敗者復活戦-4 1対1
歩きながらボネルフェルトは考えていた。
驚異的な再生力。予測不可能変形と圧倒的に強固な盾。雷属性の鋭利な短剣。そして遠距離攻撃を被弾しない謎の能力。動きから戦闘慣れはしていないのがわかる。だが、基礎はしっかり固めてあり、隙を見逃すことはない。
致命傷といえるものはルイーゼの魔法くらいで、その傷でさえも今では残っていない。魔法の攻撃に対応しきれなくなった時、壁を早々と展開しなかったのは魔力量は多くないからか。
致命傷を避ける技術はあっても、全ての攻撃が外れたわけではない。相手は絶対無敵なんかではない。消耗戦に持ち込めば確実に勝利できる。
これらのことを考えた後、ボネルフェルトは薙刀を構える。
二人の距離は5m。
ボネルフェルトが口を開いた。
「どちらが勝っても恨みっこはなしにしよう。正々堂々戦いたい」
こう話しかけたのにはある意図があった。
須磨太郎は無表情のままいう。
「悪くない話だ」
須磨太郎がその場でジャンプをする。脱力していたが、ボネルフェルトはその動きに危険を感じ取った。
シュバ!
2回目の着地を終えた須磨太郎がボネルフェルトの背後に回る。ボネルフェルトは薙刀の柄でそれを払いのける。不意打ちをするつもりが逆に攻撃された須磨太郎は尻もちをつく。ボネルフェルトは薙刀を突き刺す。
8連撃。素早い攻撃が須磨太郎を襲う。しかし、アイギスの盾は全ての攻撃を防いだ。須磨太郎は自身の腹に麒麟を突き刺す。したたり落ちる血で印を作る。
「『アイアン・メイデン』」
須磨太郎が切り札の一つを使う。血と魔力を対価に発動するアクティブスキル。須磨太郎は早期決着を狙っていた。ボネルフェルトの背後に鉄の檻が現れる。鉄の頭頂部には冷酷な女の顔。かつて処刑に使われていたそれの扉が開く。中には長い針が獲物を待ち構えていた。
ボネルフェルトは回避をする。だが、須磨太郎のターンは終わらない。
「《チェイン・ロック》」
地面から壁が出て来てボネルフェルトをめがけて鎖が放たれる。アイアン・メイデンからも鎖は伸び、ボネルフェルトを追いかける。
「《フロスト・ウォール》」
ルイーゼの援護により、攻撃は回避される。だが、須磨太郎が距離を詰めてくる。
素早い須磨太郎の攻撃。50cmという距離は短剣の間合いだった。ボネルフェルトは追いかけて来る鎖の処理と須磨太郎の攻撃の受け流しに耐えかねて、後手に回る。
「破ぁ!」
ボネルフェルトの放った大きな薙ぎ払いは、須磨太郎の脚を深くえぐった。須磨太郎は後ろに回避する。ボネルフェルトはチャンスを流すまいと距離を詰める。だが、それは悪手だった。アイアン・メイデンから放たれた鎖の一本がボネルフェルトの足首を捉えた。鎖を断ち切ろうと薙刀を振り下ろそうとした瞬間、手首にも鎖が巻き付く。
ギギギギ。
鈍い機械音と共に、鎖は巻き戻る。アイアン・メイデンの中にボネルフェルトは成す術もなく取り込まれる。麒麟を腰の鞘にしまった須磨太郎が両手を合わせる。それと同時に、鉄の檻は閉じる。
バタン。
静かにしまった扉からは血が流れだしてくる。須磨太郎はその光景を見ると、後ろを振り向き、残っているルイーゼたちの方を見た。
パタリ。
冒険者の一人が、倒れる。
余りの恐怖に気絶したのだろうと須磨太郎は考える。しかし、それは違った。
ギギギギ。
異音を聞いて、須磨太郎が振り向く。アイアン・メイデンの扉が徐々に開かれていく。中からは無傷のボネルフェルトが出てきた。
「仲間の命と引き換えにダメージを受け流す能力か。凶悪だな」
須磨太郎は腰から麒麟を引き抜く。
ボネルフェルトは落ちていた自分の薙刀を回収する。
須磨太郎はその隙をみて、一気に距離を詰める。が、目の前に氷の壁ができる。ルイーゼが魔法を使ったのだ。須磨太郎は壁にぶつかる前に立ち止まった。ボネルフェルトは立ち上がると直ぐに勢いをつけて、刺突を繰り出してきた。その攻撃は氷の壁を貫通した。
グサリ。
須磨太郎の腹部に薙刀が刺さる。刺さったところから徐々に氷が広がる。
ルイーゼの作った氷の壁はフェイクだった。あらかじめ薄く作られた壁をボネルフェルトは突き破り、そのまま須磨太郎を捉えたのだった。須磨太郎は盾を炎の形に変形させる。身体の氷が溶け始めると体に自由ができる。須磨太郎は後ろに回避した。
二人の間に距離ができた。約3m。これは薙刀の間合いだった。内臓を負傷した須磨太郎は素早く動けない。ボネルフェルトのターンが始まった。
重たい金属音が広間に響く。
ボネルフェルトの重厚な一撃一撃を須磨太郎は盾で防ぐ。腹の傷は徐々に塞いでいったが、須磨太郎が押され気味なのは変わらなかった。
距離を詰めようとした瞬間、ボネルフェルトは須磨太郎に攻撃を放つ。素早い突きと、重たい薙ぎ払い。癖のないバリエーションに富んだ各種の攻撃。
ボネルフェルトには隙というものがなかった。3mという間合いは須磨太郎にとっては圧倒的に不利なものだった。状況を打開するために技や魔法を使いたくてもそれはできない。
先ほどの『アイアン・メイデン』は須磨太郎にとって大量の魔力を消費するものだった。残っていたのは最悪の場合に備えて最低限キープしておきたい魔力量のみであり、それらを使用して最後の切り札を切ったとして、ボネルフェルトを完全に仕留められるかは微妙であった。
徐々に須磨太郎にダメージが蓄積していく。ボネルフェルトの攻撃は当たるたびに追加効果として須磨太郎に氷属性のダメージを与えていた。それらの蓄積は須磨太郎の再生力を上回り始めていた。
須磨太郎は戦略を変更し、守りから攻めに転じた。
ボネルフェルトの攻撃が繰り出されると同時に須磨太郎も攻撃を放つ。ボネルフェルトの攻撃は逸れ、須磨太郎の攻撃が当たる。ボネルフェルトの反撃が繰り出されるが、それと同時に須磨太郎も攻撃を放っていた。
須磨太郎の肩に攻撃が刺さるが、ボネルフェルトの手にも深い傷ができる。両者の傷はすぐに再生される。
実力的に言えば、ボネルフェルトが圧倒していた。しかし、須磨太郎のギフトがその力の差を埋めていた。
戦いにおける強者とは相手の動きを直ぐに分析し、癖を見抜き、相手の動きを予測して、自分の動きを決めることができる。
そのためには予備動作に注目するというのが必須の技術となる。予備動作をみて直ぐに有効なカウンターの攻撃に移れる者は理論上、1対1の状況に置いて負けることはない。
これはボネルフェルトが歴戦の中で脳ではなく身体で理解した理論であり、その観察眼は何度も彼を勝利に導いた技術であった。
だが、須磨太郎のギフトはそれらを上回る。
予備動作を見なくとも、須磨太郎は次の攻撃に移り始めていた。そして、その攻撃は図らずも有効なカウンターとなった。
それらの結果は言うまでもなく、須磨太郎の運に関わるギフトによって引き起こされていた。しかし、とはいっても危険がゼロになるわけではなかった。ボネルフェルトの放つ攻撃も当たるには当たるのだ。
須磨太郎の決死の攻撃は防戦一方だった状況を変えたが、それは不利な戦いが再びイーブンなものに戻るという意味しかもたなかった。
須磨太郎の異様な動きを察知したボネルフェルトは攻撃のペースを落とし、再び消耗戦に持ち込もうと戦闘スタイルをすぐに変更した。
須磨太郎の勢いのある攻撃は何度かボネルフェルトに致命傷を与えた。が、その傷はすぐに再生した。須磨太郎の動きの癖をほとんど理解し始めたボネルフェルトの攻撃は明確に弱点をつくものへと変わっていった。
いずれ殺される、そんな言葉が須磨太郎の頭によぎる。
ボネルフェルトの方はまだまだ余裕の表情をしていた。だが、内心では焦りがあった。
あれに気づかれた時、状況は再び大きく変わってしまう、その思いがボネルフェルトの攻撃を少しだけ早めていた。
須磨太郎が、その事実に気が付いたのは偶然だった。今までの人を殺したことのない彼ならば絶対に気が付くことのないことだった。
そのシンプルな答えは彼に希望を与えた。その事に何故いままで気が付かなかったのだろうという思いが起き上がってきた。
ボネルフェルトの攻撃が須磨太郎に放たれる。
須磨太郎は盾を前に突き出し、パリィする。薙刀が逸れた隙に大きな一撃を放つ構えをすると、消耗戦にシフトしたボネルフェルトは堅実に後ろに下がる。
それを見て、須磨太郎は作戦に移る。
須磨太郎はボネルフェルトに背中を向けて、ルイーゼたちの方へ走り出す。
それが意味するのは簡単な答えだった。
ボネルフェルトよりも弱い他の冒険者たちを先に始末するほうが効率が良いという、ただそれだけの答えを須磨太郎は見つけ出していた。
ボネルフェルトさんが噛ませ犬じゃないよってところを証明できたと思います。
私は主人公補正とかラスボス補正とかいう言葉は好きではないので、どうなるかはわかりません。
皆さんはどちらが勝つと思いますか?
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