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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第一章 出会い
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掃除とどこかへ消えた羞恥心

 天は絶句していた。何にそこまで絶句してたのかは目の前の屋敷を見れば分かるというものだ。ただし、屋敷の大きさに驚いていた訳ではない。天は思わず言葉をポロリとこぼす。


「廃墟では?」

「廃墟だな……」


 案内したネルも何故か天と一緒に驚いたように屋敷を見つめている。屋敷は一部がツタでびっしりと覆われており窓も汚れて茶色くなっている。そう、廃墟と言われても差し支えないぐらいの傷みっぷりだったのだ。


「え、ネルさんってこんな屋敷で生活してたんですか?」

「いや、いつもは野宿だったからな。帰ってくるのは何年ぶりだったか……」

「……マジですか」


 その話が本当ならとっくのとうに崩れていてもおかしくない。というか一応形を保ってるのがなんだか怖い。何か衝撃を与えたら屋敷が崩れてしまいそうな……そんな危ないイメージが天の頭に浮かぶ。


「……大丈夫なんですか?」

「……多分、としか言えんが……。この屋敷で使ってる素材が特殊でな、そうそう壊れたりはしないはずだ。……多分」

「……まぁ、ここで拘泥していても仕方ないですし少し掃除しましょうか」

「え」

「はい?」


 ネルが硬直したので天は振り向いて首を傾げる。何故硬直してるのかを尋ねるとネルは申し訳なさそうに、


「私はそういうスキルが皆無で掃除が出来ないんだ……。家事もダメだ……。ちなみに掃除をしようとして一回家を壊した事も……」


 と、爆弾発言をした。


「…………えぇ……」


 天の困惑したような言葉が静かな夜に染み渡った。




◇◆◇◆◇




 かくして朝はやってきた。日が昇り、柔らかな日差しが街を照らしていく。ちなみにネルの屋敷は街から少し離れた岬にあるので普段は誰もが近づかない。


 というより近づけないのだ。何かの仕掛けが施されているのか岬がある事自体ネルと天以外認識出来ないようになっている。


 時間が進むと日差しは主張を増していき、冷えていた空気を温め始める。まだ朝も早いので起きているのはパン職人などの人達だけで街が賑やかになるにはまだ時間があるだろう。


 そして、岬に建てられている屋敷も日差しを浴びていた。屋敷を覆っていたツタのほとんどが剥がされて一箇所に纏められて置かれている。


 外観はまだ薄汚れているが夜にネルと天が見た状態よりかは十分にマシだったろうと言えるし、何より深夜と朝方の状態で比較すれば変貌とも言えるレベルで綺麗になっていた。


 そんな屋敷の中で天がモップと水の入ったバケツを持ちながらせっせっと掃除をしていた。ネルはというと、ヒビの入った壁や床に魔力を流し込む作業をしている。


 この屋敷で使われている素材が特殊なのは天もネルから聞かされていたのでただ少し頑丈だと思っていたのだが、なんと魔力を流し込むとその素材はより強固になりヒビなど破損部分も補修されるらしい。


 これについてはネルが元々知っていたので補修作業はネルが買って出た。そもそも天は魔力については知識も皆無、持っているかどうかも怪しいのでネルの仕事については異論はなかった。


 屋敷に到着してから約五時間、ようやく掃除が完了した。ネルと天は居間で脱力したように座り込む。


「いやぁ……、ようやく終わりましたね……」

「まさかここでタカシの類い稀なる掃除スキルが発揮されるとはな……。あの廃墟が息を吹き返したぞ」

「何言ってんですか。掃除は基本中の基本ですよ?」

「私にその言葉は通用せん。というかどんなに掃除が出来てもここまでなるかね普通」


 屋敷の外見から想像出来たと思うが中もかなり酷かった。しっかり年月を重ねてきたようでまず一面煤と埃まみれ、そして多少頑丈だったとはいえ時の流れには勝てず所々が腐って折れたり穴が空いていたりと、やはり廃墟と同レベルだった。


 しかしなんという事でしょう。廃墟も同然だったあの屋敷が見間違える程明るくなり、壊れている部分もなく、そして何より清潔になりました。劇的な変化である。


「……なんか負けた気がする」

「別にそこで張り合わなくてもいいんじゃ……。というかネルさんの方が僕よりスペック高いでしょ」

「タカシ……恐ろしい子!」

「ぶふっ」


 思わず笑ってしまった。というより突然のネタに耐えられなかった。まさかネルがそのネタを知っていた上に使ってくるとは思わなかったのだ。


「ちょっと風呂にしません? 僕埃だらけなんで体洗いたいんですけど」

「そうだなぁ。ちょっと湯を沸かせるか確認してくるからちょっと待っててくれ」


 そう言ってネルは起き上がると浴場へと向かうために部屋から出ていった。天は起き上がる気力もなくボーッとまだ手のつけてない天井を見つめながらふと口に出した。


「風呂という文化があってよかったなぁ。なんか外国だと湯船に浸からないらしいけど浴場見た感じ普通に湯船に浸かれそうだし。……シャワーがないのが残念だけどこの際は文句も言えないもんね」


 天がそんな独り言を言っているうちに金属の擦れる音が廊下から足音と共に聞こえてきた。開けっ放しのドアからネルが兜を出して話しかけてくる。


「なんとか機能はしてるみたいだから湯が沸くまで少し待ってくれ」

「あ、はい」

「湯が沸いたら先に入ってていいぞ。その間にちょっと私は部屋を物色してくる」

「物色って……。ネルさんは先に入らなくていいんですか? 僕は後でも大丈夫ですけど」


 いいのいいの、と言うとネルは兜を引っ込めて本当に部屋を物色するために移動してしまった。天は背伸びをすると起き上がって浴場へ行こうとしたのだがある事に気付いた。


「……着替えどうしよ」


 こればっかりはネルに頼むしかないのでネルを探しに部屋を回る事にした。ネルは隣の部屋にいたらしくすぐに見つかったので着替えについて相談した。


 ネルは城下町で買ってくるから大丈夫だと言って天に留守を頼んできたので、もちろん天は反対する事なくネルの言う通り留守番する事にした。


 ネルが出かけると天は湯が沸くまで浴場で待ってようかなと思い浴場へ足を運ぶ。廊下を歩きながら考え事をする。


(うーん、床が綺麗になったとはいえ裸足で歩くとひんやりするなぁ。スリッパとか異世界にあるかな?)


 と、なんだか家主より家主らしい考えをしていた。




◇◆◇◆◇




「タカシー? 浴場にいるのかー?」


 廊下で声を張り上げると天の声が返ってきた。「入浴中ですー!」と。なので着替えを浴場とは別に区切られている脱衣場に置いておく。


(うーむ、風呂から上がったら絶対に甲冑脱いだ姿見られるよな……。どうしよ……)


 ネルにとってはそれがとても重要な事らしく脱衣場で固まったまま考えに耽っている。もう少ししたら天がここに来ることも忘れて思考に没頭してしまっていた。


 そして遂にその時が訪れてしまった。腰にタオルを巻いた天が脱衣所と浴場に繋がるドアを開けてしまったのだ。


 ガチャリ、バタン!


 天はすぐさまドアを閉めた。


「ネルさん!? なんでそこにいるんですか!?」

「む、すまない。ボーッとしてた。私は気にしないから別に入ってきてもいいぞ」

「僕が気にするんですってば! せめて後ろを向くとかしてくださいよ!」

「はいはい、そんじゃ後ろ向いてるから早く着替えてくれ」

「出ない事は確定なんですか……。うう、分かりました……」


 天が再度ドアを開けると一応ちゃんと後ろを向いてくれてるネルの甲冑姿が目に入った。天は急いで体を拭くと置かれている着替えの服に袖を通す。麻で出来た服とズボンを着終わった天はネルにもういいですよ、と声をかける。


「……タカシ、後で大事な話があるから部屋で待っててくれ」

「? 分かりました」


 そう言って天は脱いだ服を持って脱衣場から出ていった。そして、ネルが一言二言何かを呟くと突如甲冑がロボットアニメみたいに形を変えて甲冑から正方形のキューブへと変形していく。


 拳ぐらいの大きさのキューブをコトリと床に置くとスパッツとインナーを脱ぎ捨て浴場へと移動した。




◇◆◇◆◇




 天は念入りに掃除したソファに座って鼻歌交じりに足をパタパタさせていた。久々の風呂に天も上機嫌のようだ。そんな上機嫌な天に一つの試練が訪れた。


「はー、さっぱりした」

「あ、お帰りな、さ……い?」


 ドアを開けた音がしたのでネルが風呂から上がったのだと思い顔を向けると、そこには拳ぐらいの銀色のキューブを片手に持ちながら首にタオルをかけた赤髪に透き通るような紅の瞳の女性が入ってきた。


 しかも上も着ておらず下も着てない、唯一身につけているのはショーツだけだ。つまり、ほぼ全裸の美女が突然部屋に来たのだ。


「うぼぁぁぁぁぁあ!!」


 天は奇声を発しながら何故か回転して部屋の隅へと自分から吹き飛ぶ。これは天が咄嗟に取った逃避行動だ。顔を部屋の隅へと固定する事でその露わとなっている体を見ずにすむという考えである。


 そして距離を取ることにより精神的安定を図る事も出来るという素晴らしい逃避行動なのだ!!


 だがそれも赤髪の美女には伝わらなかったようだ。なんと天に近づいて服の首根っこを掴んで持ち上げてしまった。天はせめてもの抵抗で目を必死に瞑る。すると少し悲しそうな声が間近から響く。


「……やっぱり驚いたか?」

「……そりゃ、驚きますよ。そんな下着一枚で来られちゃ。というよりどちら様ですか、上着てください」

「ネルだよ。というか驚いたのはそっちかい。髪の事かと思ったじゃん」

「ネルさん!? ネルさんって女性だったんですか!? そして服着てください!」


 天は目を必死に瞑りながら驚いたように声を上げる。しかしすぐに服の首根っこを掴まれているからグェっと声が出てしまった。ネルは気にせずその状態で会話を続けるようだ。手放す気がまったくない。


「さっきから的外れな点だけ驚いてるな……。なんだ、悩んでた私が馬鹿みたいじゃないか」

「お願いですから服を着てくださいぃぃ」

「ん? 着てるぞ?」

「え? なんだ、それならそうと早く……」


 天が目を開けるとそこには大きな双丘がプルルンと揺れており……


「ダァァァァ!! 着てないじゃないですかぁぁぁぁ!!」


 またもや天は目を瞑り絶叫する。その様子に呆れたような表情を浮かべるネルが何を言っているんだ? と言わんばかりの調子で堂々と言い切った。


「あ? 穿いてるだろ。下に」

「それは下着! 僕が言ってるのは服を着ましょうって話です!」

「え、やだよ。暑いもん」

「羞恥心は何処(いずこ)に!?」


 ネルは掴んで宙に浮いている天をソファに降ろして無理矢理座らせる。そしてその対面にあるソファにネルは腰を下ろした。


「話がしたいんだ。いい加減目を開けて話を聞いてくれないか?」

「それじゃあせめて胸だけでも隠してもらえませんかね……。僕それじゃないとまともに会話も出来なさそうです……」

「分かった分かった。……ほら、これでいいだろ」


 ネルがそう言うのでおずおずと目を開くとそこにはタオルを首にかけてちょうど双丘の中心部分2つを隠している赤髪の美女がいる。


 その光景に顔を真っ赤にしながら天が俯く。悲しきかな、隠すつもりでそうやったのだろうがその姿は逆に艶めかしくなってしまっているのにネルはきっと気づいていない。


「もういいです……。せめて隠してくれただけ感謝です……」

「なんだよ、私が我儘な子供みたいな事言いやがって」


 唇を尖らせて言うネルに天は少し苦笑するとようやくネルへと視線を移す。話とは? との疑問を口に出さずとも理解したネルは頷いて口を開く。


「少し、真剣な話をしよう。馬車では御者に聞かれる可能性があったから言えなかったがここでなら真実を話せる」

この作品に登場する屋敷ですが、アメリカにあるピースフィールドを参考にしています

もしも分かりづらければ調べてみると良いかもしれません


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