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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第ニ章 夢の続き
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正月SP ハッピーニューイヤー

「あけましておめでとうございます〜」

「お、おう?」

「……おめでとう?」


 朝の開口一番、天は不思議な言葉で挨拶してきた。ネルとティナは意味がまったく分からず曖昧な返事しか出来なかった。


 その様子に気づいた天はハッとした表情で手を口に当てる。わなわなと震えた後に、天は恐る恐る言った。


「まさか正月をご存知でない……?」

「なんじゃそりゃ。料理の名前か何かか?」

「……私も、知らない」


 そっかー、などと天は頷く。どうやら正月という概念が存在しないのでは? いや、そもそも祝う日という考えがこの世界には存在してるのかどうか怪しい。と天はずっと思ってたりしていた。


 そしてその考えはどうやら正解だったようだ。これは、きっと文化の違いなのだろう。こうしてみると本当に自分は異世界にいるのだと天は変に実感してしまう。


「そうですねぇ、正月っていうのは一年が終わりを迎えて新年を祝う年頭の事なんです」

「ふーん、なんでまた新年を祝ったりするんだ? 私にはよく分からん」

「祝い事が好きですからね。特別な日を重要視するですよ。僕達の世界では」

「そりゃ賑やかだこと。私達にはそういうのがあんまりないからなぁ。時間なんて日の昇り具合で判断するし」


 それにはティナもこくりと頷く。ネルとティナ、いや、この世界の住人はそれが当たり前なのだ。天の常識はここでは馴染まない。しかし、だ。


「うん、面白そうだ。そのショーガツとやらに興味があるぞ私。どうやるんだ?」


 ネルにはその常識は通用しない。そもそも彼女自身がそういった人間社会、もといこの世界においての非常識な存在でもあるのだ。だからこそネルは当たり前に囚われない。


 それに根本的な問題、ネルは天の言葉を全て受け止めるぐらいには度量(天に対して限定)があるのだ。


「簡単ですよ。祝う日ですからね、美味しい料理とか食べて新年を気持ちよく迎えようって感じです」


 だから今日の料理は腕をふるいますよ、と天は微笑みながら言う。ネルは少し首を傾げると何を理解したのか頷き部屋からすぐさま退出していった。


 天はうーん、と背伸びをすると台所へと移動する。部屋に1人だけ残ったティナは、何をするでもなくしばらくはボーッとしていたが、ふと良い匂いがしてきたのでそれにつられるように台所へと足を運ぶ。


 そーっと台所を覗いてみると天が椅子の上に立ってフライパンでなにか炒めているようだった。どうやら手が届かないらしく椅子を台座にする事でようやく調理器具などに手が届くらしい。


 なんというか、見ていて微笑ましい光景である。何度か椅子から降りて木箱から食材を取り出してはそれを抱えて椅子に立ってそれを調理する事を繰り返していた。


 包丁の使い方など危なげなく逆に手際よく使いこなしているその様はまさにお母さん。その見た目も相まってこれが男性と判断するのは難しいだろう。


 だが空気を読めるティナは決してそのような事を口にしない。男に見えないと言ってしまった前科持ちではあるが、それでも言わないといったら言わないのだ。


 完成を楽しみにしつつ、ティナは次にネルの様子を見に行く。台所を離れて廊下を歩いていると普段居間として使用している部屋から少し離れた部屋にネルはいた。


「うーん、と着付けはこうか」


 何かの衣装と奮闘しているようだ。浴衣に似ているが多分違うものだろう。浴衣と違い綺麗な模様の入った着物だ。黒を基調とした布地に真紅の花がよく映える、ネルにぴったりの着物だ。


 これにはティナも興味津々で、ネルに話しかけた。


「……それ、何?」

「ん? ティナか。これはな、タカシがいつのまにか持ってたもんだよ。なんでもタカシの自作らしくてな、この前プレゼントされた」

「……それは、その、器用過ぎない?」

「戸惑う気持ちも分かる。けどタカシは手先の器用さが異常だからな……。この前なんか毛糸でヌイグルミ作ってたぞ」

「……それは凄い。そういえば、ネルさんは何を?」


 ネルは神妙な顔で頷くと説明してくれた。


「なんでもタカシの故郷では祝い事の際には正装するらしいんだ。……それに、その〜タカシに『ネルさんって着物絶対に似合いますよ!』って力説されてな…… 」


(……なんか照れてる)


 鏡の前に立ちながら髪を結わえるネル。長い髪を後ろで纏めて簪を挿すと、雰囲気もガラッと変わって和風美人といった言葉が似合う清楚な女性に見える。


 こんなもんかな、と言うとネルは別の着物を取り出した。それも黒を基調とした布地だがネルのとは違い花ではなく星が散りばめられていた。


 それはまるで星空のような、なんとも幻想的な模様が描かれている。布一つにここまで魅せられるとは天の腕は本物のようだ。


「ほら、お前も」

「……え?」

「お前も着替えなきゃな。ほら、手伝ってやるから」

「……いいの?」

「おう、お前1人だけ私服っていうのも嫌だろ? それに着物は取っておくものじゃなくて着て初めて意味があるってタカシも言ってたしな」


 なんだか、照れくさかったがネルは丁寧に着付けをしてくれて髪も整えてくれた。こうやって触れ合えて初めてティナはネルの優しさに触れられたような気がした。




◇◆◇◆◇




「お、おぉ……」


 ネルが驚愕ともとれる声を発する。居間に戻るとそれはもう彩りのある料理が沢山並んでいた。盛り付けも丁寧で全てがとても美味そうだ。


 出来立ての匂いは2人の腹を刺激する。するとネルの腹からくぅ〜と可愛らしい音が聞こえてきた。


「お待たせしました〜。って、わ! ネルさん達着替えてたんですね」

「……似合う?」

「ええ、お二人共とっても素敵ですよ!」


 裏表のない笑顔で天がそう言うので、ネル達は照れて反応に困った。なんだか体がこそばゆくなって、耳が赤くなってしまう。


「どうしたんです? 2人とも顔真っ赤にしちゃって」

「い、いや、なんでもない」


 そうですか? と天は納得してくれた。そしてから、天は頭を下げた。


「改めましてあけましておめでとうございます。今年もどうか、よろしくお願いします!」


 天達の、新たな一年が始まる。未来にどんな事があろうと、この瞬間だけは確かに笑顔で彩られた日だった。

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