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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第一章 出会い
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模擬試合

 城内の騎士達はざわめいていた。それもそうだろう。あの憧れの騎士長が城の敷居を跨いで玉座の間に向かっているのだから。


 ここで騎士を務める者の中にはネルに憧れて入団した者もいる。だが噂をあれど姿をなく、今の今までネルの姿を見たものがいなかった。


 だが、今は全身を甲冑で身を包んでいるその姿を見て騎士達は感極まっていた。その上、あの名高い勇者との模擬試合があり、それを観戦出来るというのだからもはや騎士達は有頂天だ。


 そんな中、ふと疑問に思った。騎士長は噂になるぐらい有名だ。だからこそ噂でも多少の尾ひれはついてるのだろうと騎士達も理解している。


 だがそれでも確信を持ってこれは本当だと言えるような噂は何個かあるのだ。その一つに騎士長は他人と関わる事をしない、常に孤独でありながら最強。などという噂がある。


 これについては、ネルと面識のある騎士がその噂は本当だと言っていたのもありそれは事実なのだ、と騎士達は確信していた。


 だからこその疑問だ。そんな騎士長が連れているあのフードを被った人は誰だろう? と。


「……なんか視線が痛いですね」

「気にすんな、と言っても確かにここまで見られるとな」


 呆れたように言うネル。ネルはいつも注目されてしまうので天の気持ちは分かるのだ。しかしこればっかりは慣れろとしか言いようがないので取り敢えずは天に我慢しとけ、と伝える。


 そして玉座の間に繋がる扉の前にネルと天は到着する。門番には話がもう通っているらしく端に寄っていつでもどうぞ、と言わんばかりに待機している。


 そこでネルは何故か手を使って開けるのではなく蹴って開けた。バゴン!! と音がしてドアは勢いよく開く。


 そこには驚いたような顔をしている青年と少女達の勇者一行、そして笑顔で玉座に座っているロワ王だ。


「おい狸。私はお前の玩具じゃねえぞ」


 まさかの開口一番が暴言。それには周囲の騎士と勇者一行が驚いたように目を見開く。王に対してその態度はいかがなものなのか、と誰もが思った。それは後ろで控えている天も思った。


 天は慌ててネルを諌めようと言葉をかける。


「ちょ、ネルさん!?相手は王様なんですよね!?」

「知るか。私はアイツが気に食わん」


 その会話に再び周りにざわめきが訪れる。王を目の前にして気に食わないと言うその精神、そしてそれを見知らぬ人と普通に会話している事に益々どよめくのだったが、ロワ王は軽快に笑いながらよいよい、と周りを諌める。


「よく来てくれた! 内容は知っていると思うが勇者と模擬試合をして欲しいのだ!」

「勇者ねぇ。別に私じゃなくても良くないか? なんでよりによってお前は私を指名するんだよ」


 勇者であるハルは想像していたネルの言葉遣いに少々面食らっていた。騎士の中の騎士であると聞いていた為、礼儀正しく自身の信念を貫く強者だと思っていたのだ。


 しかし今現在、目の前でロワ王と敬語もなく普通に会話しているネルを見て心中では驚きでいっぱいだった。しかしそれでも分かる事が一つだ。


 それは圧倒的な強さ、今の今まで感じたことのない圧力を騎士長から感じとった。今ここで不意打ちで背後を襲ったとしても勝てる自信がまったくない。


 そしてふと、そのネルの後ろでネルの言葉遣いにあわあわとしているフードを被った者に視線が移った。


 その時、


(? なん、だ……? 今聖剣が反応した……?)


 ハルはその事に何か不安を覚えてそのフードを被った者に注意深く見ていると背にかけている聖剣がカタカタと震え始めた。


 そしてハルはすぐに理解した。聖剣は〝アレ〟に対して反応していると。そして聖剣が反応するという事は〝アレ〟は魔王に匹敵するかそれ以上の「悪」だと。


 そう判断し、ハルは躊躇わなかった。


「……聖剣抜刀」

「ハルちゃん!?」


 その言葉を聞いたエリスが慌てて止めようとするが間に合わなかった。剣から眩いほどの光が放たれる。光は尾を引きながら天へと一直線に突き進む。


———()はそれを見ていた。


 光よりも早く、誰の目にも触れられず、その剣の切っ先は天の胸元へ吸い込まれていく。誰もが反応出来なかった。


———それでもやはり、()はそれを見ていた。


 あのネルでさえも突然の行動に一手遅れた。どうしたって間に合わない。聖剣の光に一瞬だが視界を奪われてしまったのだ。そしてその一瞬がネルにとって手遅れとなる。


———けれど、()()()()()()()()()


「—————ぁ」


 天の微かな断末魔。それはとてもささやかで、死を感じさせない細い声。けれど、とても寂しげなその声に、ネルは—————


「…………………殺す」


 ネルのこてに包まれた拳がハルの頭に直撃する。ハルは天に剣を突き刺していたので剣でガードする事も出来ずまともに食らってしまった。


 体が床に叩きつけられゴキリ、と嫌な音が響きながらバウンドし宙に浮く。その瞬間に回し蹴りで鋼のつま先を鳩尾へと叩き込んだ。ハルは鼻や口から血を撒き散らしながら壁へと砲弾のごとく吹き飛んでいく。


 壁に激突しそこで止まるかと思いきや、追撃に拳を鳩尾へと叩き込む。いつの間にか甲冑の隙間から紅い光が帯電してるかのように漏れていた。


 ネルの放った拳だ。当然その威力も段違いで追撃というよりもはやトドメの一撃、その威力に壁ごとぶち抜いてハルを城から吹き飛ばす。


「ハルちゃん!」


 慌ててエリスが杖を片手にハルの下へ走ろうとするが、シュティがエリスの腕を掴んで引っ張った。何故引き止めるのか、エリスがそう叫ぼうとするよりも先にさっきまでエリスのいた場所が一瞬輝いたかと思ったら落雷が落ちた。


 耳をつんざくような轟音に聴力が失われ、一瞬思考が空白になる二人。その一瞬の隙が命取りだ。チカッと紅い光が再度見えたかと思ったら次の瞬間には雷に打たれたような衝撃を受けた。


 あまりの衝撃に2人の意識が深い闇へと落ちる。


 その瞬間に、ミリアはえびらから矢を取り出し、どこから取り出したのか大きな弓を構えている。ミリアの目から普段とは想像出来ない程の冷たさがあった。


 それは狩人としての目か、大切な人を傷つけられた怒りからか、どちらにせよネルにそんな事は関係なかった。矢を放とうが関係ない、そう言わんばかりにネルが恐ろしい速度でミリアに近づく。


「———〝神速の矢〟」


 ミリアの使用した攻撃スキル〝神速の矢〟は名前の通り神速して矢を放つというシンプルかつ驚異的なスキルだ。


 まず、名前からすぐ分かるがあまりにも速い。放たれた瞬間には標的は穴開きになるほどに。目で追えるものでもない、そもそもあまりの速さに矢が放たれたことすら理解出来ないだろう。


 しかしその恐るべき矢を放ったミリアは驚いていた。思いもしなかったのだろう、甲冑で動きが阻まれるというのに腕が霞む程の速度で矢を掴むだなんて。


「……嘘でしょ」


 その言葉を最後に、紅い雷を纏ったようなネルの手によりミリアの意識も一瞬にして落ちた。


「タカシ!!」


 すぐさまネルは天の下へと急いで駆ける。倒れている天を抱きかかえるともう手遅れだと思ってしまった。なぜなら、胸にぽっかりと、


 穴が空いていたからだ。


 もう助からない、そんなものは見て分かる。そもそも心臓も巻き込まれて喪失しているのだ。心臓を治さない限り回復する事なんて絶対にない。そしてそんな事を可能に出来る方法はこの世にはネルの知る限り存在しない。


 つまり、このまま天は為す術もなくネルの腕で死ぬ。あまりにもあっさりと、抵抗もなく、命の灯火は消える。


 天の体からは煙が出ている。これは聖剣の光によるものだろう。それが今は流れ出てくる命にしか見えない。


「タカシ……!」

「…………ネ、……さん……」

「すまない……私にはどうする事も……」


 周囲の面々ははあまりの異常事態に何の反応も出来ずただネルの行動を見守っていた。いや、見守るというより呆けて視線が固定されていた、というのが正しいだろう。


 そんな中、天は死ぬ間際に唇を動かす。言葉は発せずとも何を言いたいのかはその唇の動きでネルは理解した。


 それは。


 し、に、た、く、


 と、最後まで言い切る事も出来ずに瞳から光が失われる。天の瞳は最後にと、光を流す。それは涙として頬を伝う。


「——————」


 ネルが言葉を発せずに呆然としていると突如頭痛が走った。毒か何かだと一瞬思ったが、そんな事はネルにとってどうでもよかった。


 痛みは強まる一方だ。しかしネルに苦しげなそぶりはない。周りは静寂が支配している。だというのに、ネルの頭だけがその静寂を邪魔し続ける。


 その痛みが喪失感を表してるかのようだ、とネルはふと思った。深い意味などない、ただ思っただけだ。


 その時だ、幻聴が聞こえた。何故幻聴と判断したか、聞こえてくる声が今喪われた者の声だから。聞こえるはずのない声だからだ。


 頭痛は強まる、あまりの強さに目の前の景色が揺れて体のバランスがおかしくなる程に。


 けれどネルにそんなものは関係ない。今はそれ以上のものに気を奪われているからだ。声、そう幻聴の声だ。その声にネルは呼ばれている。


 何度もネルを呼ぶ声、その声はネルに抱えられた亡骸と同じ声だ。


 痛みは加速し、遂にネルは現実の認識が出来なくなった。なんの感覚もなく、ただ声が聞こえる。


 ネルは意識が途切れる前にその声に心で応えた。


(今行くから……少し待っててくれ……)


 そして、ネルの名を呼び続けるその声に引かれるように、ネルの意識が沈んでいった。

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