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殺人の耐えられない重さ

主人公がもどかしい回です。3章からずっとPTSDに心を痛めてますが、この姿が見られるのもあと少しです......。









 

「というわけだ」

 俺は文香に一部始終を説明する。


「そう......」

 文香は悲し気に顔を伏せる。


「根本的に作戦を組み替えなければいけない。緋の目は完璧な能力だ。たとえ瞼を閉じていても周囲の状況は読み取られる。7人の王子のうち一人はアインツの寝込みを襲ったが、部屋に入る段階で気が付かれ、殺されたそうだ」


「ねぇあなた、気が付いているんでしょう? 自分が最善の選択から目をそらしているのに」


「・・・・・・」


 文香の言う通りだった。アインツに殺されて、情報を整理した瞬間、文香と同じ考えが浮かんだ。だが俺はそれに気が付かないふりをし、避けていた。


「あなたができないなら私がやるわ。別に私は何も感じないから。何よりもあなたが苦しむ姿を私は見たくない」


「でも」


「いいのよ。あなたはもう十分仕事をした。あなたが情報をくれたおかげで目標が達成できる。実行するのは私でいい」


 いいのか? 文香だけに罪を背負わせることにはならないのか?

 文香が人を殺しても何も感じないというのは俺を助けるための嘘ではない。これは長年文香といる俺にはわかる。

 だが、文香が今後そのことに罪を感じないという保証はない。今の文香はトラックではない。人間なんだ。文香に罪を背負わせるくらいなら、俺は自分の手で!



「うっ!」


 頭の中でまたあの光景がフラッシュバックする。ゴブレイさんを殺した時のあの感覚。陽菜さんを殺した時のあの引き金の重さ。



 文香が黙ったまま俺を抱き寄せる。俺はしばらく文香の中に包まれる。


「あなたはよくやってくれているわ。偶には私に任せて」


 文香の優しい声は俺の心を癒してくれる。文香の甘い匂いは俺の思考を溶かしてくれる。文香は俺の腰から魔導銃をそっと抜き取る。俺は文香に抱きついたまま動かなかった。



 ***


 俺と文香はできるだけ同じ行動をする。特に変なことをしなければ基本的には前の世界と同じ状況が生まれるはずだが、最大限の努力をする。


 戴冠式に参加し、アインツに見られる。それから、俺たちは城の中へと潜入する。


「ここね」

 文香が先頭に立ち、扉の前まで進む。


「《サイレント・ワールド》」

 俺が魔法を発動させた瞬間、文香が中へと突入する。


 アインツはこちらに向けて武器を構えていた。

「『The Gre(グレート)at Gatsby(ギャッツビー)』」

 文香がスキルを発動する。


 アインツが文香に切りかかる。しかし、文香のスピードにはついていけない。


「【輪廻転生】『武器よさらば』」

 文香がギフトを使用し、ゴブレイさんのギフトを利用する。文香の両手に付けたグローブが黒く輝く。


「《ツィトローネ・エクスプロージョン》」

 アインツの攻撃が文香に到達する前に、その身体に紫色の光線が当たる。


 ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。


 アインツの身体は歪に膨れ上がる。


 ボン!


 シャンパンの栓を抜くような音がして、アインツの身体は一瞬にしてこの世から消失した。

 文香の新しく開発した魔法、それは『檸檬』を応用したものだった。『檸檬』のように広範囲に攻撃することはできないが、使用するための魔力を抑えることができる。

『檸檬』は1割以上の魔力が残っているという条件の下、1%の魔力を残してスキルを発動するというものだったが、今回の魔法では文香にとって1割の魔力消費で一人の対象に対して同じ効果が期待できた。

 スキル欄を抑えるという役割も果たすことができる、非常にすぐれた魔法だ。しかし、使うには妖狐の尻尾レベルの高度な魔法触媒が必要で、文香はゴブレイさんのギフトでそれを応用していた。


 文香が煉獄に触れると、煉獄は消える。


 俺は『存在の耐えられない軽さ』を発動し、文香も透明化する。ミッションは終わった。あとは『桜の樹の下には』を使って、アインツから情報を引き出せばいい。



 俺たちはザルバド王国を後にした。








ネーミングに迷ったらドイツ語に頼ってます。


次回更新は木曜になります。

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