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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第三章 眩しい闇
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呑まれる

「さて、どう出るかね」


 自身の能力で巻き起こした天変地異に元の砂丘は見る影もなくただ大穴が空いており、空洞があった。老人はどんな技を使っているのか、空に浮いている。



「分かりやすくこの場一帯を消し飛ばしてみたが。この程度で終わる訳ではなかろう?」




◇◆◇◆◇




「危ねぇ野郎だなアイツ」


 砂漠からそんな声が聞こえてきたかと思えば、突如砂から腕が飛び出てくる。そこからズルリと、ベコベコにへこんだ甲冑を纏ったネルが這い出てくる。


「ぺっぺっ、口ん中にも砂が入っちまった」


 ネルは鎧のアーティファクトを解除すると鎧の隙間から入り込んだ砂を手で払う。しかし血でベタついた砂はしつこくくっついていた。


「あんな奴と一々喧嘩なんかしてられっか。逃げるが勝ちに決まってんだろバカな奴だな」


 ネルは魔法使いの攻撃を食らうよりも早く行動をしていた。危険だと判断したネルはその場から離脱しようとしていたが、技の範囲と威力が大き過ぎたが為に間に合わなかった。


 宙に放り出されたネルはここで誰もが予測出来ない方法で脱出を図った。それは()()()()()()()()()()()()()という荒技だ。


 当然、反則技を使ってそのような行為をしている。それでも、だ。誰が嵐の中空中を駆けて逃走出来ると思おうか。


 見事に相手の予想外へと飛び出し脱出したネルは、上空で飛んでいる鴉に声をかける。


「おい、もう良いだろう。さっさと降りてこい」

『なんじゃ、分かっておったのか』


 ネルの呼びかけに応えるようにネルの肩へと降り立った鴉は人の言葉で喋った。


「砂漠にこんな鳥が飛んでる訳ねぇだろうが。しかも黒いとなったら基本的に魔物かお前みたいなやつしかいないしな」

『脳筋かと思えば頭も回るようじゃの。おっと、睨むな睨むな。怖いのぅ』

「うっせ。いいから早く目的を言え。今はあんまりお前に構ってられる暇はねぇんだからよ」


 砂をはたき落としながら歩くネル。肩にとまった鴉は落ちないようバランスを取りながら言葉を返す。


『うむ、それがな。どうやらこの異常事態に国が総出を挙げて動き出したようでな』

「ふん、それで?」

『大人数が里に向かっておるようじゃ』

「……おい、どういう事だ? まさか場所が割れてんのか?」


 歩く足は止めないがネルは少し眉間にシワを寄せながら鴉に問いかける。この状況で里の場所が知られているとなるとネルにとっては不都合が起きる。


 それは天が見つかる可能性だ。見つかれば確実に殺される。その場で殺されるならまだ甘い方だ。最悪の場合、処刑という形で民衆の前で惨たらしく殺されてしまうだろう。


 それ程までに人間は容赦がない。恐怖の象徴でもあるソレ(化け物)を受け入れる度量などない。分かり合う余地もなく、()()()()()()()()()()()


 それが一番安全で皆が安心する方法だからだ。不安を残すぐらいであれば最初から何もなかった事にする。


 この世界において殺しは正当化されるものだ。天が元いた世界とは違い、争いが常だ。魔物を殺すし、国によっては戦争が日常茶飯事だ。


 そういう世界だからこそ、どうしても命を奪う事に抵抗もなく当たり前として認知されていく。自身に害があればいくらでも人は冷酷になれる。


 結果として天とこの世界においての価値観はズレを見せる。天にとって殺しはもっとも重罪で一番やってはいけない事だと思っている。


 逆にこの世界の住人は殺しは常に身近にある行為であり、人殺しという自分達に害のある行為以外は罪ですらない。


 殺人鬼と英雄。この違いは大多数の人に認められるか否か、である。英雄が生まれる地は、殺しが正当化されてしまう場所でもあるのだ。


『恐らくではあるが、ラースの器の気配でも光の申し子が感じ取ったのではないかのう。あやつだけその対策しておかなかったしの』

「チッ、何の為にあそこに預けたんだよ。おい、お前は動けねぇのか?」

『そう言うと思ってな。妾は無理してここまで来たのじゃよ』


 鴉はネルの肩から離れ周りをゆったりと飛行し始める。そうしながら、鴉はネルに過去の契約を告げる。


『丁度良い、全て喰ろうてしまおう。主との契約も果たして貰わんといかんしな』

「……なるほど。そんじゃさっさと行って済ませようぜ」


 全員殺してしまおう、鴉の言葉にネルは特に忌避感を抱くでもなく、まるで散歩に行こうと誘われてそれを了承したかのような気軽さで答える。


 それが所謂一般的な悪である事を()()()()()()()()。人格形成において本と過酷な環境の中で作ってきたネルはどうしてもズレてしまっている。


 それを誰も導く事も、教える事も、学ばせる事もなかったからだ。それどころか人間は幼少のネルをもってして恐ろしい程醜いと、そう感じてしまう部分しか見せてこなかった。


 仕方ない、と一言で簡単に片付ける事も出来る。そうするしかなかったのだから、と言い訳も出来る。それでもきっと、この世界はネルという存在を許す事は無いだろう。


 この世界において、ネルは異分子であり、決して交わる事のない水と油なのだから。


「おい、【アルテミア】の方角を教えろ」

『ここから西じゃが……』

「よし、ここから少し飛ばすぞ。ちゃんとついてこいよ」

『そんな台詞、お主ぐらいしか言えんじゃろうなぁ』




◇◆◇◆◇




「さて、そろそろタカシ殿の様子を見に行きましょう」

『…………』


 ラースとの対話を終えたヒスイは、天の様子を確認しに行く為に道場を後にする。そのままヒスイは朝食である干し肉とパンをトレイに乗せて天のいる家へと向かう。


 その道中、ラースはふと大きな気配を感じ取った。


(何だこれは……。外では何が起こっているのだ?)


 あまりにも遠い為ハッキリとは感じ取れない。それでも感じ取れるのは濃密な魔力だ。それが魔法使いの魔力であろうとラースは何となく、理解していた。


(魔王の残滓、だったか……。我の起源ともなったそやつはもしかしたら魔法使いと関係があったのやもしれぬな)


 ラースが思考に没しているうちに、ヒスイは天が借りている家へと到着する。


「タカシ殿、失礼します。朝食を持ってきたのでお食べに……」


 ガチャリと、扉を開くとそこには床に倒れている天の姿があった。呼吸も不自然で明らかに体調に異常をきたしているのが分かる。


「タカシ殿!」


 トレイを床に置くと慌ててヒスイは天の下へと駆け寄る。しかし一歩を踏み出した途端、ヒスイを呼び止める怒号が自身の内側から響いた。


『馬鹿者! 近寄るな!』


 何故、と口に出すよりも先に事は起きた。天の近くの床が気付けば蠢く影に侵食されていた。それは、瞬時に形を変えると剣山となりヒスイ目掛けて突き出される。


「っ!」


 ヒスイの取れた行動は両手を組み防御の姿勢を咄嗟に構える事だけだった。だがその防御も虚しくヒスイの体は穴だらけとなってしまう。


 玄関ごと吹き飛ばしヒスイの体はボロ雑巾の様に宙を舞う。ドチャッ、と生々しい音を立ててヒスイの体は地面へと肉と血を撒き散らした。


 どう見ても致命傷だ。しかしヒスイはすぐさま起き上がる。抉れた肉や欠損した部位が瞬く間に再生し、五体満足だ。


「あれ、生きてる……?」

『油断し過ぎだ馬鹿者め。我が力を貸さねば即死であったぞ』

「あっ、そっか……ラース殿の力で再生が出来たのですね」

『そうだ。それよりも気を付けろ、おそらくアレはお前の語るタカシとやらではないぞ』


 崩れた玄関から漏れ出す影。蠢く影は瓦礫を包むように広がるとそこには何も無かったかのように影に触れていたものが全て消失していた。


「あれはどういう原理なのでしょうか」

『知らぬ。だが見て分かるだろう、あの影は触れてはならぬものだと。捕食器官か何かだろう』


 影からゆっくりと姿を現わす天。だが自分の足で立っているわけではなく、操り人形のように影が糸状となり天の身体中に巻かれており宙に浮かんでいた。


 意識はないのか頭は力無く項垂れている。まさにされるがまま、といった風だ。


 天を中心に影は形を変えて肥大化していく。巨大な球体から何本も手のような影が飛び出ているその様はまるで蜘蛛である。


『呑まれたな』

「……どういう事ですか」

『言葉通りだ。見ろ、力の制御も碌に出来てないではないか。自我も奪われてただの肉塊と化しておる』

「どうにかして救う事は出来ないのですか!?」

『無理であろう。制御もないただの力の暴走とはいえ我とは比較にならん力だ。救う、などとほざく前にまずは自身の安全を確保しろ』


 でなければまた失う羽目になるぞ、とラースは言う。その言葉にギリッと唇を噛みしめる。


「どうすれば、良いんですか……」

『……我に体を貸せ。この里から離す事ぐらいなら出来るであろう』

「! 本当ですか!」

『だがそれまでだ。それ以降はどうしたところで我では時間稼ぎすらままならん。誰かの力を借りるしか止める手立ては無い』


 それでも良いのか? とラースは問いかける。


「愚問です。それが最善策ならば行うべきでしょう」

『……つくづく思う。人間とは何故にそこまでして同種を救いたがるのか。救う命より奪う命の方が多いであろうに』

「今言ってる場合ですか。急いでください、そろそろ動き始めてもおかしくないのですから」

「……そうだな」


 ヒスイはゆっくりと目を閉じる。そして、カッと目を見開くと同時に髪が白から黒へと染まっていく。足元からは黒い炎がチロチロと這い出ていた。


「来い忌み子よ。我が貴様の相手となろうぞ!」


 ラースの言葉に呼応するかのように体から黒い炎が自身を燃やすかのように出現する。


 蜘蛛のような形をした影はピタリと動きを止めると、影のいたる所から眼球がボコボコと生えてきた。そして天が埋まっている部分より下がひび割れのように裂ける。


 それは、まるで物語に出てくるような正真正銘の化け物だった。


『——————!!!!』


 声ならぬ声をあげて化け物は目の前の餌を食べようと蹂躙を始めた。

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