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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第四章 傾国の赤髪
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仕切り直し

 嵐の様な人だった。何にも左右されず、自身の好きなように決めるそんな生き方が眩しかった。私だけがいつも決められなかった。


 勇者には自分の信じる正義があった。精霊に愛された友人は勇者を信じる自分を信じていた。魔法使い見習いの友人は師匠からの受け継ぐ正義があった。


 化け物を身に宿した親友は、守りたいものがあった。優しいあの子は、一人のために頑張れる信念があった。


 強いあの人は……誰かを愛せるのだと初めて知った。皆は強かった、私には無いものばかりを持っていた。


 羨ましいと何度思った事だろう。自分は勇者の仲間であったはずなのに、暗殺者というジョブにこんな性格だ。


 他人に言われなくても分かる、私は正義の人間らしく無いのだ。いや、それは昔から分かっていた、私は人間の味方になれた事自体が奇跡なのだ。


 私が正義の味方であるのは光の加護があるから。それが無ければ私は人間の……人類の敵となっていただろう。


 救ってくれたのは先代勇者と今代勇者の二人。私は言葉では表しきれない程にあの二人に感謝している。裏切りたくない、恩を返したい。


 けれど……。


 私は最低な事に、その二人を裏切ってまで黒髪の少年と赤髪に味方したいと思っている。


 私はどこまでも意志が弱いのだと思い知らされる。辛い、苦しい、私はどうすれば良いのだ。


「おいコラ、勝手に気落ちしてんじゃねぇぞ。アイツらぶっ殺すからお前も手伝え」




◇◆◇◆◇




「え?」

「え? じゃない。手伝えつってんだよ」


 ネルの言葉にティナは首を傾げる。その反応に対してネルは舌打ちをすると、ティナの首根っこを掴んだ。


「えっ、ちょ」

「一旦離脱だ。暴れんなよ」


 ネルがそう言うと一瞬紅い光が瞬き、ネルとティナの姿が勇者達の目の前から消えた。


 あまりにも唐突な出来事の連続で勇者達はただ呆然とネルが作ったであろう壁の穴へと視線を向けていた。




◇◆◇◆◇




「何してんだお前」

「……ネルさんこそ」

「あ? 私は魔力感じたから来ただけだよ。どうせあのクソジジイがいるだろうから今度こそぶっ殺そうと思ってたんだが……」


 そこでネルは一度言葉を区切ると首根っこを掴んだままプラプラしているティナへと顔を向ける。兜がネルの表情を隠しており、どのような表情なのかティナには分からなかった。


「戦意喪失してやがったな」


 それが誰の事を指しているのかはティナには分かっていた。自分の事だと、すぐに理解出来ていた。


「……それ、は」

「他の奴なら知った事じゃねぇが、お前は別だ。やる気がねぇならさっさと安全なとこまで逃げろ。そんくらいの手伝いはしてやる」

「……え?」


 まさかの言葉にティナは顔を上げる。責められるかと思っていたので、まさかの優しい言葉にティナの顔が驚愕に染まる。


「おいコラ、なんだその顔は」

「……本当に、ネルさん?」

「喧嘩売ってくるとは余裕だなお前。このまま電気流してやろうか?」

「ごめんなさい」


 即答だった。実際ちょっとピリッとしたのでティナは本気で謝った。


 カタカタ震えるティナの首根っこからネルが手を離すとティナはドスンと尻餅をついてしまう。


「ひゃん」

「アホみたいな声出してないで今決めろ。行くか行かないか」

「うっ……。それは……その……」

「迷うだけなら邪魔だ。死ぬぞ、そんなんじゃ」


 容赦ない言葉にティナは言葉を詰まらせる。その通りだ、ティナは実際に戦闘中に迷いを見せ隙だらけだった。


 それでも殺されなかったのは相手が顔見知りでもあるハルだったからだ。勇者というのもあり、比較的殺傷を好まない優しい性格がティナの命を奪わずにいた。


 そしてそれを知らないティナでもないのだ。自分が置かれている現状を正しく把握しているからこそ、ネルは多くは語らなかった。


 お前の問題だろう、と。ティナはネルにそう言われているのをティナは理解していたからこそ、何も言い返せなかったのだ。


(弱いな……。この弱さがタカシの言う人間らしさ、ってやつか)


「人を助ける、か……。はぁ……分かった」

「……?」

「悩むんだったら私が道を作ってやる。いいか、アイツらの事を忘れろとは言わん。今は私の為だけに力を貸せ、タカシを助ける為に……お前の協力が必要だ」


 だから、とネルはティナの腕を引っ張る。そしてそのまま両手で包み込みネルは言った。


「私の為に働いてくれ」

「……ふふ」

「あん?」

「……似合わない、ネルさんのそういうのは」

「よし、喧嘩だな? テメェさっきから言いたい放題言いやがって!」


 あぁん? とキレているネルにティナはまた笑ってしまう。そして笑い終わって、ティナは決意した。脆く弱い決意だが、この一瞬だけは揺らがない決意だ。


「……戦う、私はハルの仲間だけど……タカシの仲間でもあるから」

「矛盾してねぇか? 私が言うのもなんだがどっちか裏切る事になるんだぞ?」

「……いいの、これで」

「あっそ、お前が良いなら別に構わないけどな」


(やっぱよく分からねぇや。矛盾しているのに選択? こいつがこういう奴なのか、人間ってのは皆こうなのか……。後でタカシに聞いてみるか)


 そう思う一方で、ティナは別の事を思案していた。


(後押ししてくれて助かった……。最低だけど、こうしてもらえなかったら私はきっと決めれなかった)


 仲間なのか、仮初の関係なのか。本人達でさえも分からないが、それでも一つの目的の為に協力する。


 そのために敵対するは勇者一行と魔法使い。正直なところ、現在の勇者達ではネルには勝てないだろう。それ程までに隔絶とした力の差があるのだ。


 しかしここで魔法使いが加われば話は別だ。魔法使いである老人———ノルズは別格の力を持っている。


 それこそ一人で国を相手取り完全勝利を収められるほどの力だ。ノルズが、ではなく魔法使いがそれほどの力を有しているのである。


 その魔法使いが勇者一行に力を貸せばネルとも拮抗し、それどころか勝利の可能性さえ出てくるだろう。


 ネルの言った通り、一人では勝てないと分かっていたからこそティナの手を借りたかったのも事実なのだ。


 逆にティナは自身の能力の特性上、魔法使いや魔物といった特殊な存在に対して優位に立てるので、魔法使い一人であれば勝利する可能性も十分にあっただろう。


 しかしそれは逆に、鍛錬を積んだ武芸者には通用しないという事でもある。ティナの能力はあくまで魔法や魔物が使う能力に対して有効なのであって、単純な力には作用しない。


 そのため単純な身体能力で負けるハルやティナ、そして昔に手合わせした事のある剣聖といった、技術のある者には勝てた試しがなかった。


 だからこそ格闘術などを習い少しでも戦えるよう努力していたのだが、勇者一行というのもあり相手が魔物ばかりなので人相手がまったく無く、本当に嗜む程度の格闘術しか身につけていなかった。


 師匠といった者もおらず、殆どが我流の戦い方をするティナにとって対人戦こそが弱点とも言えるだろう。


 対特殊の能力を持ったティナと、圧倒的な身体能力と力を持ったネル。この組み合わせはある種、理想的だろう。


 暗殺者と騎士、異色のコンビがここに結成された。




◇◆◇◆◇




「準備は良いかね」

「……はい、大丈夫です」

「り、力み過ぎは良くないなのです」

「そーそー、赤髪が魔法使い様の言う通りならめちゃくちゃ強いんだから緊張してちゃ絶対負けるよ」


 勇者一行とノルズはネルがティナを連れ去り離脱した後、改めて戦闘の準備をしていた。


 最初は慌てて追いかけようとしたがハル達だが、ノルズに引き止められ、深追いは禁物だと言われたため仕方なく一度場の状況を整理する為にこの場に留まる事を決めたのだ。


 追いかけなくても必ず戻ってくる、ノルズの言葉にはどこか納得出来る部分があり勇者一行はノルズの説明を真剣に聞いていた。


「ではおさらいするぞ。敵は赤髪と貴様らの仲間であった暗殺者だ。赤髪の能力は未知数、分かっている事は謎の再生力と異常な身体能力だけだ」

「再生力……ですか」

「一度赤髪と戦った際にな。何度か致命傷となる魔法を当てたのだが戦闘が長引けば長引く程、あちらが快調になっていくのが不気味だったのをよく覚えている」


 そこでミリアが手を挙げて質問する。改めて聞いてふとした疑問が脳裏をよぎったからである。


「再生力もそうだし、魔法使い様の言う異常な身体能力……やっぱりこれって何かしらそういうスキルを持ってるって事ですよね?」

「……そう思いたいがな。アーティファクトの類のものを二種類所持していた、その能力かもしれん」

「鎧と大剣……でしたっけ。けど大剣の効果は先程の話を聞く限り魔法を切り裂く、そういう効果にしか思えないのですが」


 ハルの言葉に周囲の二人もうんうんと頷く。


「それが本来の能力では無い可能性だってあるのだ。魔法を切り裂くというのが副次的な効果だったら? アーティファクトは私達がまだ人間だった頃から存在した古代兵器だ、何があってもおかしくないだろう」

「そんなものを二つも所持している赤髪……。アイツは一体何なんでしょうか」

「稀にいるがな。ああいう人間のくせに人間を超越した力を持つ輩が。ただまあ、私が生きている限りであのような者を見たことがない」


 そうしてノルズは吐き捨てるように言った。


「アレが人間かよ。化け物よりもよっぽど化け物らしいやつがよ」

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