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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第一章 出会い
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一悶着

「あの、なんでフードまで被って顔を隠す必要があるんですか?」


 そう言いつつも天はフードをちゃんと深く被りネルの背中にくっつくように歩いていた。現在2人がいるのは【ゴルセット】だ。向かっている場所はギルドである。天はずっと町の景観を見ては感嘆の声をあげる。


「ここが【ゴルセット】……。店だらけですね」

「八割が店で構成されてるような町だからな。小さいが商業都市と肩を並べるぐらいには物資の流通があるみたいだぞ」

「へー、髪の色もまばらだしなんだか本当に異世界に来たんだなぁって思っちゃいますね」

「異世界、ね。さっきから嬉しそうだけどそんなに楽しいか?」

「はい! 何度も本で読んでたりしたあの世界が今僕のいる世界だなんて興奮するじゃないですか! きっと魔物とか魔法とかあるんですよ!」


 興奮気味に言う天に肩をすくめるネル。そろそろギルドに着く頃なので念のために天に絶対フードを取らないように言っておく。


 天はしっかりと頷いていたのでそれ以上は言わずギルドに到着するとすぐに中に入り受付嬢の所まで足を運ぶ。


「支部長はいるか?」

「はい、少々お待ちくださいませ」


 二度目の対面というのもあり、受付嬢はすぐに奥まで引っ込む。するとすぐに支部長が走ってやって来た。しかも必死の形相で。


「ロージュ様!!」

「お、おう。そんな顔してどうしたよ」

「今すぐにでも話を聞かせてもらいますからね!! 急いで来てください!!」


 ネルは周りを見て呆けている天に待っててくれ、と言うと支部長と共に奥に引っ込んでいく。それに合わせて受付嬢がカウンターに戻ってきた。


 天は言われた通り待とうと思い、座る場所を探そうとキョロキョロしてると、ふと誰かの視線を感じた。


 天はその視線の主を簡単に見つけられた。それは少し離れた席で酒瓶を掴みながら天を凝視する騎士の一人だった。


(うっわー。なんか凝視されてる……。僕何かしたかなぁ……)


 視線を逸らしてすぐ近くに木で出来たテーブルと椅子があったのでそこに座る。そこで天はまた気づいた。


 なんだか視線の数が増えているような気がする。その視線から逃げるようにフードを目深に被りなおし木製のテーブルの模様を見つめる。


(めちゃくちゃ居づらい……)


「おい」


 その声に天は肩をビクリと跳ね上げる。


「は、はい?」

「ちょいとツラ貸せや」


 天は恐る恐る顔を上げて声の主の顔を見るといかにも、といった風な顔に傷がついた不良といった言葉が一番似合う男がいた。悪く表現すればどっかのヤクザみたいだった。


「えっと、その、僕ここで待ってないといけなくて……」

「あ? 俺の言うこと聞けないわけ?」

「そ、その……。ここで話をする訳には……」

「へー、口答えまでするんだ」


 そのニ人の様子を見ていた周りの人達は声を潜めてヒソヒソと喋る。どうやら不良の男には関わりたくないようで、フードを被った少年を誰も助けようとしない。


「可哀想に……。あの男に絡まれるなんてついてない」

「本当にな、前みたいに半殺しにされなきゃいいけど……」

「しかもあれで騎士より強いってんだから最悪だよな……」


 周りの人達はただただフードの少年がせめて暴力によって運悪く死なないように祈るだけだった。




◇◆◇◆◇




「……それで、何故そんなに慌ててるんだ?」

「これを見てください」


 支部長が提示してきたのはマジックアイテムのあの地図だ。リアルタイムで地形などが観測されるという便利極まりないアイテムである。


 そしてそのマジックアイテムの地図をネルが見た瞬間、前回見た時と違いがある事に気付いた。


「……もう既に町に到着してる?」

「どういう事か知りませんけどもう既にこれは町を覆っています。違和感は感じられますがそれがあまりにも漠然とし過ぎて何が違和感なのかも分かりません。……この正体が分かりましたか?」


 ネルは思案する。この禍々しいぐらいの黒い塊を探しにあの森まで向かったはずだ。けれど全くもってその正体も掴めず見つけたのはシノノメタカシとかいう少年だけ———


「あ」

「どうされましたか?」

「……そういう事、か? だとすると……」

「あの、ロージュ様?」


 支部長が再度ネルを呼びかけようとする前に、ネルは立ち上がり部屋から出て行く。


「ちょ、ロージュ様!?」


 支部長は慌ててネルを追いかける。少し長い廊下を真っ直ぐに進むとギルドの広場に出る構造となっている。そこで歩きながらネルは言った。


「依頼は完了だ。それで報酬の件だが、1つ頼み事を聞いて欲しい」

「は、え!? 完了って、どういう事ですか!?」

「明日にはその黒い塊は消えてるはずだから気にすんな」


 何か言おうかと思ったが支部長はすぐに諦めた。あの騎士長が大丈夫だと言ってるのだから大丈夫なのだろう。それに説明する気もなさそうだ。


 それならば思考を切り替えて報酬の件での頼み事について考えるべきだ。


「……分かりました。それで、頼み事というのは?」

「私の連れにステータスカードを作って欲しいんだ。ちなみに登録する際の内容は見ないで欲しい」

「それはどういう……おや、何か騒がしいですね」


 支部長が少し早足で廊下を抜けると広場で一人の男が暴力を振るっているのが確認できた。フードが脱げないように必死にフードの端を掴んでる少年の腹を何度も男が蹴りを入れているという光景に急いで止めようと支部長が男の名を呼ぶ。


「レオル!! やめなさい!!」

「あん? おー、支部長様じゃないすか。どうしたんすか? いきなり大声あげてビックリするじゃないすか」

「その足を止めなさい」

「足? あー、俺は必死に止めようとしてるんですけど腹に勝手に吸い込まれていくんすよね〜。いやー参った」


 そう言いながら何度も腹部へ蹴りを入れるレオルと呼ばれた青年はヘラヘラと歪んだ笑みを浮かべている。


 支部長がレオルを止めようと近づこうとした時、支部長にもう一人声をかける人物がいた。


「何の騒ぎだ?」

「いえ、ネル様の手を煩わせるような事では……」


 言いかけて支部長はゾッと鳥肌が立った。背後に突然巨大な殺気の塊が出現したかのように感じてしまったからだ。分かっている、これの正体は背後にいる騎士長によるものだと。それと同時に疑問もあった。


 何がそこまで怒りに駆り立てるのか、それが分からなかった。だがその答えはすぐにネルの言葉で支部長は理解する事となる。


「おい、そこの醜男。その足をどかせ」

「んだと? おいおい、騎士ごときが何言っちゃってくれてんの?」

「ゴフッ、ゲホッゲホ……」


 ネルはゆっくりとした足取りでレオルの下へと歩み寄る。支部長はそれを止めようとしたが体が動かなかった。まるで蛇に睨まれた蛙のようにネルの殺気にあてられただけで動けなくなってしまったのだ。


「はっ、全身甲冑とかよっぽど痛いのが嫌みてぇだなぁ臆病者」

「お前みたいな下衆に見られるのが嫌でな」

「……ああそうかよっ!!」


 青筋を浮かべてレオルは掌から炎の塊を生み出す。その炎の塊をネルに向けると高速で射出されネルめがけて一直線に放たれた。


 レオルが使ったのは魔法、中級レベルの〝火球〟だ。


 この世界において魔法を説明しよう。


 魔法とは自身に宿る魔力を糧に発動する術の事である。魔法を発動させるにはまず自身の魔力を目的のものに変化させる必要がある。


 これが難しくどのような効果の魔法にするか、それを魔力から魔法へと変換させるプロセスに置いて誰もが苦労するのだ。


 それについて人にもよるが様々な手段が考案されている。例えば魔方陣を構築し、その魔方陣に魔力を流し込む事により組み込まれた式通り魔法が発動する事も可能である。


 しかしこの魔方陣を構築するのがこの世でもっとも難しいものであり、魔方陣を構築出来る魔法使いは指で数える程度しか存在しない。


 だからこそ魔方陣が描かれた武器などはかなりの希少価値があり、アーティファクトと呼ばれるアイテムに分類される。


 これだけであれば魔法は才能に左右されそうに聞こえるが実のところそういう訳でもない。魔法のほとんどは才能によるものではなく努力によって成し遂げられるものだ。


 魔法とは元々才能のない人物が才能のある人物に追いつきたいが為に作られたものである。


 たしかに才能で魔法を使える者もいるがそのほとんどは、努力により鍛錬してきた魔法使いが使う魔法よりも劣る。だからこそ魔法使いはその努力が認められ尊敬の眼差しで見られるジョブでもある。


 ちなみにレオルが使う魔法は才能によるものであり、中級魔法を詠唱もなしに発動させることからかなりの才能がある事が分かる。


 そのせいもあり、レオルは才能に溺れて魔法を武器に様々な悪さを行ってきた。逆らう者がいれば暴力を振るい、力がある者だった場合は魔法で手酷く痛めつけられる。厄介なのはレオルを止められる者がこの町にいなかった事だ。


 そしてレオルの放った〝火球〟は直撃すればよくて全身大火傷、悪くて焼死という危険な魔法だ。


「死ねや! クソ騎士!」

「……ふん」


 だが、その危険極まりない〝火球〟をネルはいともたやすく片手で弾いた。その光景に周りが目を点にして驚愕の表情を浮かべている。


 しかもそれだけではない。弾かれた〝火球〟はそのまま放った術師へと返っていき、あっという間にレオルは自身の魔法で焼かれていく。


「ひっ、ヒァァぁぁぁあああ!!?!?!!!」


 悲鳴をあげてレオルは苦しみながら床を転げ回っている。あまりにも火の手が強く、それだけでは消えずギルドに飛び火しそうな勢いでレオルが燃えている。


 それを周りの面々はただただ息を飲んで静止していたが、やがてレオルの悲鳴に恐怖を覚えたのか所々から悲鳴があがり始めた。


「ちっ、うるせぇな……」

「あ、あの……ネル様? 少々やり過ぎでは?」

「何故?」

「いや、何故って……」


 ネルの言葉に戸惑う支部長。こうしている間にもレオルが断末魔に近い悲鳴をあげながら燃えてしまっている。既に周りにも火が延びて火事になりそうだ。


「勘違いするなよ? 私は敵意を持って使われた魔法を術師に返しただけだ。まともにくらえば常人は即死級だったろう。そんな危険なものを他人に向けた時点で自分が安全ってのは都合が良すぎだろ?」

「で、ですが! 彼だってこの町の住人です! 今回は私に免じて許してやってください!」


 支部長はバッと頭を下げて懇願した。それに少し面を食らったネルは理解出来ないといわんばかりに首を振ると諦めの言葉を口にする。


「チッ、分かったよ。確かに人殺しでとやかく言われんのも面倒だからな。これで手打ちにしよう」

「ありがとうございます……!」

「そういやあっちの方向に噴水があったよな?」

「? え、ええ。それがどうかしましたか?」


 突然の話の方向に支部長は何故今その質問をするのか不思議でならなかった。質問の意図が分からず困惑している支部長にネルはなるほど、と返事をする。そして、


 ドゴン!!


 ネルは転げ回っていたレオルを蹴り上げたのだ。レオルが天井を破壊しながら外へと吹き飛んでいくのを周りはただただ呆けて見ることしか出来なかった。


 しばらくしてから外から悲鳴が聞こえてきたのを尻目にネルは天を抱えると支部長にで奥に行こう、と親指で伝える。


 支部長は急いで奥へと引っ込んでいきネルもすぐに奥へと消えていった。しばらくしてギルドの酒場はザワザワと騒ぎ始め、やがてそれは興奮した声に変わっていき先程の出来事を口々に喋り始めた。




◇◆◇◆◇




「はぁ……。まったく、どうなる事かと……」

「まぁ気にすんな。それより早めにステータスカードを作ってくれ」


 支部長はなんだか胃が痛くなってきた。だがそれでもネルの要望に応えるべく準備をし始めるあたり、かなりのお人好しだったりするのかもしれない。

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