始動する運命
4章も佳境に入ってきます。
――ヘルヘイム帝国――
「カインズ様、準備が整いました」
玉座の間、カインズは魔導書を片手に読んでいる。エルニクスは膝をつき、カインズに状況の報告をする。
ヘルヘイム帝国は「時を駆ける獣王」の血を求めていた。
SOプロジェクト、カインズが最終目標とするそれの達成には、「時を駆ける獣王の血」と「ムーンレンズ」が必要であったからだ。
「血の回収は誰が適任だと思う?」
「ブルーローズと八目凪をここで使ってもよろしいかと」
「ほう。デラの森よりもそちら側を手厚くするのか」
ブルーローズは邪眼みゆりが率いるヴァンパイアの組織である。ヘルヘイム帝国に属する組織の中では圧倒的な機動力を持っており、大量殺戮から暗殺まで手掛ける最強のチームだ。
「幸い、須磨太郎のギフトによりデラの森同盟との戦いは先手がとれています。もし須磨太郎があの二人を殺し損ねた場合、面倒なことが起こります。それに」
「それに?」
「ハスターの動向もまだわかりません。この世界にはまだ完全に適応していないでしょうが、それでも十分な脅威になっています。彼に関しては全く予想ができません。獣王の出現に対して何かしらの反応があるかとも思います。ならば生存能力の高いヴァンパイアが適任かと」
「なるほど。わかった。お前がそう言うならば、嘘松王国にはブルーローズ、そして凪を向かわせよう。ところで」
カインズは魔導書を閉じ、エルニクスに視線を向けた。二つの穴がエルニクスを見る。
「エルニクス、お前は須磨太郎と川霧、どちらが勝つと思う?」
エルニクスは少し考えるようなそぶりをして答えた。
「川霧二人のギフトがわからない以上、断定はできません。しかし、冒険者との戦いをみて分かった通り、彼のギフトはほぼ最小限の力しか出せなくてもあれほど強力な威力を発揮していました。
カインズ様のおかげにより、弱い感情、情けや油断などは既に排除されています。今の彼は奴隷たちを救うことを最優先として動き、奴隷以外がどうなろうと気にすることは無いでしょう。
つまり、大量の巻き添えが起こる状況下でも、それが一番有利な状況だと判断すれば、戦いを仕掛けると予想されます。条件が揃い、かつ、奴隷二人の分も考慮したならば、あれを打ち勝つようなギフトは考えにくいです」
「本当に恐ろしいギフトだ。あいつの心が今くらい強ければ、みゆりと凪はあの丘で一度死亡していただろう。インスマスの作戦は失敗に終わっていた」
「今の彼を倒せそうなギフトは限られてくるはずです。例えば、他者の能力を無効化するギフト、それもリメルが持っていると思われる他者のギフトまでも無効化するような能力を彼らが持っていれば話は別です。
あとは十六夜陽菜のようなコピー能力も勝ち目はありますね。ですが、須磨太郎のギフトはああ見えて繊細なコントロールが必要だと聞いています。コピー能力を有していたとして、あの力をその場で使いこなすことは不可能でしょう」
「厳しいな。向こうに勝ち筋はあるのか?」
「これの方法以外で、正面からぶつかり合い、須磨太郎を撃破するのは理論上可能ですが、不可能と言ってよいでしょう。
まず私のギフトのように一瞬で相手の能力を見抜くギフトが彼らのうちのどちらかが有している、これが最低条件となります。それならば、須磨太郎のギフトを短時間で対処することができます。
しかし、その対処をするまでの数分の間に、最大の効果を発揮したギフトによる理不尽な攻撃がされます。それを全て受けきれる耐久力、もしくは回復力を持っている必要があります。
それを凌いだうえで、アイギスの盾を上回るほどの火力を持っており、決定的な一手を打てる何かを持ち合わせていれば彼らが勝利することもあるかもしれません」
「須磨太郎が敗北する確率は?」
「少なくとも私の未来には視えません。0.01%。文字通り、万が一といったところです」
***
――和の国周辺――
大河と文香は和の国を出て、行きとは違う道筋を選び、嘘松王国へと向かっていた。
わざわざ行きと違う道を選んだのには訳があった。将来的に、嘘松王国と和の国が同盟を組んだ場合、両国を行き来できるようなルートの確保が必要となる。その下見を兼ねて山脈を突っ切るのとは別のルートを彼らは選んだ。
少し山を迂回しつつも、直線的なルートとあまり距離は変わらないようなベストな道を彼らは進んでいく。なだらかな丘が続いていた。
和の国を出てから、既に1日が過ぎていた。夜はしっかりと睡眠をとり、二人は丘を登っていた。時間は正午である。
「文香、何かあるみたいだ」
丘の頂上につくと、大河が言った。
青々とした芝が広がり、美しい自然の景色に囲まれた丘の上には大きな木造建築の建物が並立していた。
「どうやら家畜もいるみたいだ。こんなところに何の施設だろうか」
二人はひときわ大きな家に向かった。すると、看板が見えた。『休憩所はこちら』その看板に従って大河と文香は進んだ。
カランカラン。
大河と文香が木製の扉を開けると、中はカフェテリアのようになっていた。
「ごめんください」
二人が声をかけると、カウンターの奥から女の人が出てくる。
「あ、お客さんですか! どうぞおかけください」
女は大河と文香を席に案内する。
文香は女を観察した。
長い茶髪に、整った顔、年齢は二十歳ちょうどくらいにみえる。
エプロンから出た肩には鱗なようなものが見えた。そのことからリザードマンと人間のハーフであることが伺える。
顔には少し疲労が見えるが、雰囲気はとても明るい。充実した日々を送っているのだろう。
もしかしたら、小さい子供がいるのかもしれない。文香の女の勘がそう言っていた。
「ここはどのような場所なんですか?」
大河が女に質問する。
「孤児院です。身寄りのない子供たちを育ててるんです」
女がそう言うと、部屋の奥から泣き声がした。そして一人の少女が出てくる。
「マミお姉ちゃん、ヒナミが意地悪するぅ」
少女は泣きながらマミに抱きつく。
マミは少女の背中をさする。また奥から一人の少女が出てくる。
「マミお姉ちゃん、違うよ。悪いのはメイのほうなんだって」
ヒナミがマミに言った。
「何があったの?」
「私がみんなでお外で遊ぼうって言ってるのに、メイだけ部屋で人形さんごっこするっていうんだもん」
「それで無理矢理外に連れ出したの?」
「違うよ。最初はみんなで遊んでたけど、やっぱりかわいそうだと思って、外に引っ張り出したんだよ。そしてたらメイがいきなり泣き出してお姉ちゃんのところに行っちゃたんだ」
「ヒナミの言いたいこともわかるけど、メイの気持ちも考えてあげなきゃ。メイは自分のやりたいときに好きなことをしたいのよ。ヒナミだってそういう時あるでしょ」
マミは優しく諭すように言った。
「うーん、そうかもしれない。メイ、ごめんね」
ヒナミは素直にメイに現れる。
カランカラン。
すると、扉が開き、鈴が鳴った。
次回の投稿は明日です。
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