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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第一章 出会い
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始まりの出会い

 現在、ネル=ロージュは護衛である騎士達と共に馬に乗りながら森を駆け抜けていた。薄暗い森というのもあり視界が悪く、ネルは思わず舌打ちをする。


 それが思ったよりも大きく響いたらしく周りの騎士が少しうわずった声で申し訳ありません、とネルに対して謝罪する。ネルは顔を含め全身を甲冑で覆っているため今彼女がどんな表情をしているのかも分からず騎士達は気が気がでないのだ。


 実のところ、ネルの素顔を知っている者はこの中にはいない。それどころか髪の色、素肌すらも見たことがないのだ。ただ分かるのは強いという事だけだろう。


 それは権力的にも、実力的にもである。


「いい、ここからは散開して探そう。何もなければないで十分後に集合だ」

 

 くぐもったその声に騎士達は頷くと少しずつ距離を取りそのまま方向を変え、進んでいるうちに木々であっという間に姿が見えなくなる。

 

 ようやく一人になれたネルは手綱を握りながらこの依頼を受けてしまった自分の運の悪さを心中で嘆きながらどうしてこうなったのかをついつい思い出してしまう。そう、始まりは任務を終えてギルドに寄った時のはずだ。




◇◆◇◆◇




 ギルド支部を中心に構える小さな町【ゴルセット】

 所狭しと建てられている建物の八割はなんと全てが店である。町という商業都市と言っても過言ではないくらいとにかく物資に溢れている町だ。


 ならば残りのニ割は住人の家かというと答えは否である。ここでは店のほとんどが店舗兼家であり、逆に家だけというのが指で数える程度しか存在しない。では残りのニ割は何か? 簡潔に言えばそれは教会であったり宿屋であったりする。


 教会が乱立して建てられているというのも妙な話だがここではあまり不思議な話ではない。


 この町の特徴として物資に溢れているというのを説明したが、他にも特徴がある。それはこの町ならではの特徴である。その特徴とは様々な種族がいるという事だ。


 物資も溢れていれば自然と人も溢れかえる。それ故に様々な宗派に属している人もいる。そしてそれに合わせて教会なども建てられているという訳だ。


 お互い不干渉を貫き通しているかと思えばそういう考えもあるのだろうと理解して普通に接しているあたり教会の人もよくできた人である。


 そう、この町の住人はとにかく優しいのだ。というのもここの住人のほとんどがワケありだったりするのでワケあり同士通じるものがあるらしく相手の事情など関係なく平等に接してくれる。それが心地よい関係を作り平和な町を築きあげてきたのだ。


 そんな平和な町の中心、つまりギルドにネルはいた。ギルドは木造による広い酒場のような内装をしておりテーブルには色んな冒険者達やら騎士やらで昼間から酒を飲み冒険の話に花を咲かせている。


 ネルはカウンターの受付嬢に一枚の手紙を差し出して会話をしていた。全身甲冑の人物がカウンターで会話をするというシュールな光景に周りの人ついつい視線を向けてしまうのは仕方のない事だろう。


「支部長を呼んでほしい。依頼された任務を遂行してきた旨を伝えればすぐに来ると思うんだが」

「はい。支部長よりお話は伺っております、ネル=ロージュ様でございますね? 念のため本人確認の為にステータスの表示をお願いします」

「手早く済ませてくれ」


 そう言うとネルは腰に巻きつけている袋から長方形の黒いプレートを取り出し受付嬢に手渡す。黒いプレートをカウンターに取り付けられている機械に差し込みスライドする。するとピピっと軽い電子音が響くと同時に緑色の薄い画面が受付嬢の目の前に出現した。


 少しの間その画面を見つめていた受付嬢は頷くと黒い長方形のプレートをネルに返却する。


「はい、確かに。すぐに支部長を呼んでまいりますので少々お待ちください」


 そう言って受付嬢は奥へと引っ込む。


 受付嬢の言う通り数分も経たないうちに奥から人がやってきた。茶髪で眼鏡をかけており、灰色のスーツに身を包むその姿はいかにも秘書、といった青年だ。


 どうやらこの青年がこのギルドの支部長のようである。


 支部長はネルをソファーに座るように促すと向かい合うように対面席に支部長は座る。


「初めまして、ですね。ロージュ様の武勇はよくご存知です。今回は依頼を受けてくれてありがとうございます」

「いいよ、気にするな。それより私にまだ何か用か? わざわざ感謝を述べに来た訳でもないだろ?」

「実際それだけなんですが……。ああ、いやもちろん話はありますよ? けどネル様に対して依頼を受けてくれたのにそれを書面上の形だけで済ませるのはさすがに気が引けるというものです」


 ネルはあっそ、とくだらなそうに言う。支部長はそれを苦笑いで受け流しながら懐から地図を取り出しテーブルに広げる。


「これは【ゴルセット】の周辺を記した地図なのですが、これがまた便利なマジックアイテムでしてね。リアルタイムで地図を更新してくれるので何か異変があった時感知しやすいんですよ」

「あ? アーティファクトじゃないのか?」

「ええ、マジックアイテムです」


 マジックアイテム、それを説明するには先にアーティファクトやアイテムについて説明する必要があるだろう。まずアイテムというのは名前の通り道具のことを指す。


 アーティファクトとは特殊な能力が付与されているアイテムを指す呼び名である。マジックアイテムも同じ意味でアーティファクト同様特殊な能力が付与されている。アーティファクトとマジックアイテムの違いはそれが人工物か自然物か、という事だ。


 たったそれだけ、と思うがこれには大きな差があったりする。アーティファクトの場合、原理は分からないが想像を絶する効力を発揮するためとても人の手には負えない危険なアイテムでもあったりするのだ。

 

 人の手によって作られた特殊なアイテムをマジックアイテム、自然に作られたアイテム、もしくは魔法使いが手を加えたアイテムを特殊能力あるなしに関係なくアーティファクトと呼ぶ。


 後者の魔法使いが手を加えたアイテムは例外で、魔方陣が刻まれているアイテムなどはアーティファクトと比類なき効果を持つアイテムなのだ。


 今回支部長が提示した地図はマジックアイテムと呼んでいたので誰かが作ったアイテムという事になる。


「そりゃ凄いな。マジックアイテム作れるスキル持ってるやつなんか希少だろうに」

「うちの自慢の錬成師ですよ。今度紹介しましょうか?」

「別に。それより話ってのは何だ? 私としてはこれ以上面倒ごとは嫌なんだが」

「……いえ、それが騎士長であるネル様にしかお願い出来ない案件でして……」


 支部長は申し訳なさそうに言いながらマジックアイテムである地図のある一点を指差す。そこをネルが見ていると正方形の黒いシミのようなものが蠢いていた。


「うげ、なんだこれ。この大きさレベルだと……ここより大きいかどうかの町ぐらいはあるんじゃないのか?」

「はい、それだけならまだ対処のしようもあったのですが……。問題は見ての通り動いているんですよ。偵察に何人かの冒険者に依頼を出したのですが誰一人戻ってくる事なく依然行方不明です」


 冷や汗を垂らしながら深刻そうに支部長は言う。対してネルは特にこれといった反応もない。まるで興味がないといった様子だ。それでも一応話を続ける気はあるらしく、ネルは支部長に問いかける。


「被害の規模は?」

「三チームが向かい人数は七人です。これ以上は無理だと判断して王国に連絡するつもりだったのですが運良くネル様が依頼でこの町に来ることを聞いて相談しようかと思った次第でして……」


 ネルは不快そうにため息をつき、ガシャリと甲冑が擦れ合う金属音を響かせながらくぐもった声で応答する。


「なら王国に連絡しろよ。よりにもよって何故私なんだ」

「……ずっと確認してきたから分かるのですがこれはゴルセットに着々と近づいているんです。このままではすぐにでもゴルセットにこれは来てしまうでしょう。そうなればひとたまりもありません。王国に連絡をいれたとこで騎士が来るのに早くても三日はかかるでしょう。それじゃあ間に合わないんですよ」


 段々と言葉に熱がこもり始めたのをネルは気付きながらも特に気にせず話を聞き続ける。やがて支部長はハッと自分が熱くなり過ぎたのに気づいて咳払いをする。


「……はぁ。分かった分かった。引き受けよう」

「本当ですか!?」


 支部長は顔をガバッとあげて驚いたように声を出す。その顔は感謝してもしきれないと、些か過剰過ぎる程の感情が窺える。


「もちろん報酬についてはちゃんと払ってもらうからな」

「ど、どれくらいの金額をご所望で……?」

「さて、それについては私が任務を終えてからだな」


 そう言ってネルは立ち上がってさっそく動こうとしたのだが、それよりもいち早く支部長が待ってください! とストップをかけた。


「任務を引き受けてくれた上に何度もお願いをするのは心苦しいのですがこちらで仕えている部下達を連れて行ってくださいませんか?」

「断る。足手まといを連れて行くほど出来たやつじゃないんだ私は」

「そこをどうにかお願いします! 原因の究明の為には記録係も必要なんです!」

「……チッ、これだから偽善者はこれだから嫌いなんだ」


 辛辣な言葉を吐きながらもネルは嫌々その願いも引き受けた。




◇◆◇◆◇




 ネルは不快そうに再度ため息をつくと、速度を緩めるよう馬に手綱で伝える。すると馬はブルル、と唸りながら段々と速度を落としてやがてゆっくりと歩くようになる。


「さて、どうしたものか……。地図を見た限りじゃここら辺があの黒い正方形の—————」


 瞬間、ゾクリとネルの背中に悪寒が走る。馬も何かを感じたらしく、口から泡を吹きながら狂ったようにヒヒィン!! と叫んでいる。


 心なしか空気もピリピリと震え、ネルはすぐさま馬から降りると、柄に手を添えていつでも抜刀出来るよう臨戦態勢をとる。


「……来るなら来い」

 

 ネルが殺気を放つと暴れてた馬が怯えたように声を小さくしてその場で足踏みをする。すると近くで足音が聞こえた。


 すぐさまネルは足音の聞こえた方向へ剣の柄に手を添えたまま走る。するとあちらもこちらに気づいたのかガサガサと音を立てて走る足音が聞こえてくる。


 だが逃走者よりもネルの足の方が遥かに早くどんどん距離は縮まっていく。そしてこの薄暗い森の中でもようやく逃走者の背中を視認出来た。


(……子供、か?)


 その背から十五〜十七ぐらいの歳だろうと推測するも手を抜かず追いかける。この逃走劇はすぐに幕を閉じる事となった。


 何故なら逃走者が転んでしまったからだ。その際に顔を打ち付けてしまい動かなくなってしまった。


 ネルは無言のまま逃走者である子供に近づく。そしてその姿を見て彼女は動揺する。


 何故なら子供の髪の色は、黒だったからだ。(・・・・・・・)






———それが、彼女にとっての運命の出会いであった。

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