敗者復活戦-5 決着
須磨太郎が走り出した時、ボネルフェルトはしまったと思った。最初の宣言も1対1だと誤認させることで、仲間の方へ注意を向けさせない意図があった。
重装備のボネルフェルトは後から追いかけても間に合わない。須磨太郎と自分の位置の管理は怠っていなかったが、ボネルフェルトでさえコントロールできない戦闘中の些細なズレが、須磨太郎をルイーゼたちに近づけてしまうという結果を生み出した。無論、それは須磨太郎のギフトが二人の戦闘に与えた結果の一つであった。
須磨太郎は興奮していた。自分がこれまでの自分とは違うことに気が付いたからだ。ある違和感が彼を襲った。だが、その違和感は解釈される前に興奮によってかき消されてしまった。
そのことが再び戦況を変えることとなる。
須磨太郎が感じた違和感はこうだ。
集団の先頭にいたのは魔術師のルイーゼだった。魔術師は近距離戦闘が強くはない。それなのにもかかわらず、彼女をかばう近距離戦闘員が誰も出てこないのだった。
ルイーゼは平然とそこに立っていた。須磨太郎がボネルフェルトとの戦闘を離脱して自分たちの下へ走ってくる様子をみて彼女はただ杖を構えた。
ルイーゼがボネルフェルトに一瞥を送り、頷く。それを見てボネルフェルトも無表情で頷いた。彼らは既に覚悟を決めていた。
命を失ったとしても勝てば問題はない。簡単なルールだが、それを理解しても命を自ら投げ出せる者は多くはない。
だからこそ冒険者たちはボネルフェルトのカリスマにおぼれることで死への恐怖を無くしてた。しかし、ボネルフェルトとルイーゼは自らの意思でその恐怖に打ち勝っていた。
須磨太郎との距離10m。ルイーゼは自らの命と引き換えに、禁術を発動した。
「『氷の宮殿』」
広間全体に冷気が走る。部屋にはブリザードが舞う。
須磨太郎の動きが止まる。広間全体の床が一瞬で氷張りになる。須磨太郎の足は既に地面と一体となり凍り、その場に固められていた。須磨太郎を包む氷は急速に須磨太郎の身体を覆う。絶対零度の世界において須磨太郎は無力だった。須磨太郎の身体が完全に氷漬けになると、ルイーゼはその場に倒れた。既に心臓は止まっていた。
うおおおおおおおおおおおお!!!!
歓声が上がる。冒険者たちは勝利に雄たけびをあげた。ボネルフェルトはルイーゼに駆け寄りその身体を抱え上げた。死後直後にも関わらずその身体は冷たかった。
「ほう。意外な結末だな」
カインズが言う。
「そうですね。私としては少し残念でした。ギフトありとはいえ、命と引き換えに禁術を使ってくるとは。でも得られたものはありました。あの二人の冒険者のスキルは是非研究したい」
エルニクスが言う。
「そんな......嘘ですよね?」
ナターリアが崩れ落ちる。
「ありえない。私たちの須磨太郎様が負けるなんて」
リザは現実を受け入れる余裕がなかった。
ボネルフェルトは熱狂する集団を鎮めると、カインズの方を見上げた。
「勝負は終わった。約束通り、仲間を蘇らせてくれ。それと俺たちをここから解放しろ」
「あぁ。無論、約束は守る。だが、お前のスキルに興味が沸いた。他の者は今日中にでも解放しよう。しかし、お前とお前の女はあと1か月間だけ滞在してくれ。 悪いようにはしない。最高の持てなしをするし、1か月後には莫大な報酬も与え解放すると約束しよう」
「それでいい。ありがとう」
ボネルフェルトが礼を述べたとき、冒険者の一人が、「あ!」と声を漏らす。
広間にいた者は全員、冒険者の指さした方向を見る。
そこには氷漬けにされた須磨太郎がいた。だが、よく見ると、氷は徐々に溶け始めていた。
「バカな!」
ボネルフェルトが声をあげる。
その間にも、氷は溶け、完全に自由になった須磨太郎が前のめりに倒れる。その身体は燃えていた。赤黒い地獄の業火が須磨太郎を包んでいた。
「アアアアァァァ!!」
須磨太郎がうめき声を叫ぶ。
炎の熱はボネルフェルト達にも伝わっていた。須磨太郎は炎に焼かれ続けながらのたうち回る。
「「須磨太郎様!!!」」
奴隷たちが声をあげる。
その声を聞くと、須磨太郎の動きが止まった。身体を包んでいた炎が徐々に収まる。
「はっはは!! うあはっははは!!」
上向けになりながら、須磨太郎は狂ったように笑った。ボネルフェルト達は騒然としていた。
須磨太郎はひとしきり笑ったあと、地面から起き上がる。
「流石に今回ばかりは死んだと思った」
須磨太郎は邪悪な笑みを浮かべる。
「でも、俺は生きている」
ボネルフェルトは困惑していた。ルイーゼの命と引き換えに発動されたスキルは確実に須磨太郎を殺したはずだった。絶対に溶けない氷に須磨太郎は閉じ込められたはずだった。しかし、まだ生きていた。その事実に辟易する。
「『地獄変』ですか。条件は揃っていないため中途半端に発動したものの効果はあった。恐らく丘の上でカインズ様に二人が殺されたところを思い出し、それをトリガーに発動させたのでしょう」
エルニクスが冷静な分析を加える。
「なるほどな。面白い」
カインズは再び席に戻る。
「化け物だ......」
「不死身、なのか?」
「殺される!」
冒険者の間に明らかな動揺が走る。
ボネルフェルトは一歩踏み出すと、努めて冷静な声で言った。
「何を怖気づいている? あいつが生きていたところでこちらが有利なのは変わりがない。奴の魔力はすぐに底を尽きる。我々の勝利は揺るがない!」
ボネルフェルトの鼓舞に冒険者は再び戦意を取り戻す。
地面に落ちていた短剣を拾うと須磨太郎はこう言った。
「いいね。その通りだ。俺の魔力は残り少ない。長期戦に持ち込まれたら勝ち目は薄い」
須磨太郎は武器を構える。
「そうだな。もう力を温存している余裕もない。いいだろう。俺の本気を見せてやる。3分で全て終わらせる」
冒険者たちは一斉に広がる。数の力で圧倒するために、誰が最初に攻撃されても四方で他の者が囲めるような陣形を取る。
「俺には守らなくちゃいけないものがある。そのために殺さなくちゃいけない奴がいる。悪いがお前たちにはここで死んでもらう」
周囲の陣形が完全に固まったのを確認して、ボネルフェルトが先攻を仕掛ける。須磨太郎目がけて全力の突進をする。
それと同時に、阿吽の呼吸で冒険者たちは魔法と矢を放つ。20以上の攻撃が須磨太郎を包んだ。
「『The Great Gatsby』、『A Study in Scarlet』」
時空が歪む。スローモーションの世界で、須磨太郎は全ての攻撃を認識する。時間と空間。この二つは既に須磨太郎のものになっていた。
ゆっくりと突き出される薙刀を須磨太郎はすり抜ける。
馬鹿みたいに停止した冒険者たちの中に入ると、短剣で一人一人を殺していく。
神速の攻撃が冒険者たちの急所を確実に捉えていった。冒険者たちが須磨太郎が既に消えた場所に視線を移したとき、背後に回った須磨太郎がその首元を切り裂いていた。
徐々に時間間隔が戻っていく。しかし、緋の目は途切れていない。須磨太郎に複数人の冒険者が襲い掛かった。須磨太郎は最短距離そして最低限の動きで彼らを葬った。
ボネルフェルト以外の冒険者は成す術もなく須磨太郎に殺された。
須磨太郎の背後から怒りに燃えたボネルフェルトが襲い掛かる。
だが、緋の目はそれを完全に感知していた。紙一重の間隔で須磨太郎はそれを躱す。
「貴様ぁぁ!!!」
ボネルフェルトが全力の攻撃を放つ。須磨太郎はそれを躱し、時には盾によってはじき、距離を詰める。
ギリギリまで須磨太郎が近づくと、ボネルフェルトの一撃が須磨太郎の腹部に突き刺さる。しかし、怯まない。
「終わりだ」
須磨太郎がボネルフェルトを切る。ばたり。ボネルフェルトはその場に倒れた。
パチパチパチパチ。
カインズとエルニクスが拍手を送る。
「見事だ須磨太郎。楽しいものをみさせてもらった。今のお前なら川霧たちを殺せるだろう」
カインズはそれだけ言うと、大広間を後にする。
「見事でした。私からも称賛を言わせてもらいたい。本当に素晴らしい戦いだった」
エルニクスが言う。
「ありがとう。自信が付いたよ。今の俺は負ける気がしない」
敗者復活戦は須磨太郎の勝利に終わった。
次回は土曜更新です。主人公視点に戻ります!
ブクマ、評価、感想、レビューなど頂けると嬉しいです!!!!




