和の国との舌戦
政略的要素が強い回です。嵐の前の静けさ。そろそろ戦闘が控えています。
和の国に戻り俺たちは報告をした。ここでの生活のサポートをしてくれた彩音に煉獄の性能を見せ、証人になってもらう。
「ご苦労様でした」
彩音はそう言ったあと、政府の人間に通信を送る。事前の交渉通り、煉獄は俺たちが和の国から譲り受ける形になる。
その日の夜、俺と文香は和の国の森にいた。まだやるべきことは残っていた。
「『桜の樹の下では』」
初めてこのスキルを使ったときよりもずっと軽い気持ちでトリガーを引く。
弾がめり込んだ地面から双葉が顔を出す。地獄から栄養を吸収しながら、若葉は成長をし、満開の桜が出来上がる。和の国に生まれた夜桜は、月の光を浴びながら、妖しくその香を放っていた。
地面からはアインツが這い上がる。
「お前の持っている情報を俺に伝えろ」
アンデットに対する強制的な命令で、俺はアインツから情報を入手した。スキルの副作用、正確に言えば死霊術の非万能性から、アインツの記憶はところどころ欠損していた。
しかし、煉獄や緋の目を入手した大雑把な経緯、「神」と呼ばれる存在の大体の人物像など、最低限必要なヒントは得られたと思う。バラバラのヒントを繋ぎ合わせ、足りない部分を推測し、理性をもって論を通し、真実を求めるという作業は俺の得意とする分野だ。
引き金を引けとさえ命令できない貧弱な俺の脳は、こういうときにだけ活躍をするのだから笑える。
アインツの話や今までの資料から、和の国と旧ザルバド王国の状況はそのどちらの国のトップよりも客観的に正確な分析をすることができた。
今回の遠征の成果として、その手間を超えるだけのものは得られたと言ってよいだろう。
「一つ質問がある。お前は自分が王位に就くために何人を殺したんだ?」
「覚えていない。が、直接手を加えてない者も含めれば1000はゆうに超すだろう」
「罪のない者にも手を掛けたのか?」
「殺した人の中には崇高な目的を持つ賢いやつがいた。馬鹿だか誰にでも優しいやつもいた。虫を殺したこともないような純粋なやつもいた。
弱者を救いたいと常に言い、それにかなった振る舞いを貫き通したやつもいた。肉親や部下、敵や味方に関係なく、目的の邪魔になると判断した者全てを俺は排除した。害を取り除くための消極的な殺しだけでなく、己の力を誇示し、アピールするためだけの、見せしめの殺しも実行した」
「お前の良心は痛まなかったのか?」
「そんなものは微塵も感じなかった。最初に殺しをした時、あまりのあっけなさに驚いたよ」
「そうか。もういいぞ」
そう言うと、アインツは魂が抜けたようにその場に倒れた。夜桜の急激な枯れと共に、アインズの身体はボロボロになり、土へとかえっていった。
「天叢雲剣についての情報は得られなかったわね」
文香が言う。
「そうだな。それについては別の存在が関わっていたのだろう。その正体まではわからないにしても、旧ザルバド王国が関わっていなというだけで十分な情報だ」
厳重に管理された武器を盗むなんて芸当をできるのは、転生者かそれに近い存在以外にあるまい。一番怪しいのは積極的に異世界の戦力をかき集めるカインズだが、必ずしもそうであるとは限らない。
ここら辺の事情は今すぐに調べる必要はないだろう。何かの節にヒントがつかめればそれを追えばいい。
俺と文香は得た情報の全てを彩音に伝えた。それから3日後、孝行に連れられ、和の国の中心部へと行く。公にはできない会談が始まった。
会談の内容は、俺たちの成した仕事の報酬についてだった。
俺たちはアインツを殺害し、煉獄を手に入れた。その上で天叢雲剣の件に旧ザルバド王国が一切かかわっていないという情報を手に入れた。
これらの成果に対して和の国は懐疑的だった。約束していたはずの刀の技術について少し揉め始めた。
そうなった理由は単純だった。たった二人の人間にそんなことが可能なのかという疑問を彼らは持ったのだ。
口には出さないものの、全て俺たちが最初から仕組んだものではないかと彼らは考えていた。
その考えは元々和の国のトップによって出されたものだが、孝行と幸恵に伝えられ、彼らは疑いを持ったまま俺たちと会談を臨んだ。
彼らの考えは理解できなくない。
もし、俺と文香が本当に人の理を外れるような力の持ち主ならば、わざわざ取引という形で和の国と対等な関係を結ぶ必要はない。圧倒的な力で支配すればいいと、誰しもが思うだろう。
だが、こちらにも事情がある。彼らに対して言えるはずもないことではあるが、一番の理由としては、嘘松王国の自立を促すというものがある。
俺と文香は自らの目標を達成するため、いずれ国を去らなければない。その時に嘘松王国は自分の身を自分で守らなければいけなくなる。
そのためには、今回の仕事を通じて得られる新たな武力で戦力の底上げをするだけでなく、他国と友好な関係を築き、同盟を組む必要がある。
だからこそ、地味な方法ではあるが、俺と文香は今回のような方法を選んだ。無論、そうした理由は他にもあって、それらは彼らに伝えるべきだろう。
「では、こちらの事情を話しましょう」
俺は立ち合がる。
「あなたたちと対等な話し合いをしているには訳がありました。きっかけは幸恵さん、あなたのギフトにあります」
そういうと幸恵は驚く。
「あなたのギフトは精神操作系の能力を無効にするもの、違いますか?」
孝行は目を見開く。
「私は確かに、そのようなスキルを所持しています。しかし、幸恵さんがいる限りそれが発動できない。
勿論、解決策はあります。しかし、今後に向けて他国との交渉術を身に着けておきたいという気持ちもありましたし、自ら他国に向かうことで得られる情報もあると考え、今回は平和的解決を目指しました。
それに、和の国とは仲良くしておきたい。以前提携した経済協定以上のもの、軍事同盟もいずれ結びたいという思いもあります」
俺の手に煉獄が具現化する。
「武器を構えてください。戦えるものは全員」
部屋にいた4人の武士と、孝行が武器を構える。
「『The Great Gatsby』」
俺は素早く、5人の刀を煉獄で切り付ける。バターを割くように刀は切れた。
そしてそのまま、幸恵の背後に周り、首元に煉獄を与える。
ぽとり。
一斉に刀が落ちる音が響く。
唖然としている孝行の前で、俺は煉獄をしまう。
「幸恵さんを殺すのは簡単です。殺してから、あなたたちを洗脳するのが最善手ではありました。
しかし、私はその手段は選びませんでした。なぜなら平和的解決を望んでいるからです。私は生身の人間です。
自らの最大の利益を臨んで人を殺すという選択をとるほど狂ってはいません。協力し合い、穏便に事を済ませたい。
それは個人間だけでなく、国家間としてもです。ご理解いただけましたか?」
弱肉強食のこの世界で、圧倒的に差のある者同士が、手を組むメリットは論理的に考えれば存在しない。
強者が弱者を食らい、力を蓄えればいいだけの話だからだ。だが、俺はそこに感情をもちこんだ。感情によってそのような状況もあり得ると説得した。
ただし、ただの説得ではない。あくまでこちらが手を差し伸べているのだということを示し、相手に僅かな恐怖を植え付けながらも、あくまで平和的に話が終わるようにした。
具体的に言えば、こちらのしたことが全て真実であるということを証明するために、力を見せつけ、その上で笑顔で畳みかけた。
こうした行動に対して、孝行は、否、和の国は屈した。
我々の差し伸べる手にすがるしかなかった。
ただの恐怖で縛るのではなく、ある程度の緊張を保ちつつも、フラットな関係を結ぶ。国家情勢のコントロールも、知識を備えたのち少し頭を使えば簡単なことだった。
無事に交渉は終わり、俺たちは和の国を後にした。
一仕事を終えた満足感と、これからも頑張らなくてはというやる気がそこにはあった。
だが、俺は気が付いていなかった。これからの未来に絶望が待ち構えていることに。
次回の更新は土曜日です。
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