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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第一章 出会い
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夜に潜むは死を招く影

 支部長との話し合いも終了し、天を休ませてやりたいというネルからの要望もあり現在2人は宿屋の二階の部屋で休んでいた。ベッドでは天が寝息を立てて眠っている。


(さて、朝には馬車を手配してくれるって言ってたしそれまでどうしてようかね……)


 寝る、という選択肢は一応だがある。けれどネル自体あまり睡眠をとらないため正直まだ眠くないのだ。だからそれまでどうやって暇を潰そうかと思案しているネル。それからしばらくして、


「やっぱ寝るか……」


 そう言って甲冑も脱がずその場に座り込むと動かなくなった。甲冑のせいで息も聞き取りづらいので寝ているかどうか判断がつかないが彼女は一応眠りに就いていた。




◇◆◇◆◇




 その男は怒りに燃えていた。それは男が今の満身創痍の状態になってしまった事に起因する。自身の行いのせいで男は全身火傷という重傷を負い挙句にある騎士の蹴りのせいで肋骨を何本か折られたのだが男は反省をしなかった。


 むしろ何で自分がこんな目に遭わなければならないのか、そんな思いが益々怒りを駆り立てる。だからこそ男は我を忘れて怒りだけでとある場所を目指して歩いていた。


 目的はあのフードの子供。あの騎士は男が痛めつけていたフードの子供の為に怒っていた、と男は思っている。だからきっとあの子供を人質に取ればあの化け物じみた騎士も自分には手出し出来なくなるだろうと男は考えたのである。


 普通に考えれば、それは逆に騎士、つまりネルを怒らせる事になりかねないのだが男、レオルはそんな事を考えてられるほど余裕はなかった。


 レオルにとって幸運だったのは実際にその案はネルに通用するぐらいの案だった事、逆に不運だったのはその案が実行されなかった事、そして、それ(・・)に出会ってしまった事だ。


 それ(・・)を見た瞬間、レオルは眉間に皺を寄せた。それもそうだろう。目の前に立っているそれ(・・)は何時間か前に痛めつけた少年だったのだから。


『なんじゃ、歩けるとは頑丈じゃの』


 その声は何重にも重なってとても人の声ではなかった。一言一句声が発せられる度に空気が振動し耳障りなノイズがレオルの耳に届く。レオルは焼かれたせいで掠れているがそれでも声を発する。


「丁度いい。テメェは今から俺の言う事を———」


 トン、と軽い衝撃が腹部にあった。次に腹部に灼熱の痛みが発生してレオルが苦悶の表情を浮かべる。


「な、ん……これ、は……」


 レオルの腹から黒い刃が刺さっておりそこから血が流れていた。信じられない事に、その刃は影から飛び出ているのだ。


 腹から溢れる液体を止めようと手を当てて膝から崩れ落ちるレオルに()()は冷笑を浮かべている。冷笑とはいえその艶やかな笑みにレオルは思わずゾクっと背筋が凍る。


「お、まえ、は……」

『ん? 妾か?』

「ふざっ、けんな……! 男だろうがお前……!」


 場違いと言えば場違いな発言、言い返す点はそこではないのだろうがレオルは血を流しすぎて思考もままならない状況だ。先の事など考えられる訳もなく言葉に対して言葉で返すしか出来ない状況だ。


 だが()()はレオルの言葉を流してぶつぶつと何か喋り始めた。


『ふむ……。まだ体が馴染んでないようじゃの……。体に変化はなし、と』


 その態度に再度怒りの炎がレオルを焚きつける。


「どいつも、こいつも……!」


 レオルが青筋を浮かべて怒りで腹の痛みも忘れて〝火球〟を発動すべく魔力を腕に集中させようとしたその瞬間、()()は凄惨な笑みを浮かべて美味しそうな食べ物を見たときのような舌舐めずりをした。


 これで何度目かの恐怖がレオルの体を支配する。ここに至ってようやく気づいたのだ。目の前にいる少年はあの時の少年とは()()()()()()()()()、出会ってはいけない類のそれだと、そして自分はここで死ぬのだと、理解してしまったのだ。


『7人だけじゃ足りなくてのぅ。丁度美味しそうな食料が目の前にある事に今気づいたわ』


 気づけば()()の影が不規則に揺らめいて形を崩していた。まるで影そのものが意思を持って蠢めいているかのように錯覚を覚える。


 そして少しずつ、その影は広がっていきレオルの足元のすぐ近くまで延びて広がっていく。この影に触れてはダメだ、そうレオルの脳は警告するがレオルはもう動けない。血を流しすぎたのだ。動く気力も、脳を働かせる事すらも出来ずにあっけなくその影に呑み込まれていった。


 レオルを呑み込んだ影はスルスルと()()と同じ形に影に戻るとただの影へと戻っていた。そしてレオルのいた場所には血だまりもなければ先程まで人が座り込んでいた温もりもない。ただの床になっている。


『ふむ、こやつは最初に食べた食料とはちと違う味がするの。まりょく、とかいうスパイスのお陰かの』




◇◆◇◆◇




 朝がやってくるとネルは目が覚めた。まだ朝日が少し出た程度だが馬車で走るには十分な明るさだ。さっそく天を起こそうと隣に視線を移すと天が床で寝ていた。いや、というより布団もずり落ちてるので寝相でベッドから落っこちたのだろう。


 取り敢えず寝相が炸裂するぐらいには寝れたのだと思い苦笑する。ネルは天の頬をペチペチ叩きながら起こそうとする。


「おい、タカシ、ほら、起きろ」

「んんっ……」

「起きろ。朝だぞ」


 天はカッと目を見開いて体を起こす。おおっ、とネルは寝起きとは思えないその俊敏な動きに驚いたがそれはちょっぴりとした罪悪感に変わる。体を勢いで起こしてしまったそのせいで天は兜に思いっきり額をぶつけたのだ。


「あ、悪い」

「〜〜〜〜!?」


 陸に上げられた魚のようにビクンビクンと跳ね回っている天。さすがにネルもこればっかりは文句も言わず天が落ち着くまで待ってあげた。


 数分して天は涙目になりながら起きてくれた。なんだか少々居た堪れない不幸少年だ。


「……思いっきりガツンとぶつかったけど」

「大丈夫です……」

「そうか……」


 ネルは曖昧に頷くと外に馬車がある事を伝えてすぐに出発しようと提案する。 天は頷くとネルからもらったフードを羽織り、いつでも出発出来るようにした。


「うっし、行くか」

「はい!」


 階段を降りていくとカウンターには突っ伏して寝ている女将がいた。それを見てなるべく音を立てないように注意しながら外へと出るネルと天。


 外では馬車に眠そうな御者と支部長が待っていた。支部長はペコリとお辞儀をする。それに対してネルは手を軽く振るだけでおざなりに対応した。


 そして、ネルが話を振るよりも先に支部長の方から話を振ってきた。


「すいません、レオルを見ていませんか……?」

「誰だそれ」

「その、噴水まで蹴飛ばされた、って言えば伝わりますか……?」

「あー、あの醜男。いや、あの後はずっと宿で寝てたし知らん」


 その言葉に支部長は少しホッとしたような表情をする。


「そうですか……。いえ、昨日から姿が見えないものですからもしかしたらそちらにまたご迷惑をかけたのではないかと……」


 それは暗にレオルがネルにリベンジして最悪亡き者にされた可能性があるのでやらかしてませんよね? ともとれる理由だったがネルは特に気にする様子もなく知らね、と言った。


 取り敢えずネルがやらかした訳ではないと分かっただけでも安心したのだろう。なんだが爆弾扱いされてるような気がしないでもないがネルは優しいのでスルーした。流石騎士長様である。


 結局、この時点でレオルの末路を知っている者は誰一人としていなかった。


「それでは、今回は色々とありがとうございました。ロージュ様には感謝を」

「おう、たっぷりと感謝してこの恩を忘れないようにするんだぞ」


 その言葉に天はうわぁお、と呟いた。


「それじゃあ乗るぞ」

「あ、はい」


 用意された馬車は馬に引かせる車が大きな荷車となっており、その荷車の横には丁度楕円形になるような骨組みが木で作られてその上を覆うように分厚い布が張られていた。まるで大きなテントのようだ。


 まず最初にネルが乗り込みその次に天がネルの手に引かれて乗り込んだ。ネルは御者に出発してくれと言うと御者はすぐさま手綱を握り馬を走らせる。


「これでしばらくは快適だな」

「僕車酔いとか激しいタイプなんですけど大丈夫ですかね……」


 ネルは上に巻かれている布を解いて手を離すとバサァと布が下へと落下して出入り口を塞ぐ。どうやらカーテン代わりに使用したりするらしいのだがネルの目的はカーテンとしてではなく外部から覗かれないようにする為の防止として閉め切ったらしい。


「さ、これでゆっくり話が出来る」

「話、ですか?」

「目的地に到着するのが夜ぐらいになるからそれまで少し真剣な話をしようって事だよ」

誤字、脱字など気になる点や指摘したい部分がありましたらぜひともご報告ください

とても助かりますし参考になりますので

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