プロローグ2
驚いた、本当に驚いた。何に驚いたかというと———
「ここ、日本じゃないよね……」
日本、というのは自分が住んでいたであろう国の名前である。何故こんな遠回しな表現をするかというともちろん理由はある。
それは今現在、記憶喪失だからだ。今自分が覚えているものは、自分の名前、そして自分がどんな国にいたかだけだ。
家族はいるのか、友人はいたのか、自分はどこに住んでいたのか……自分という存在は謎のベールに包まれていた。
空虚、何もない、ただ自分は日本にいたという何かでしかない。それが、男だったのか女だったのかすらも分からない。
ただ自分の体を確認したら一応男だった。男性か女性かを見極める方法は簡単だ。ただ、確認するためとはいえ少々勇気が必要ではあったけど。
それよりも、だ。ここはどこなのだろう、さっきも言葉にしてしまったがここが日本ではないのは確かだ。
だとしたら、ここは外国ではないかとも考えたがそれも違ったようだ。理由は明白、武器を持った人間と数人遭遇したからだ。
確か全員で7人ぐらいだったと思う。彼らの共通する点は武器を持ち、防具を着ている事だった。それこそまるで本の中でしか見ないような、冒険者のような姿だった。
それを見て、少なくともここは自分の知る場所ではないと思い知った。そして不思議な事が1つ、気づけば彼等は消えていた事だ。
彼等は皆一様に自分の事を化け物呼ばわりして殺そうとしてきた。それがとても怖くて、ただ目を瞑って耳を抑えてその場で蹲った。
そこから、気づけば自分は立っていた。不思議な事に周りには誰もいない、まるで最初から何もなかったかのようにそこには何も残っていなかったのだ。
気のせいかもしれないけど、そこはかとなく満腹感を感じたような気もした。
それらをあまり気にしないようにしながら森の中を彷徨う事数時間、ついに精魂疲れ果てて座り込んでいると遠くから音が聞こえてきた。
その音は実際には聞いた事がないけどなんとなく馬の蹄の音だという事が分かった。また殺されそうになるのではないかと思って林に慌てて飛び込む。
すると足音が近くで止まったので、誰が来たのか見ようとこっそり顔を林から出してみる。するとどうだろうか、全身甲冑の人が馬に乗っていた。
何やら馬が暴れてるみたいで馬上から降りたようだが問題はその先にあった。何故か殺気を放っているのだ、あまりの恐ろしさに呼吸が止まりそうな程の。
頭が真っ白になってただ逃げなくちゃ、とかしか考えられなくなって無理矢理体を動かした。動かしたらもう体は勝手にその場から逃げようと走ってくれた。
ガサガサと音を立ててしまったがそんな事に頭が回らないぐらいに走った。けど後ろからガシャガシャと鎧が動く時に聞こえてくるあの音が近づいてきていた。
ヤバイ、そう思った瞬間何かに足を取られた。視界が反転して地面が目の前に迫ってきて、そして意識が落ちてしまった。
———そしてから数秒後、少年はとある騎士と知り合う事になる