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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第一章 出会い
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呪われた黒髪の少年

 ネルは転んで動かなくなった少年をじっと見つめる。それは確かに黒髪の少年だ、紛れもなく異質の存在だ。


「……大丈夫か?」

「うぐぅ……」


 聞こえてきた声はなんだか今にも泣き出しそうな震えた声だった。ネルは特になんの反応も示さず剣を抜いてわざとシャラン、と音を高く響かせる。


 その音にビクリと体を震わした少年は起き上がると慌てて四つん這いで距離を取る。


「ななななんですか!」

「それはこちらの言葉だ。お前はここで何をしている」

「あ、う……。えっと、その……」


 歯切れの悪い受け答えにネルはイラついたように剣の切っ先を少年に近づける。少年はひぃ! と情けない声をあげてすぐさま両手をあげて抵抗の意がない事を示す。


「すすすすみません! 僕にも分からないんです!」

「あ?」

「巫山戯てるとかじゃなくて本当に分からないんですって! だからチクチクしないでください!」


 少年は泣き目で若干ヤケクソ気味に叫ぶ。しかしネルは剣を収めず淡々と次の問いを投げかける。


「名前は?」

「東雲天です……」

「シノノメタカシ? 変な名前だな」

「そ、そうですか……? その、普通の名前だと思うんですけど……」

「勝手に喋るな」

「ごめんなさいっ!」


 ネルは心中でため息をつきながら目の前の少年の出自も聞き出そうとする。少年は次々に投げかけられる問いに正座で震えながら全て答えた。


 質問が終わると剣の切っ先を首につけたまま、思案するネル。天は黙ったまま冷や汗を流してこれからの事を考えて震えている。ネルが質問して分かったのを要約するとどうやらこういう事らしい。


 シノノメタカシはニホンなる場所に住んでいた。しかしどういう事かここ数日の記憶が無いのだという。そのためどうして自分はここにいるのか、いかなる手段でここに来たのかが分からないという。

 

 一応、この森の中でもどうにかしようとしたらしく取り敢えず人に会おうと森の中を散策していたら馬の足音が遠くから聞こえてきてその足音を追うように近づいたら()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして遂に耐えられなくなり逃げ出してしまった、そういう訳らしい。捏造とかしてないよ、うん。


 それよりも、だ。これらを棚上げにしてでも気になる事が実はある。黒髪についても言及したいがおそらく先天性のものだろうと想像はつく。そう、なら一番の問題は。


「お前、呪われてるぞ」

「……呪い、ですか?」

「おう、それも特級レベルの呪いだ。正直私も警戒するレベルの高さだよ」

「あ、あの。質問よろしいでしょうか」


 許す、とネルが言うと天はビクビクしながら言った。


「そのー、呪いって状態異常とかそういうやつですか?」

「……は?」




◇◆◇◆◇




「……なるほど、お前本当に何も知らないんだな」

「だからさっきからそう言ってるじゃないですかぁ……」

「……なぁ。お前これからどうするつもりだ?」


 ネルの問いに天は慌てたように考える素振りを見せる。その態度にようやくネルは剣の切っ先を天から離して鞘へと納めた。そしてネルは声を低くして言葉を紡ぐ。


「いいか、よく考えろ。この質問で私がお前をどうこうするつもりはない。だから私の機嫌取りの為に考えるな、自分の保身の為に考えろ。お前が、今、どうしたいかを、最優先に考えるんだ」

「……あ、う……。えっと、それは……」


 天の瞳は戸惑いで揺れていた。あまりにもその質問には切羽詰まった何かを感じとり、心をざわつかせてしまっている。何か、答えを間違えば取り返しのつかない事に繋がってしまいそうな、そんな漠然とした不安が天を不安にさせているのだ。


 そんな天が答えを出すよりも先にネルが言葉を発する。


「……すまない、少し感情的になっていた。今すぐに答えを出して欲しい訳じゃない。けれどこの世界ではその答えは必ず必要になる。それまで少し考えてるといい。……っと、少しその木の後ろに隠れていてくれ」


 そう言うがいなや天の首根っこを掴むとポイと奥に投げる。グェっと変な声が聞こえたがネルは聞こえないふりをして少し歩くと多数の馬の蹄の音が聞こえてくる。


 音は近づくにつれ、それが聞こえた天も取り敢えず木の裏に隠れて少し顔を覗かせてネルを見ている。


「ロージュ様! 先程大きな気配がありましたが大丈夫ですか!?」


 聞こえてくるのは騎士達の声だ。すぐに複数の馬に跨った騎士がやってくる。騎士達はネルを視認すると馬を止めて全員降りてネルに駆け寄る。それを見てネルは不快そうに言葉を放つ。


「出たな暇騎士共」

「……お元気そうで何よりです」


 ネルの言葉に騎士達は気まずそうに言う。その辛辣な言葉に我慢してそう言った訳ではない。元々支部長からネルは自分以外に対して辛辣な態度を取るので我慢して欲しいと言われているが、そこは問題ではないのだ。


 支部長からの願いというのもあるが騎士達からしたらネルは憧れでもあるのだ、だからこそ近寄りがたく、何より会話がしづらい。


 有名人過ぎて自分が近寄るにも恐れ多い、といった風だ。


「それより、先程巨大なおぞましき気配を感じて急いで向かってきたのですが……。もしや発見されましたか?」

「そう聞くってことはそっちは見つからなかったのか」


 騎士達の問いには答えず逆に質問で返すネル。


「はい……。申し訳ありません……」

「丁度いい。お前ら町に帰れ」

「え……それはどういう……?」


 騎士の一人が戸惑ったように疑問を発する。ネルは当然だと言わんばかりの態度で騎士に帰れと言っている。


 何故このタイミングに帰還するのか? だがその質問にもネルは答える気がないらしく騎士達の反応を待っている。騎士の一人が恐る恐る再度同じ質問をする。


「ロージュ様、何故このタイミングでそのような言葉を……?」

「お前らが知ってどうする。さっさと帰れ。足手まといはいらん」

「で、ですが……」

「三度目はない」


 その言葉にはとてつもない威圧感があった。理不尽だというのに有無を言わせないその圧力に騎士達は揃って体を硬直させる。


 何かを言おうと思ってもその圧力で体も動かせずただただその圧迫感に耐えるだけとなってしまっている。


「ふん、理解したらさっさと帰るんだな」


 ネルは背を向けるとその場から離れる。それと同時に騎士達を圧迫していた威圧感も消え騎士達がその場で崩れ落ちる。騎士達は呼吸を乱しながらも急いで立ち上がり馬に跨るとすぐさま帰還する為に馬を走らせた。


 それから数秒、ネルは周りが静かになると少し離れて隠れている天を呼びかける。その声に反応して木からひょっこりと体も出す天。


「ほら、もう出てきていいぞ」

「……いいんですか? あんな強く言って帰しちゃって……。仲間なんでしょう?」

「いいんだよ。あれぐらい言わなきゃしつこくついてきただろうからな。それとあれは仲間じゃなねえから」

「……そういうものですか」

「そういうもんだ」


 ネルは金属の擦れる音を立てながら天の近くまで歩み寄る。そして、ポンと天の頭に触れると行くぞ、と言い歩き始める。天はハッとしてネルの背中を追いかけた。


 森をネルと共に歩く道中、天は話しかけてきた。


「どこに向かってるんですか?」

「この先にあるであろう何か、かな。元々私は依頼でこっちまで来てたんだ。それを探さなきゃならんのだ」

「えっと、その何かっていうのは物なんですか?」

「いや、どうだろうな……? 大きさだけで言えば【ゴルセット】と同じかそれより大きいぐらいだな」

「ゴルセット? え、どういうアイテムですかそれ。コルセットではなく?」

「はぁ?」


 天の言葉に思わず足を止めて振り返るネル。天は「もしかして僕の回答間違ってます?」と首を傾げている。そこでようやくネルは改めて天はここについて何も知らないのだと認識する。


 まるで勝手の知らない別の国に来た田舎者のような印象を受けてしまう。ここまで来ると迷子という話も益々信憑性を増してきた。


「……今は説明するのも面倒だから言わんが後で色々と話をする必要があるな」


 これだけであればただの無知な少年と受け取れるだろう。実際ただの迷い込んだ無知な少年であればネルは気にかけることなくその少年を置いていくに違いない。けれど、置いていかなかった理由がある。


 ネルにとってはとても重要な理由だ。


(まだ肌がピリピリしてる。本当に化け物級の呪いだなこりゃ。もしかしたら記憶の障害もこの呪いのせいか……?)


 ネルが化け物級と称する程の呪いがこの少年を呪っているからだ。特級被呪者、そして何よりこの世界で最も危険視される黒髪、その2つの要素がネルにとって天を気にかける理由である。


「さて、どうしたもんかな……」

「?」


 こうしてネルと天はしばらく森林を彷徨う事となった。いくら探しても目的の黒い何かを探し出すことが出来ず、ネルは意気消沈しながら【ゴルセット】に帰ったのはそう遠くない話である。

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