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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第一章 出会い
13/70

黒髪の少年

 勇者と騎士長との模擬試合から数時間、すっかりと日は暮れて夕焼けが【スリディナ王国】を真っ赤に染め上げていく。


 この時間帯がとても不吉な時間帯とされ、外で遊んでいる子供達も気味悪がって家へと急いで帰る。


 どこの街や村でも夜になるまでとても静かになり活気が失せる中、天は庭で少し錆びた斧を振り下ろしていた。


「ふぬっ……!」

「割れてないぞー。力任せにやったとこで薪は割れてくれんぞー」


 そう、天は現在はネルの指導の下で修行をしていた。何故修行をしているのか、それは天がネルに頼み込んだからである。


 ここで生き抜く為の力が欲しい、そう天は言った。それに応えたネルが最初に出した課題がこの薪割りである。ちなみに割られた薪は風呂焚きとして使えるので無駄にしないらしい。


「これっ、結構、キツイ、ですねっ!」

「喋ってると舌噛むぞー」

「フンヌッ!」


 パコン、と小気味良い音と同時に薪が真っ二つに割れる。これで天が割った薪の数は五個に達した。ちなみにこの薪割りを始めてから二時間も経っているのだが、それでようやく五個という数に天は少し自身に対して落胆していた。


「よし、課題達成だ。今日はまずこれで終了な」

「あ、はい……。いやぁ……まさか薪割りがここまでキツイとは……」


 ゼェゼェと天は肩で息をする。そんな天の様子を見て切り株に座っていたネルは軽く笑う。


「闇雲に力を込めて振ればいいって訳でもないからな。鍛えるにはもってこいだ」

「けど五個って、少ないですよね……」

「そうか? 薪割りなんてのは一旦コツを掴むと数とか関係なくなるからな。最後は体力と集中力が肝心だ。だから二時間もぶっ通しでやったタカシは出来た方だと思うぞ? というか正直その細腕でそこまでやれたのが凄いと思う」


 そういうもんですかね、と天は息を吐いて仰向けに倒れる。空は夕焼け色でとても綺麗だ。流れる雲もオレンジ色に染まり世界を鈍く照らしている。


 日本でもなかなか見る事の出来ない光景に天が空に目を奪われていると、ネルがポツリと天に言葉を投げかけた。


「……なぁ、体は大丈夫か?」

「ん? 全身筋肉痛ですよ?」

「あー、いや、そうじゃなくてな……。その、城に行った時何か変わった事とかあったか?」


 えらく大雑把な質問ですね、と天は苦笑する。そしてから天は、うーん、と唸り視線を空から離さないまま返答した。


「あのネルさんがぶっとばしちゃった人いるじゃないですか」

「ああ、それが?」

「なんて言えばいいんでしょうか……。その、見た瞬間に、生理的に受け付けないタイプだなーって」

「それまたどうして」

「なんででしょうね〜。理由は多分ないですけど生理的に受け付けなさそうですね。なんかもう近くにいるだけでイラッとする感じですもん」


 それは殺されたから、なんて憶測もあったがネルはそれを打ち消した。可能性はあるかもしれないがそれ以前に天の意見には賛成だからだ。


 自身の力を過信し自分が特別だと思っている、そういった類がネルにとって忌み嫌うタイプの一つだからだ。というより基本的にネルは人間嫌いなので特にアイツが嫌い、というのもないのだが。


 それでも比較的マシ、と捉えられる人物は一応はいる。それの筆頭が【ゴルセット】の支部長だ。理由は至極単純で、人命第一として町の為に尽くしていたからだ。


 自分のためではなく他人の為、それに尽力している人物はマシな部類としてネルは捉えている。ただし、基本的にネルは先述の通り人間嫌いなのであくまでマシな部類、としてしか捉えていない。


 話などを聞いてくれるだけまだマシかもしれないが。


「よし、そんじゃ次は勉強をしような」

「勉強って聞くと普段ならやる気削がれますけど今は凄い楽しみです!」


 天はガバッと起きるとさっきまでの疲れがまったくないような笑顔を浮かべた。




◇◆◇◆◇




「……とまぁ、これが一般的なこの世界での文字だ。理解出来そうか?」

「た、多分……。何度か読み書きしてればせめて読む程度は……」

「勉強は継続してようやく実るからな。焦らずゆっくりと、だぞ。焦ったところで良いことなんか一つもないんだから」

「……ですね〜。けど、うーん……」

「どうした?」


 窓から差し込むのは夕焼けからいつのまにか月光へと変わっていた。部屋が暗くなるのでランプを点けているがそれでも少し薄暗い。


 けれど勉強するには特に不便もない明るさなので天とネルは気にせず黒板が設置されている少しこぢんまりとした部屋で勉強をしていた。


 そんな部屋で天はネルの問いかけに少々しどろもどろに答える。ネルの予想通り返ってきたのは疑問だ。


「文字は見たことないんですけど、人が発する言葉は日本語なんですよね……。変に日本と被ってる部分があるからかややこしくて……。そもそも僕が今喋っている言語は何語に分類されるんですか?」

「ふむ……。レアルタ語だな、そのニホン語とやらは分からんが普通に話せてるあたり特に違いもないから同じ言語だと思っていいかもな」

「それじゃ、僕が今から書く文字って読めます?」


 天はそういうと羽ペンを動かし、あいうえお、と羊皮紙に書く。標準的な平仮名だ。天にとってはこの文字が常識である日本特有の文字だ。


 しかし、ネルは紅い瞳を細めてその文字を見つめてやや間を空けて読めない、と言った。


 やっぱり、と天はネルの答えにさほど驚きもせず予想通りだ、と心中で呟く。この世界では本当に日本の常識が通用しない。こちらの世界では独自の言語を、独自のルールを、独自の世界観を築いているのだ。


 この世界で対応するのならただ学び、勉強に励むだけではなく、自身が今まで寄り添ってきた、日本で培った常識を捨てなければいけない。きっと日本での常識を持ち続けたところで馴染めずにいるだけだと予想がつく。


 だからここからは、この世界での東雲天になるために生まれたての赤子のように、知識を吸収し常識を学び、やがて生きていけるように努力をする時だ。


「なるほど、ありがとうございます! それじゃ夜ですし風呂入って寝ましょうか」


 ふわぁ、と大きなあくびをする天にネルは頷くと風呂沸かしてくる、と言って部屋から出ていく。


 天も立ち上がろうとした瞬間、ふと声が聞こえた。


———苦しい


「え?」


———死にたくない死にたくない死にたくない

———殺す殺す殺す


「な、何が、うぐっ!」


 ドクン、と体が脈打つ。


 体の内側からどんどん声の波が押し寄せてくる。


 その声の全ては怨嗟だ。


———うるさいダメだ殺せ殺す許さない殺す殺す辛い助けて行かないで絶対に殺される怖い痛い苦しい


 怨嗟は渦となり、内側からジワジワと汚し、染めていく。天は膝から崩れて悶え苦しんでいる。


 やがて、天の体から黒い霧のような瘴気が滲み出して天を包み始める。しかし天はそれに気づけず内側から溢れる怨嗟の声に意識をドンドン削られてしまっている。


「ああ、あっ……アァァァァァア!!!!」


———悪いのぅ、少々体を借りていくぞ


 怨嗟の嵐の中、一瞬言葉の中に違和感を感じたような気がしたが天の意識は嵐に飲み込まれて深い闇へと沈んでいった。それと同時に天の断末魔にも似た叫び声が途切れる。


 黒い霧は突如霧散する。


 つい先程まで苦しんでいた()()は何事もなかったかのようにケロッとしている。しかしどことなくその()()は普段とは違う雰囲気を醸し出していた。


 艶やかな黒髪、全てを飲み込む黒い瞳、そして何より色気だ。男とは思えぬ色気を醸し出しているのだ。


 女と見られてもおかしくないだろう。それぐらいその()()は妖しい雰囲気なのだ。




◇◆◇◆◇




「おーい、風呂沸いたから先に……ってアレ?」


 ネルが勉強部屋に戻ってくると誰もいなかった。ただ窓が開かれており冷たい隙間風が部屋を冷やしていたぐらいだ。


「……」


 ネルは無言でその部屋から出ていくと浴場へと足を運ぶ。その部屋を見て何を思ったのか、それはネルにしか分からない。


 ネルは大きなあくびをしながら手早く服を脱ぐと脱衣場から浴場へ繋がるドアを開けた。


 そこには、ネルよりも先に先客がいた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()

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