必然の邂逅
今回はボリューミーになっています。
「あ、やっぱりここにいた。ヒナミ、みーつけた!」
扉の先には3人の少女がいた。
彼女たちは中入る。その発言から察するにどうやら彼女たちはかくれんぼをしていたみたいだ、と大河は思う。
「ルミ、チサ、マリカ、ここは入っちゃダメっていってるでしょ」
マミは3人を叱る。
「最初に入ったのはヒナミだよ」
ルミが言った。
「それはそうだけど......」
マミはため息をついた。
「今はお客さんが来てるのよ。静かにしなきゃダメでしょう」
マミはそう言うと、大河たちに向かって小声ですみませんと言う。
「全然気にしなくて大丈夫ですよ」
大河と文香はマミに言った。
マミの言葉に初めて大河たちの存在に気が付いたというように、3人の少女が大河たちを見た。すると、一人の少女、マリカが突然震えだす。がちがちと歯を鳴らし、隣にいるチサの後ろに隠れた。
「あー、すみません。少しお待ちください」
マミは震えて動けなくなったマリカを抱えて、優しく「大丈夫、大丈夫」と囁くと、5人を外に連れ出した。
「なにか男性に対してトラウマがあるのかもしれないわね。あなたのほうをみていきなり震えだしていたわ」
文香が言った。
「そうかもしれないな」
そう言われてみれば、首に痕があったなと大河は思う。何か虐待を受けていたのかもしれないと大河は思考した。
「すみません。まだお水も出せてないですよね」
マミさんが言う。
「いえいえ。ところで、ここには何人くらいの子がいるんですか?」
「そうですね。200人くらいでしょうか。大きくなると独り立ちする子も多いんですよ。私はここで育てられたのでその恩返しにここで働くことにしたんですが」
「なるほど......」
これだけの規模の施設を経営するための財源はどこにあるのかと大河は考えた。
それから出されたメニュー表を眺める。使われている紙幣は東大陸共通のものだった。値段自体はあまり高くはない。
あくまで、カフェは慈善産業のようなものだろう。他に財源があるか、もしくは家畜や野菜などで自足自給の生活を送っているのかもしれない、と大河は思考する。
大河と文香は、オススメと書かれているレモネードを頼む。
しばらくして、レモネードが運ばれる。味は良かった。大河と文香はマミと話をする。
キャー!
突然、外から少女たちの叫び声が発せられた。大河と文香は席を立ちあがると目を見合わせた。
「大変! お姉ちゃん! 大変なの!!」
一人の少女が扉を開けて、叫ぶ。
「何があったの?」
マミが落ち着きのない様子で聞く。
「とにかく大変なの! はやく外に来て!」
少女の手にひかれマミは外に出る。
それについて大河と文香も外に出た。
外では一人の男を中心に、100人近い少女が群がっていた。
「マミ、元気にしてたか?」
その姿をみてマミは驚きを浮かべる。
「ご主人様、どうして?」
サトゥー須磨太郎は笑ながら言った。
「少し用事があってな。ついでに立ち寄ることにしたんだ」
マミは須磨太郎に抱きついた。須磨太郎はマミを抱きしめ、頭をなでる。マミは涙を流す。ナターリアとリザはその様子を優しく見守っていた。
「何も問題は起きてないか?」
しばらく、マミは泣きじゃくった。それから須磨太郎の顔を見上げて言う。
「ご主人様のバカ。来るなら来るって連絡してくださいよ」
「ごめんな。連絡用のタウベがなかったんだ」
タウベというのは伝書鳩のように用いられる極めて人間に忠実な鳥のことを言う。
須磨太郎は大河たちに視線を向ける。
「先客がいたのか。見苦しいものをみせて悪い」
「いえ。私たちこそ間が悪くて申し訳ないです」
大河は須磨太郎を観察した。
身体はあまり鍛えられていない。盾を左腕に装着し、腰に短剣を携えている。盾はよくあるような形と色をしていたが、どこか神秘的なオーラを放っていた。大河は須磨太郎から友好的な雰囲気を感じとる。しかし、それとは全く逆の、何かしらの覚悟を決めた目をしているなとも思った。
視界の広い大河は後ろの二人を直ぐに見る。
一人は鬼のようであるが、それを超越している何かを秘めていた。この金髪の女は夜叉に違いないと大河は断定し、その上で腰の長剣が一級品であることを見抜く。それから、獣人の女をみた。弓矢こそ携えていないものの、アチャーではないかと大河は思った。なぜ他の二人のように武器を持っていないのだろうと考えるが、答えはでなかった。
文香は、須磨太郎の目をみてすぐに気が付く。これは人を殺したことのある目であると。
その目は陽菜を殺した時の大河と同じ色をしていた。雰囲気は善人のようではあり、見た目では強くなさそうではあるが、何かしら底知れない力を秘めた男だと文香は思う。
須磨太郎は二人を見た瞬間、この出会いが必然のものであるということを感じる。
それには根拠がなかった。しかし、須磨太郎の第六感が、目の前の二人に対して何かしらのものを感じていた。
「どこかで会ったか?」
須磨太郎が大河に聞く。
「かもしれないですね。私もあなたに何かシンパシーを感じます。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「サイトウだ。貿易商をやってる」
須磨太郎は偽名を名乗った。それには理由があった。
かつてのいざこざでカインズに指名手配を受けている須磨太郎は、自分に非がないとしても、その名前を出すことのデメリットを受け、偽名を使うことがあった。
須磨太郎は二人を見たとき、何かしらのものを感じた。そのせいで咄嗟に偽名を名乗った。
「サイトウさんですか、聞き覚えはないですね。私たちは冒険者です。サイトウさんは冒険者をした経験は?」
大河は答える。
相手が名乗ったことに対して名乗り返さないのには意味があった。
嘘松王国4代目として二人の名は広まりつつあった。そこで相手に無駄に辟易されるのも面倒だと思い、大河は名乗らなかった。状況的にわざわざ偽名を使うほどの場面でもなかった。名乗らずに話を続けるのが最善だと大河は無意識のうちに判断を下していた。
「うーん、あるといえばあるし、ないといえばない。ギルドに所属をしたことはないな」
「そうですか。なら気のせいかもしれません」
「うーん、そうかなぁ。まあでもあなたたちとは何か運命を感じるよ。一緒に飲まないか?」
「是非」
須磨太郎の提案で大河、文香、須磨太郎、リザ、ナターリアの5人がカフェの中に入り、テーブルにつく。
「一つ、質問してもよろしいですか?」
文香が話を切り出す。
「なんだ?」
須磨太郎が言う。
「サイトウさんの仕事は本当に貿易商なんですか? そのような武装はどうしてしているのかなと」
文香は完全に警戒をしていた。目の前の3人が敵であるという最悪の可能性を既に考慮していた。
「あぁ。これか。自己防衛のためだ。何かと危険があるんだよ」
須磨太郎は澄ました顔で答える。
文香はリザとナターリアが少しだけ顔を曇らせたことを見逃さなかった。
「失礼なことをお聞きします。サイトウさん、あなたは人を殺したことがありますね?」
文香が聞く。一触即発の雰囲気に大河は魔導銃に手を触れる。いつでも『時計仕掛けのオレンジ』が使えるような準備をしていた。
「そう見えるか?」
須磨太郎が問う。空気が張り詰める。
「見えます。しかし、あなたは悪人には見えません。その矛盾に違和感を覚えたんです」
文香が本音を打ち明けた。
「そんなこと始めて言われたよ。なかなか面白い人だな」
須磨太郎が言う。その言葉によって空気が少し和んだ。大河は魔導銃から手を離す。
「じゃあ、逆にこちらから質問するぞ」
須磨太郎が言った。
「大切な人を守るために、誰かを殺せと言われた時、君たちならどうする?」
須磨太郎が二人の瞳を見て、そう問うた。
大河は目を直ぐにそむけると、目の前のコップを見つめた。
須磨太郎はその様子を見て、大河に殺しの経験があること、殺しの感覚が大河を蝕んていることを悟る。
「例えば、突然、目の前に悪魔が現れて、大切な家族を人質に取りながら君たちにこう言ったとする。
ある者を殺せ、そうすればお前の家族は助けてやろう、と。その命令を守っても、家族が絶対に救われるとは限らない。だが、その命令にすがるしか家族を助ける方法はない。
忘れてはいけないのは、殺さなくてはいけないその人が悪人とは限らないということだ。君たちが殺さなくちゃいけないその人にも大切な人、愛する人が待っているかもしれない。なのに自分の都合で人を殺しても許されるのか。
こんな状況に陥ったときに、君たちはどのような答えを選ぶんだ? 興味がある。是非聞かせてほしい」
須磨太郎の言葉は大河の心に刺さった。大河は妹の命を救うために、無罪の陽菜を殺した。その苦しみに大河は今もなお悩まされていた。
「俺には、その人を殺す勇気はない。罪を背負って生きる強さが俺にはない」
大河が呟いた。それは心からの声であった。
「なら私が全て引き受けましょう。主人の分まで私が殺します。主人とそして主人の大切な人を守るためなら喜んで私は手を汚すでしょう」
文香は澄ました顔でそう答えた。
須磨太郎はその顔を見て、その声を聴いて、驚く。
この女は本当にやる、そう須磨太郎は考えた。
「あなたは強い。俺はその決断をするのに随分と時間がかかった」
須磨太郎は文香を認めた。
「二人とも辛い経験をしてきたんだってことが俺にはわかる」
須磨太郎はしみじみと述べた。
「よかったら名前を聞きたい。これも何かの縁だ。困ったことがあれば助けよう」
須磨太郎が言う。
「川霧大河だ」
大河が言った。続いて文香も名乗る。
「川霧文香です」
その言葉を聞いて、ナターリアとリザは驚く。
「もしかして、あの嘘松王国天狐の?」
須磨太郎がフォローをする。それに続いてナターリアとリザは頷く。
「一応、そういうことになります」
大河がは二人の反応に不信を抱かずに答えた。
「それはそれは。わざわざ嘘松王国の王たる方たちが我々のところに来ていただけるなんて。
おもてなしをさせてくれ。ちょうどいい食材が揃っているんだ。よければ今夜はうちに泊まっていってくれ。最高の部屋を用意するよ」
わざわざ断るのも悪いと思い、二人は須磨太郎の提案に承諾した。
二人は須磨太郎に連れられて、寝床へ案内された。
そろそろ最後の戦いが始まりますね!
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