振りかける。ゴブリンの身体が緑色に光る。効果はあるようだ。魔導銃を出し、ゴブリンの両腕に一発ずつぶっ放す。

 その痛みにゴブリンは目を覚ます。よかった意識が戻ったようだ。

 俺はロングソードを構えて、そのままゴブリンの脚に突き刺した。ゴブリンがうめき声をあげる。それに構わず俺はゴブリンの脚を切断した。


「うおおおおおあああああああ」

 ゴブリンが叫ぶ。両脚を切断し終えた俺は、ゴブリンの頭部に銃を放った。


 ***


 文香のいる場所に戻る。

「お疲れさま。この子の応急手当はもう済ませました。特に問題ないはずよ」

「身体的な問題は大丈夫か。あとは精神的な問題だな」


 女性の目は虚ろいでいる。俺は女性に向かって話しかける。

「あなたを襲ったゴブリンは全て殺しました。あなたの復讐は俺が代わりにしたんです。だからあなたはゴブリンのことは忘れてください」

 そう話しかけると女性の顔は心なしかよくなったように見えた。


 生き残りがいないのを確認し、洞窟を出た。今回の依頼で失ったのはナイフ1本とポーション。たいした損害ではない。得られたものはゴブリンが持っていたロングソード、そして俺自身の決意。

 前の世界での倫理観は通用しない。弱肉強食がこの世の摂理だ。弱ければ奪われ使い捨てられるだけ。綺麗ごとを言っても仕方がない。殺さなければ救えない命もある。奥にあった3人の死体は焼いた。持ち帰るにはあまりにも無残な姿だったからだ。


「明日からはゴブリンの依頼を集中的に受けよう。報酬も高いし、奴らを生かしているのは危険だ」

「わかりました」


 こうしてはじめてのゴブリン殺しが終わった。

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