真相
4章としてはこの回がなくても成立します。
読んでもほとんど意味はないので雰囲気だけ感じてください。
全体の流れ的にはかなり重要な回(主人公が今までの伏線の真相に気がつく回)なのですが、その真相を披露するわけでもなく、ただ謎が広がります。
夜が来た。
大河と文香は須磨太郎の最高のもてなしを受けた。そしてそのまま、宿泊をした。大河の沈んでいた心もある程度は回復していた。それほどまでに素晴らしい祝宴が開かれたのだった。
高揚感に包まれながら、大河は眠りについた。
・・・・・・。
「ここは?」
大河は目を覚ますと違和感に気が付く。
隣にいた文香は大河の様子を見て、確信する。
「戻ってきたのね」
「どうやらそうらしい。だが、気がかりなことがある」
大河は周りの様子を今一度見渡してから、言った。
「俺は死に戻るような経験をした覚えがない」
大河は和の国を出て須磨太郎の施設にたどり着く道中、一度野宿をとったところに戻ってきた。
「どういうこと?」
戸惑う文香に大河は起こったことの大まかな説明をする。
「【運命を転がす女神の右手】について真剣に考えなくてはいけない時がついに来たか」
朝食を胃に流し込みながら大河は言った。それは大河の頭の底にあった大きな問題の一つだった。
「ひとまず大きく2つの場合に分けてみよう。俺のギフトとは別の要因で過去に戻ってきた場合と俺自身のギフトが要因で戻ってきた場合。可能性として高いのは後者だが、まずは前者について考察しよう」
大河はぶつぶつと話し始める。
これは大河の癖だ。思考を口に出すことで、考えを整理するだけでなく、脳に空きを作り新しい発想を促す。
こういう場合、文香は徹底して聞き役に回る。本当に有効だと思う質問以外はしてはならない。文香が考えることの大抵は大河がすでに考え、捨てていたことだからだ。頭のいい文香であっても大河の口に出すことの間には論理の飛躍があるように感じる。しかし、丁寧に大河に説明をさせてみると、その間は思いもよらない論理でつながっており、話を聞けば誰もが納得してしまうような構造になっている。
文香ができるのは聞くことと反応をすること。直感的にキーワードに感じた内容を反復すればそれが正解だった場合、大河の思考が加速するのだ。
「相手を過去に飛ばす能力?」
「そうだ。だが、それだけでは意味がない。記憶を伴ったまま相手を過去に飛ばす能力について考えなければならない。俺のギフトは俺が死んだ場合、俺のみが過去に戻る能力だ。いや、逆かもしれない。俺だけが置いてかれ世界が過去に反転する能力ともいえるな。まあ今はそれはどうでもいい。
で、だ。誰かに殺された時、殺した方が過去に戻るという能力についても考えてみたい。俺としてはそのような能力の方が凶悪なような気もする。
時間が巻き戻るならば、殺人の結果自体は残らない。だが、殺人側には記憶が残る。殺人を何度しても時が戻り、全ては無に返り、再び殺人の苦しみを味わうこととなる。
仮に精神の壊れた殺人鬼がいたとしよう。そいつがいくら人を殺しても何も感じなかったとして、人を殺すことの精神的苦痛に耐えられるのと、同じ時間を味わうことの地獄的な苦痛に耐えられるとは思えない。
最初の数回は戸惑いの中、自分に新たな能力が発現したとでも勘違いし、殺人を繰り返し続けるだろう。だが、いつか気が付く。自分が既に相手の能力の術中にはまり、永遠に同じ行動を繰り返さなければならないのだと。俺には最大の理解者である文香がいた。アンリミテッドノートブックスという繰り返す時のなかで自分が前に進んでいることを感じられる存在もあった」
文香は頷く。
「だが、それらがない者はどうなるだろうか? 常人であろうが狂人であろうが、発狂するだろう。賽の河原に状況は似ている。終わりのない苦痛。積み上げた石が全て崩れる虚しさ。時間に囚われた人間が最終的に行き着く場所は一つだ。既に精神がおかしくなった者はこう考えるだろう。自分が死ねばこの状況が終わるのではないか、と。巻き戻る時のなかで命は軽くなる。自分の命までもが無価値なものになる。
残る結果は襲う側が自殺したというものだけ。襲われる側は時間を繰り返す苦しみを味わうこともなく、相手を消せる」
「凶悪な能力ね、でも」
「あぁ。そうだ。今回の状況には当てはまらないな。この考えは捨てていいだろう。後で述べるが、そもそもの争点を考えられていない。だが、心の奥底にあった恐怖的な考えをここで吐き出したかったから話した。この考えだと、俺が殺しをした覚えがないのがおかしい。記憶を1日消して2日戻すという複雑な能力である必然性が存在しない。可能性の低いほかの考えも述べてみようか」
「どんなのがあるの?」
「過去の相手を殺すという能力。つまり現在の相手を攻撃することで過去の相手を殺すという特殊な能力とかはどうだろうか。
極論を述べればどんなに凶悪な相手でも生まれた瞬間からその強さを持ってるとは考えにく。だから、今の相手を貫通して、過去の相手を殺すという能力が成立する。
この能力により、1日前の俺が殺されて、セーブポイントが消えバグが発生し、記憶が消えるという現象と共に2つ前のセーブポイントに戻るみたいな。この話の非現実的なところは、わざわざ相手が1日前の俺を殺す必要性がないというのと、また考えとして複雑になりすぎるというのがある。
能力がシンプルである必然性はあっても、複雑である必要性はない。根拠はないが、神のような上位存在が恣意的に与えられるものがギフトではないのか? だからこの考えも捨てよう」
文香は黙って頷いた。
「そもそもの話、考えてみれば俺の能力には弱点が多数存在している。一番身近な例として毒殺というのがある」
文香は話が次の話題、最初に述べた大河のギフトによって時間が戻された可能性についての考察が始まったことに気が付くが黙って話を聞く。
「今までの経験としてわかってる俺が過去に戻れる時間は23時間。だがこの情報は関係がない。おそらくこれ以上の時間を戻ることも可能だろう。
なぜならば【運命を転がす女神の右手】の効果は時間によるのではなく、一番最近に寝て起きて表示される青いスキル欄みたところに飛ばされると考えられるからだ。
そのような仮定をした場合、一つのパラドックスが生じる。詰みと言われる状況に俺が陥った場合どのようなことが起こるのかという話だ」
「先ほども述べたように例えば毒殺。遅効性の毒に侵されたとしよう。毒が体に入ってから1週間後に何の予兆もなく死に至り、かつ絶対に解毒できないような危険な毒だ。
その毒の存在に気が付かず、俺は何度もスキル欄を見たのち、死亡する。そのような場合、最新の朝に目覚めても俺は詰んでいる状況になる。誰にもこの状況をどうすることもできない。俺が死ねば世界は巻き戻るため敵の目的も達成されないし、俺自身は死の未来から抜け出すこともできない。
ことに限って、死因が毒ならばこのパラドックスを解消するような現象はすでに観測できている。女神の血、これによって俺の身体は状態異常を受けないようになっている。
だが、毒以外ならばどうだろう。何者かに捕らえられて監禁されたのち、殺された場合。死に戻っても一切動けない状態に戻ることになる。そのような状態で生じるパラドックスを解消する方法こそがまさに能動的に戻る場合と言えるだろう」
「そうね」
程よいタイミングで文香は相槌を打つ。
「俺が死ぬ場合、その直接の原因なるものが生じるはずだ。その原因を受ける前に戻るのが本当の能力だとしたらどうだろうか。毒殺ならば1週間前に毒を受ける前日、監禁ならば敵に捕らえられる前日。これらならばパラドックスは解消できる」
「でも問題点があるのよね?」
「そうだ。この解決策には様々な問題点がある。一番大きなものとして挙げられるのは、原因が一つに特定できるのかという問題だ。
何かしらの原因が発生するためにも、おそらく原因が含まれていることだろう。毒殺ならば相手が俺を殺そうとしてきたことにも原因がなくてはならない。
そして、その原因にも原因が発生する。因果というのは連なって存在するものであるからだ。さらには、原因が一つであるとも限らない。特殊な状況で二つ以上の理由が重なり合って俺が死亡した場合、どれが問題になるのだろうか。さすがに同時に二つの原因で死ぬということはないだろうが、同時期に二つの脅威が俺に襲い掛かっている状況で、片方を処理すれば片方に殺されるという状況が起こった場合、どうすることもできなくなる」
「文香、今回の状況で異常な点は一言でいうと何だと思う?」
文香は話が徐々に確信に近づいているのがわかる。
「あなたが自分の死を自覚していなかったこと?」
文香の答えに大河は満足して頷く。
「正解だ。今回の争点となるのはどうして俺が自分の死を自覚していなったのかという問題だ。
これに対する最も簡単な答え、それは俺が寝ている間に殺されたという可能性だ。この考えは単純であるが、矛盾もなく案外正しいように思える。これが本当ならば俺がとるべき行動は一つで、寝たふりをして待てばいい。対処法がわかるならば、これについて深く考える必要はないだろう。これについては今日にでも実践してみようと思う」
「ほかの可能性は?」
「あるにはあるが、語るに値しない。ありがとう文香。今日ので大体分かった気がする。【運命を転がす女神の右手】の本当の能力が」
大河がそう断言したときの、何かが抜け落ちたようなスッキリした表情をみて、文香は確信をする。
大河は初めから全く別の問題について取り掛かっていたのだと。
思えば、今回の大河の話は彼らしくなく無駄が多かった。普段ならば初期段階で切り捨てるようなくだらない可能性の話、具体的には過去に相手を飛ばす能力や毒殺の話を交えつつ、文香のわかる程度の論理の段階で話を進めていた。
文香は無事に大きな問題が大河の中で解決されたことに喜びを感じていた。それは大河も同じだった。
文香の感じた通り、事実として大河は無駄な話をしつつ脳を刺激することによって発想を促していた。文香の相槌は大河が本当に考えていたことについて程よい進行を促した。全てのことが神がかり的な考察の下に行われ大河は一つの真理に達した。
女神の存在を自覚した大河の右手はその加護をより強めることになった。
リアルが忙しく、火曜に投稿できませんでした。すみません。
現在、すぐにコピペできるような書き溜めは5話あるのですが、また毎日投稿キャンペーンをしたいと考えており話を貯めています。
しばらくは週3のペースで投稿したいと思います。何卒よろしくお願いします。




