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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第三章 眩しい闇
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化け物達の蹂躙劇

 俺達は一体何を見せられているのだろう。


 兵士達は、そう思わざるを得なかった。単純に、ただただ混乱していたのだ。中には現実逃避をして自我を保とうとしている者もいた。


 そもそも今回の任務はとても簡単なものだったはずなのだ。発端はこの西の領土で起きた異変で判明した盗賊団一味が隠れ住む里が発見された事である。


 死刑囚や異端児、国を転覆させようと企んでいた者達の一部が毎回数人行方不明となっていた。それだけであれば魔物に食われたか何かだろうと納得も出来たろう。


 しかし、彼等は死んではいなかった。どういう訳か盗賊団として徒党を組み、各地の小さな村で空き巣を繰り返していたのだ。


 それを行った者がどんな奴らだったのか、外見の特徴や人相などを聞いているうちに、【アルテミア】はその盗賊団の八割が行方不明であった者達だろうとあたりをつけた。


 国に害なす盗賊団として国は拠点をずっと捜索していた。しかし不思議な事に彼等はまるで幻のように消失し、監視カメラの目をくぐり抜けていた。


 盗賊団の拠点を掴めずに何年も四苦八苦していたのだが、最初に述べたように西の領土で起きた異変———竜が起こした天変地異により拠点の居場所が割れたのだ。


 驚くべき事に、盗賊団の拠点には結界が張られており、熱による蜃気楼を利用したもので、砂漠の風景に溶け込み、絶対に見つけることが出来ない場所だった。


 しかし吹雪という異常気象に結界は対応が出来なかったようで、吹雪いている中で一つだけ吹雪の影響を受けていなかった場所を監視カメラは捉えた。


 そこから一度大量の人間が出て行ったのを確認した後、四人がその隠れ里に入っていったのも、確認済みだ。


 そして勇者の活躍により異常気象が解決した後、【アルテミア】の国王は隠れ里を壊滅、盗賊団の討伐を決めて部隊を派遣をした。

 

———簡単な仕事だったはずなんだ。


 盗賊団は人数だけは多い。だが、戦闘能力は皆無であった。その証拠として、盗賊団は一度も強盗だけはしていない。


 人に見つかるとすぐさま撤退し、決して人に被害を出す事は無かったという。


 だから兵士達の与えられた仕事は、里へ攻め入り盗賊団のその場での処刑及び、盗品などの回収だった。抵抗するようであれば里ごと兵器で焼き払っても良いとも言われていた。


 そうして、兵士達は隠れ里へと向かっていた。その道中で、魔物を打ち取りながらも順調に進んでいた。はずだった。


「あ……あぁ……」


 今見ている光景が、とても信じられず尻餅をついてしまう。情けない事に、腰を抜かしてしまったようだ。


「な、何が簡単な盗賊狩りだ! こ、こんな……こんな化け物が出てくるなんて聞いてないぞ!!!」


 それがこの戦場で残っていた最後の兵士の言葉だった。ゴキリと首から音が聞こえるのと同時に、意識は闇の中へと沈んでいった。


「ふぅ……こいつで最後か?」

『その様じゃが……よいのか? 一人取り逃がしていると思うんじゃが』

「わざと逃したからな」

『ふむ?』


 砂漠のど真ん中で赤い髪をなびかせる姿があった。奇妙な事に、その人物は肩に乗っている黒い鳥と会話をしていた。


「私がやった、って事を知らせるのが目的だからな。この情報が伝わればアイツらもあの里を襲う前にてんてこ舞いになるだろ」

『くっくっく……』


 鳥が奇妙な鳴き声をあげる。その声がどこか馬鹿にしているような含みがあり、赤髪は何だよ、と舌打ちをする。


『なぁに、殺すだけかと思ったらしっかりと考えてるようで何よりじゃ。重畳じゃの』

「一々うっせぇなこの鳥頭」

『この姿が方が動きやすいんじゃよ。あやつの記憶から引っ張り出してきた生物の姿のようじゃがの』


 あっそ、と赤髪は興味なさげに言うと首をコキリと鳴らす。


「さっさと処理しておけよ。それが終わり次第移動するからよ」


 そう語る赤髪の周りには、赤髪が殺した兵士達が死屍累々と転がっている。その数は優に百を越えているのだが、赤髪は何も思うところがないのか、欠伸をしていた。




◇◆◇◆◇




「どういう事なのだ!!」


 ダンッ! と小太りの男が拳をテーブルに叩きつける。その音に怯えながらも兵士は跪きながら必死に声を張り上げる。


「で、ですから! 部隊は全滅しました! わ、私以外全員アイツに殺されて……!」

「それはさっきも聞いたわ! その上で貴様の話を全て鵜呑みにしろとでも言うのか!? 魔物に襲われたのなら分かる! あの剣聖に喧嘩を売って殺されたのなら分かる! しかしよりにもよって赤髪だと!?」


 小太りの男は唾を飛ばし喚き散らす。


「御伽噺に出てくる化け物に殺されたなどと、ふざけているのか!?」

「けど本当なんですよっ! 突然現れたんですよ! 最初に隊長が首を素手で捻られて! 気づいたらおもちゃみたいに首がポンポン飛んで! 自分でも信じられませんよ!!」


 どうして信じてくれないのか、泣き腫らした目はそう語っていた。まだ自分でも現実を受け入れきれてないのか、うわごとの様に何かを呟いている。


 小太りの男は髪を掻き毟ると大声で名前を呼ぶ。今この状況を見ているであろう老人の名前を。


「ノルズ! おいノルズ! 貴様見ているのだろう! 折角外出を許可したというのにこの体たらくは何なのだ!」


 その声に応じるかのように部屋に風が吹いたかと思うといつのまにか老人が兵士の隣に佇んでいた。煩わしそうに老人は口を開いた。


「なんだ、貴様と構っていられるほど儂は暇ではないのだがな」

「なんだもクソもあるか! 貴様ともあろう者がまだ犯人を捕まえられんのか!」

「ふん、浅はかな奴だ。大方先程の話を聞いて赤髪のやつが犯人とでも思っているのだろう」


 口汚く怒りの言葉をぶつける小太りの男に対して侮蔑の言葉を吐く老人は話を続ける。


「確かに恐るべき者ではあったが、到底アレを引き起こせるとは思えん。アレは確実に人ならざる者の仕業よ」

「では私の部隊を壊滅させた赤髪は何なのだ!? そもそも本当に赤髪なのか!? こいつの見間違いか何かではないのか!?」

「喧しいな……。信じがたい事ではあるが事実だ、さっさと現実を受け入れろ馬鹿者が。そうさな、赤髪は言わば天災とでも思っておけ」


 天災、その言葉に兵士はしっくりと来たようで反芻するようにその言葉を呟いている。小太りの男は怒りによるものか、顔を真っ赤にして拳を強く握りしめている。


「やつの目的は!」

「知らん、天災と言っただろうが。貴様は一々砂嵐が起きる度に砂嵐に対して『何故砂嵐が起きるのだ!』と怒るつもりか? 意味はなくとも、害をなす、それが天災だろう」

「ええい、貴様はさっきから偉そうに能書き垂れているが何かしたのか!? 何の為に外出を許可したと思っている!」


 老人はわざとらしく溜息を吐くと、杖をコツッと床に当てる。それだけで部屋の空気が途端に冷え込んでいく。


 小太りの男は「ひっ!?」と情けない声を漏らして腰を抜かしたのかぺたりと床に座り込む。


「無能な王の小僧が言うではないか」


 その声はどこまでも冷たく、威厳があり、重かった。老人には威圧感があった。老人の言葉はまるで鉛のように発する度に空気を重くしていく。


 老人とは到底思えぬ程の威圧感。小太りの男も、隣にいた兵士も視線を外すことが出来ず、呼吸も忘れたまま動けずにいた。


「何を勘違いしているか知らんが儂は貴様と契約なぞしておらん。儂はあくまで先代に義理立てしてこの土地に残っているだけだ。地位に甘んじる事しか出来ぬ小僧が儂に物申そうなど片腹痛いわ」

「な、なななななんだと」

「儂が今回動いたのはこの土地の人間に危害が及ぶかも知れぬと思ったからだ。だが貴様は何だ? 貴様が怒ってるのは兵士が死んだからではない、()()()()()()()()()()()()()()()()、そうであろう?」


 くだらぬ、そう言葉を吐き捨てると老人はふっと姿を消した。それと同時に重圧に解放された兵士と小太りの男は思い出したように呼吸をしようとして、むせた。

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