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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第一章 出会い
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番外編:星降る夜に願いを

 夜の帳が降りる。空に佇む太陽は姿を隠し今は月が煌々と光を放っており、世界は静寂と柔らかい光に包まれている。僅かに聞こえてくるのは家から漏れてる子供達の笑い声だ。


 そんな星が灯る夜中に、天は屋根に座って空を見上げていた。夜は冷えるようで口からは白い吐息が漏れている。


「綺麗だな」

「ええ、本当に……。って、うわ! ネルさん!」


 いつのまにか後ろにネルが立っていることに気づいて驚く天。バランスを崩しそうになったが、両手を使ってなんとか崩さずに済んだ。


 さすがのネルもショーツだけではなく、ネグリジェのような下着を着て、その上から毛布を羽織っていた。


 それを見て、ちゃんと防寒することにホッとしながらもなんだかんだで下着なので直視できず、視線を逸らす天。


「隣いいか?」

「ど、どうぞ……」


 よっこいせ、と言いながら隣に座るネル。天は視線のやり場に困り、また空を見上げる。夜空には星の川が流れてるのではないかというぐらいに光が散りばめられていた。


「こっちは空気も澄んでるからこんなに綺麗に星が見えるんですね」

「そうだなぁ。けどここまで鮮やかな星空も中々見れないぞ。私もここまでの綺麗な星空は見たことがない」

「へぇ、それはいい事を聞きました。ならこの景色を忘れないように目に焼き付けておかないとですね」


 目を輝かせながら星空を見る天。ネルも空を見上げて満開の星空を眺める。明るく光る星を照らす大きな月が目に留まる。


 しばらくの間、二人は無言で星空を見つめる。やがて、ネルは視線を外さないまま言葉を投げかける。


「また眠れないのか?」

「……はい」

「そっか」


 天はある日を境に悪夢にうなされるようになっており、そのせいでほとんどと言っていいほど眠れていない。


 それがただの悪夢であればネルも気にしてはいなかっただろう。だが夢の内容と、呪われているという特殊な点があるので気にかけてはいた。


 だが、悪夢なんてものの止め方を知る訳もなくネルは天を心配して一緒に寝る事しか出来なかったのだ。


「……ネルさん?」

「ん?」

「ネルさんって、怖いものがあるんですか?」

「あるさ」


 やはり2人とも、星から視線を逸らさない。


「私にとって怖いものは、人間だよ」

「ネルさん……」

「それに今は、タカシを失う事が一番怖いな」


 月の光を浴びて、天から禍々しい気配が強まっていく。しかしネルは気にすることなく普通に話しかけている。


 ネルにとって化け物だから、という理由は通用しない。そんな理由で誰かを否定する事は自分自身を否定するのと同義だとネルは考えているからだ。


 ネルにとっての人生は否定から始まり、今の今まで肯定されずに育ってきたのだ。それにネルは大切な者が何者であろうとも、全て受け入れるつもりだ。


 嫌いな人間であろうと、人外である化け物であろうと、ネルにとっての大切な者である事に変わりはないのだから。


「……そっか、ありがとうございます。こんな僕を大切にしてくれて」

「ただの独占欲だよ。私はタカシが思うよりも綺麗じゃないぞ?」

「それでもですよ。それに、僕はネルさんが汚れていたり綺麗だったりしても、ネルさんは僕の……大切な人です」

「……ははっ、そりゃいい」


 星が長い光の尾を引いて降ってくる。流れ星、それはまるで星が降る夜みたいだった。空には無数の流れ星が降り注ぎ世界を彩る。


 二人は言葉を交わさず星降る夜に目を奪われる。そこでネルはなんとなく、星に願いをかけてみた。特に意味はないが、きっとまた見る事が難しいだろうこの星降る夜に特別な何かを感じたから願掛けをしてみたのだ。


———タカシが幸せになれるように


 実はその時、天も願掛けをしていた。星に願いを託すのは、天のいた日本ではよくある話だからだ。


———ネルさんが幸せになれますように


 なんだかんだで、似た者同士の2人なのかもしれない。星に願いを込め終わると、天がポツリと言った。


「今は、僕達だけですけどね」

「ん?」

「もしも僕以外の人でも関係を持てば、きっとネルさんにとっての何かになるかもしれませんよ?」


 それは慰めの言葉なのか分からなかったが、その言葉は不思議とスッと頭に入ってきた。


「大切なものは失ってから気づく事が多いんです。それは失う前まで同じ時間を過ごしたからこそ、普段は気づけないと僕は思うんです」


 だから、と天は言った。


「いつか仲間が出来ると良いですね」

「……そうだな。私にも、そんな奴が出来るといいが」

「大丈夫ですよ! ネルさんほど素敵な人もこの世界にはいませんし、きっと大人気ですよ!」


 ネルはなんとなく、天の頭を撫でた。天はくすぐったそうにしてたが、なんだか嬉しそうだった。


「さ、冷えるからそろそろ戻ろうか」

「ですね。僕としては普通に服を着れば良いと思うんですけどね」

「そうだな。あ、そういや材料切れてたんだろ? 明日買いに行くか?」

「はい! それじゃ明日は買い出しですね!」


 それからしばらくして、屋敷から灯りが消えた。

今回は番外編でストーリーに関係あるようで実は関係ないかもしれないとある日を投稿してみました

2章の1話も連続投稿したのでぜひご覧ください

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