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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第四章 傾国の赤髪
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城内にて

「ここの城ってのはどうしてこうまで複雑に作られているんだ……。ったく、うざってぇな」


 そうぼやきつつネルは城の中を歩いていた。ネルの知っている城とは、無駄に装飾が施されており権威をこれでもかと主張している建築物だった。


 それこそただ豪華なだけで侵入者に対する防衛機構もお粗末なものだった。ネルの知る由はなかったが、それはネルの名前のせいでもあった。


 ネル、つまり騎士長としてのネルはあまりにも有名で、そして裏の者達や犯罪者に取っては相手にはしてはいけない危険な相手として認識されていた。


 相手にしたが最後、その者の命がないからだ。だからこそ、誰もその城へ忍び込む事も、【スリディナ王国】を敵に回す者もいなかった。


 そういった事情もあり、城が改善される事も改善点がある事にも誰も気付かず今に至ってしまったのである。


 だからこそ、ネルはこの城に侵入して初めてしっかりとした城の防衛機構を目の当たりにしてうんざりしているのだ。


 機械仕掛けの城は、とにかく妨害が多かった。罠の数もそうだが、内部は迷路化しており行き止まりや元の通路に戻ってきたりと中々に奥に進めないようになっているのだ。


 普段はどうやってこの通路を使用しているのか想像が出来ないな、と思いながらネルは歩き続ける。


「……っ!」


 すると壁から刀が飛び出し、ネルの頭を刺そうとする。すんでのところで頭を振る事で回避するネルだが、目に飛び込んだ光景に舌打ちをする。


 それは巨大な筒だった。そして一瞬何かが爆ぜる音がすると通路にあるもの全てを押し潰そうと言わんばかりの鉄の塊が発射された。


「———C()a()l()l()!」


 ネルがそう叫ぶと、ネルが着用している服の内側から光を放ち、眩い光がネルの体を包む。光はすぐに収まり、ネルは鎧姿へと変身していた。


 変身と同時に鉄の塊が到達し、ネルの体が吹き飛ばされる。咄嗟に防御出来たのはネルの反応速度ならではの賜物だろう。


 だが勢いまでは殺す事は出来ず、ネルは鉄の塊と共に砲弾となり壁に激突してしまった。


「ぐっ……!」


 本来であればこの仕掛けで侵入者は壁のシミになってしまっていたのだろう。次の追い討ちが来ないのがいい証拠である。


 故に、ネルはなんとか耐える事が出来たのだ。壁にめり込んではいるが、鎧がネルの身を守っていたのである。


「あっぶね……。くそっ、マジでどうなってんだこの城。確実に命取りに来てんじゃねーか」


(これだけで済んで助かったな……。これで追撃とかあったら笑い事じゃなくなっていた)


 ふー、と息を吐いてからネルは鉄の塊を腕力でどかす。鉄の塊がめり込んだ壁から床へ落ちるとズズンと床が震えた。


「どんだけ重いんだコレ……。鎧無かったら圧死っていう罠か」


 ネルは鎧を外さないまま、行動を再開する。だがその途中でネルはある事に気付いてしまった。それは———


「そうか、ここって城なんだし壁全部壊していけばどっか繋がるんじゃね?」


 ぶっ飛んだ考えであった。むしろ暴力的を通り越して壊滅的である。そしてそんなふざけた考えを押し通す事が出来る力をネルは有していた。


 それを行動に移す決断の速さも、行動をするという選択を選ぶ決断力も同様に有していたのだ。


 なので、次の瞬間にはネルの拳が壁を叩いていた。当然の如く、壁はネルの破壊力のある攻撃には耐えられず、あっけなく瓦解した。


「うっし、これならわざわざ歩き回る必要もねぇな。取り敢えずどっか繋がるまで壊し続けるか」




◇◆◇◆◇




「どこへ行ったのだ……侵入者め」


 そうぼやきながら老人は宙に浮きながら滑空していた。全身からは魔力を漲らせており、臨戦態勢である事が分かる。


 老人は侵入者を発見し殺そうとしたのだが、その侵入者は逃げ足が早く老人から逃げおおせたのだ。


 その侵入者はただ逃げ足が早いだけではなく、頭も切れるようで、時折反撃に転じては確実に手傷を負わせてくる曲者でもあった。


 その上、どういうわけかその侵入者は老人の〝網〟に反応せず気配すら追えない。それらの事実が老人をほんの少しずつ、追い詰めていた。


(……何者だ? 侵入者は三人のはずだ。今も気配を追える、だというのに……。ここは一度探知魔法を別のものに変えるべきか?)


「…………」


 老人は一度動きを止めると、小さな声で何かを呟く。瞬間、老人の体が揺らめくと姿がその場から消失した。




◇◆◇◆◇




「……一度場を仕切り直す必要があるな」


 見渡す限りの壁に大量の画面が埋め込められた、監視室と呼ばれる部屋に老人の姿が蜃気楼のように現れる。


 老人は忙しなくそれぞれの画面に視線を移しながら、画面に写っている映像から情報を読み取っていく。


「ネヌファ」


 老人が、その単語を口にすると老人の隣に光り輝く球体が出現した。それは、牢屋で囚人と会話をしていた光の球体と類似しているように見えた。


「一度場の状況を確認する。整理しろ」

『了解しました。……一つよろしいでしょうか?』

「手短に」

『はい、場内に配置していた分霊が半数以上消されました』

「ふむ、あちら側に魔法について知識のある者がいた、という事か」


 老人が頷くと、光の球体もそれ以上言う事が無いのか沈黙する。これで話は終わりだと判断した老人は命令した仕事が終わるまで画面を見つめていた。


 どれぐらい経っただろうか、光の球体が『完了しました』と告げた。


「報告しろ」

『現在この城にいる生命体はご主人様を含めて六体。外の〝網〟の反応から見て侵入者は全て城の中に侵入されたかと思われます』

「侵入者の情報も細かく頼む」

「了解しました」


 そう言って光の球体は現在この城で活動している生命体それぞれの情報を簡潔に述べていく。それは以下の内容であった。






 ・赤髪(人間)

 現在壁を破壊しながら城内を突き進んでいるようです。監視装置から赤髪は厨房室にいるのではないかと思われます。




 ・人間?(魔力数値が高い)

 装いからして医者かと思われます。何かを探している様子ですが、防衛機構の存在に気付いて部屋に避難している様子です。




 ・剣士(人間)

 防衛機構を突破しながら移動をしている様子から侵入者の一味の一人かと思われます。現在は機械兵との戦闘中です。




 ・呪い(特級)

 監視装置が機能していないので〝網〟による所感ですが、移動もせず未だ牢に繋がれたままかと。




 ・魔法使い?(機械技士)

 ご主人様と別れてから動いてはいないようです。もしや門番的な役割をこなしているのかもしれません。魔力の上昇も確認されてないので地下は変化無しと思われます。


 ・ご主人様(魔法使い)

 ここにいらっしゃいますので説明は省かせていただきます。






『———以上です』

「待て、もう一人いるはずだろう」

『もう一人、ですか? いえ、今回はご主人様の意向通り感知魔法は生命感知でいたしましたのでこれ以上はいないかと』

「何を言う、儂は先程まで侵入者を追いかけていたが貴様が語った侵入者共とはどれも違っていたぞ」

『……?』


 光の球体が困惑したように揺らめく。その様子に老人は光の球体と同様に困惑する。


「どういう事だ……?」

『いえ、それは———』


 カシュ、と不思議な音が部屋に響く。バッと老人が振り向くとそこには細長い筒が転がっていた。


「なん……!?」


 細長い筒が目を潰すほどの光量を発すると同時に甲高い音が部屋中に反響する。


 音と閃光の為に聴覚と視覚が奪われ、老人がよろめく。その瞬間、体に軽い衝撃を感じて老人は咄嗟に魔法を発動させる。


「ネヌファ!」

『自動防衛へ移行します』


 脳内に声が響くのと同時に、老人の周りに風が巻き起こる。それはすぐに暴風へと変わり周囲を破壊し始めた。


 それと同時に老人は自身へ視力と聴力を回復するための魔法をかける。だがすぐに回復する訳ではなく、魔法と言えども時間はかかってしまう。


 その間、老人は相手の攻撃をさばかなければならない。その為にネヌファと呼ばれる光の球体が風を操り、老人を守護させていた。


『ご主人様、今すぐこの部屋を破壊する許可を』

「何故だ!?」

『毒を撒かれたようです。風で散らしていますが扉を閉められたのでご主人様に毒が侵入するのも時間の問題かと』

「お前に全て任せる!」

『了解しました』


 機械のように変わらぬ平坦な声でネヌファと呼ばれる光の球体が了承すると、強い風が老人の体を叩くのを感じる。


 音が聞こえない為どのような事になっているのか分からない老人はただ体に魔力を通して防御に徹していた。


 やがて視界が開けるのと同時に老人は目の前に立つ敵の姿に驚いた。何故ならその姿は見覚えのある人物だったからだ。


「貴様……今代の勇者と共にいた……」

「……お前が」

「……?」

()()()()()()()()()


 敵である、侵入者———イスティーナの表情は幽鬼の如く変貌していた。それこそ暗殺者に似合う雰囲気だろう。


「何故だ、貴様もあの呪いに加担するというのか! 貴様は光の加護を授かった者であろうが!」

「黙れ魔法使い。あの子を返せ」

「……断る。アレはこの世に害なすものだ、貴様とて分かるだろう。アレは放置しておけば確実ありとあらゆる命を奪う」

「———うるさい!」


 ティナは大声で叫ぶ。普段の彼女の様子を知る者であればここまで大声を出す姿を見せるなんて、などと思うだろう。


 そして、本当に彼女はあのティナなのか、とも思うだろう。それほどまでに普段の彼女とはかけ離れた雰囲気なのだ。


「……毒されたか」

「正しいだけの貴方にはきっと分からない」


 だから、とティナは間を置いて言う。


「これが私の偽善だ」

次回はついにイスティーナことティナの戦闘シーンです。

彼女のちゃんとした戦闘シーンは初めてですので少しドキドキしてます。

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