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赤髪の騎士と黒髪の忌み子  作者: 貴花
第一章 出会い
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勇者としての使命

 勇者とは、世界で一人にしか存在しない特別なジョブの呼称である。


 この事について説明するにはまずジョブについて説明する必要がある、なので先にジョブについて説明させてもらおう。


 この世界ではどんな者でもジョブが与えられる。ジョブは人により様々でその人物の生活により常に変動する。例として騎士を挙げよう。


 まず他のジョブを持っている一般人が騎士になりたく入団する。しかし入団したはいいがそれでジョブが騎士になると思うのならそれは間違いである。手順があるのだ。


 他の入団者と共に騎士達に訓練を受け、剣を持ち騎士としての洗礼を受ける。こうしてようやく騎士見習いとしてジョブが変更されるのだ。


 ここで重要なのが()()()()()()()()()、という点だ。これがどういう意味か説明すると、ジョブの変更は任意ではなく強制という意味なのだ。今のジョブよりも騎士見習いの方が素質があるよ、と判断された場合ジョブは騎士見習いへと変化する。


 そう、ジョブはリアルタイムで自身の状態を把握し何が自身にとって相応しいかを計測してくれるとても不思議な法則なのだ。これは誰も疑問には思わない、何故ならこの世界ではそれが当たり前で、疑いの余地がないのだから。


 つまるところ、ジョブとはその人自身の今を表すプロフィールのようなものだと思ってもらって構わないだろう。そしてジョブはこれといった決まりがないのでジョブの名が数百と溢れている。中にはまだ出現していないだけで隠されたジョブもある。


 そんなジョブの中でももちろん希少なジョブも指で

数える程度だが存在する。魔法使いなどがその例だが、中でも勇者というジョブは制限のかかった特殊なジョブなのだ。


 制限というのは冒頭で述べていたが世界に一つしか存在しないというものだ。様々なジョブは人次第ではあるが何にだってなれる可能性がある。だが勇者だけは別だ、勇者は決められた者が得るまさに天賦の才能とも呼べるという代物だ。


 そしてこのジョブの恐るべき点は自身が悪と断じた相手には異常な程強くなるという能力だろう。勇者というジョブを手に入れている時点で身体能力なども最高峰なのだが、それに加えての悪に対する異常な程の強さも合わさりもはや誰も手がつけられないという。


 そんな勇者のジョブを持つ青年、ハルは仲間と共に城内を案内されていた。




◇◆◇◆◇




「ほへー、凄い……。私城の中初めて入ったなのです……」


 ひっきりなしに感嘆のため息をついているのが銀髪の少女、エリスだ。そんなエリスの様子を微笑ましく後ろでニコニコ笑いながら見ているえびらを背負った緑髪の少女、ミリアは隣で無表情に歩く少女に話しかける。


「まさか私達が城に招待されるなんてねぇ。ドキドキするよ」

「……けど、あまりうかうか喜んでられない、かもしれない」

「ありゃ? それはどーゆ意味かな? シュティちゃん?」


 シュティと呼ばれた少女は表情を変えぬまま淡々と言葉を紡ぐ。


「今回、勇者一行として招集を受けたのだから、確実に私達に、関係する事だと思う」

「うん、まぁそうでしょうね」

「……前任の勇者様も、同じように呼ばれたことがあるらしい。その時に王勅令のクエストを受けた。それ、千年クエストの魔王討伐」


 ミリアはその言葉に眉をしかめる。千年クエスト、その意味を知っているからこそ今の言葉にはどれだけ重大な意味が隠れているか理解した。


「千年クエストって……それ、クエストを遂行するのに最低千年はかかるっていう特級クエストじゃん」

「そう、けど前任の勇者様はそれクリアした。だからきっと今回も大丈夫」


 シュティの言葉にミリアはあはは、と軽快に笑う。するとハルは後ろを向いて三人の少女に言った。


「王様の前では私語厳禁だからな?」

「あ、はいなのです!」

「もちろんだよ〜」

「……大丈夫」


 肯定の言葉で安心したのか前を向きなおすハル。やがて長い廊下も終わりを迎えて大きな広間へと出た。


 広間の横には上を繋がる螺旋階段がある。その階段を横切り真っ直ぐ進むと奥に門番が2人立っている大きな門が見えてくる。


「この先の玉座の間にて王が勇者様御一行をお待ちしております。どうぞお進みください」


 門番も門から離れて道を譲っている。ハル達は顔を合わせコクリと頷くとハルが先に門へ近づきゆっくりと門に両手を当てて開く。


 ギィィと重い音がやけに響く。


「ようこそ。そして初めまして、だね。私は【スィリディナ王国】の国王を務める『ロワ=スィリディナ』だ。以後よろしく頼む」


 突然の親しげな声に勇者一行は驚きつつもその声がどこから発せられたのかをすぐに理解して、その場で片足をつき頭を垂れる。


「はっ、この度は……」

「よいよい、堅苦しい挨拶は無しにしよう。勇者にそのような態度を取られるとなんだかむず痒い」


 その言葉にハルは少し気が抜けた。ホッと一息つくと、少し崩した言葉でロワ王に自身の名と仲間を紹介した。


 それから話は移る、何故呼ばれたのか、という疑問にロワ王は眉に皺を寄せ声を重くして答えてくれた。


「……そうだな。まず確認したいのだがハル、お主は前任の勇者を知っておるか?」

「はい、私はその前任者である勇者……師匠より手解き受けて武芸を習いました」

「ほほう、なら話は早い。では呼ばれた理由も大方察しがついているのだろう?」

「もしや世界に危機がまた訪れたのでしょうか?」


 薄々勘付いてはいた。前任の勇者からは勇者のジョブを手に入れたからにはきっと大きな使命があると、そう言われていたからだ。だからきっとそれが今、この時なのだろうとハルは思っていた。


 それはエリス達も理解していた。共に旅をしてきた彼女達はハルから自分には大きな使命があるんだとそう聞かされていた。彼女達はその言葉を信じて今の今まで共に旅をしてきた強者だ。


 戦士として、勇者の共として十分な程に力を持っている。だからこそ彼女達はハルの旅にも付いてこれたし命を落とさずに生きてこられた。


 それも全て世界の為に、そんな子供じみた思想だがハルは正義を信じて疑わなかった。自分が正しいと思ったものは誰に言われようと譲らない、そんな強い精神の持ち主だからこそ勇者に選ばれたのかもしれない。


「うむ、前任である勇者が魔王討伐を成したお陰で世界には平和が訪れた。だがな、やはり事はそう上手くいかぬものだな。魔王が死んだことにより生まれてしまったのだよ。化け物が」

「化け物、ですか」

「そうだ。人の負の感情により生まれた化け物、〝呪い〟だ」




◇◆◇◆◇




 その〝呪い〟が誕生した理由をロワ王はこう説明していた。


 それは元々形のないただの負の感情の塊だったらしい。その負の感情の塊は魔王に力を与えるものでもあった。


 だからこそ負の塊は魔王という器に一箇所に集まっていたのだが、勇者により討伐されたため魔王は消滅して集まった負の塊は消えなかったらしいのだ。


 そんなものを誰が気づけるというのだろう。


 そんな目に見えぬ負の感情の塊はやがて7つの意思に分割されて形を持ち始めた。その7つの意思とは傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲だとロワ王は言う。


 それぞれの意思を手に入れた化け物はやがて獣の姿へと変貌し人を襲うようになった、よってロワはそれを「災厄の獣」と称しその比類なき強さから特級と分類、それらを討伐対象として勇者に託すと決めたそうだ。


「……なるほど、話は分かりました。この件謹んでお受けします」

「そうかそうか! 受けてくれるか!」

「はい、それこそが私の使命……いえ、勇者の使命だと思います。どうか私達にお任せください」

「うむうむ! そう言ってもらえるととても嬉しいぞ!」


 ロワ王は満足げに頷くと直後真剣な顔つきになり、高らかに宣言した。


「では勇者一行に命ずる! 災厄の獣討伐の任、これを見事遂行してくるがよい!!」

『『『『御意!!』』』』


 勇者一行は声を張り上げてその宣言に応える。


 ここに勇者一行は特例クエスト災厄の獣討伐の任を受けた。それはハルにとって待ち焦がれていたものであり、彼女達にとってはついに来てしまったという緊張感があった。


 そこでその場に声を紡ぐのはやはりロア王だ。ロア王はそれこそ世間話でもするような雰囲気で話しかける。


「それにしても、ふむ。ハルは武芸に秀でていると聞くが正直ワシみたいに戦闘ジョブではないとその強さがよく実感できぬのだが……。どうじゃここはひとつ私の配下と試合をしてみぬか?」

「はぁ……。私は構いませんがどういう形式に?」

「うーむ、では両者に鍛錬用の木剣を渡すのでそれで一本取ったら勝利、というのはどうだろうか?」

「了解しました。してお相手は?」


 その言葉にロア王はぐぬぬ、と唸る。誰と試合をさせるか悩んでいるようだ。やはり腕に自信のある者と戦わせたいのだろう、ロア王は独り言のように言葉を漏らす。


「出来ればネルの奴に戦わせたいが今はいないだろうしな……」

「! その名はもしや騎士長であるネル=ロージュ様ですか!?」

「うん? ああ、そうだ。けどアレは放浪癖があってな今はここにおらんのだ」

「それは残念です……。名だけなら風の噂で何度も耳にしました。何やら強さに関しては彼の右に出る者はいないと」


 ロア王はその噂を肯定するように力強く頷き話を続ける。


「その通りだ。実際私の知る限りお主を除けば一番強いのはネルだと思ってるぐらいだからな」

「放浪癖、ですか。いつか出会えたらお手合わせ願いたいものです」


 突然、門の近くにいた兵士が小走りでロア王の下へ近寄ると耳打ちをした。ロア王は話を聞いていたが途中で驚いたように「本当か!?」と声をあげた。


 その様子にハルがどうしたのだろうと思っているとロア王は実に嬉しそうにハルに言った。


「ネルがどうやら帰還しているらしい! 決まりだ! お主との試合はネルとしてもらうぞ!」




◇◆◇◆◇




 日はすっかりと高く昇り気温も少しだが上がってきたようだ。特に締め切った空間の温度は上がる一方で蒸されていくような感覚でネルは目を覚ました。


 しかしネルは特に不快そうな感じもなく気分良く起きれた。カラッとした天気のおかげだろう。


「んぁ……。寝ちゃってたか……」

「んんっ……。あれ……ネルさん……?」


 寝ぼけたような声を出すのは寝ぼけ眼の天だ。ソファから体を起こすがまだ少しうつらうつらしている。


「おはよ……。もう昼みたいだぞ。ふわぁ〜」

「んー……ねむ……い……」


 天はネルの胸に顔を落としてまた睡眠に入ってしまったようだ。本来の天なら顔を真っ赤にして奇声を発しながら回転するのだろうがどうやら天は寝起きにはかなり弱いらしく、頭も働かないまますぐに再度寝落ちてしまったようだ。


 きっと今は何を枕にして寝ているかなど知る由もないだろう。


 普通の感性を持っている女性ならここで何かしらの反応を見せるのだろうがネルにとっての感性は他人と大幅にズレていたりするので特に何の反応も示さない。


 それどころか抱き寄せて自分も二度寝しようかどうか悩み始める始末だ。


 だがその悩みはすぐに解決した。突然天がガバッと目を覚まして窓に視線を向けたからだ。突然の行動に少し驚きながらもネルは天に尋ねる。


「どうした?」

「外に何か変なのがいるような……」

「……ん? ああ、この音は伝言鳥だ。ちょっと窓を開けてくれ」


 天はネルの答えに首を傾げるが取り敢えずは言われた通りに窓を開ける。すると青い糸で作られたような鳥の形をした生物が窓辺にゆっくりと飛んできた。


 どう見たって生物のようには見えないのだが一応鳥らしく首をカクカクと動かしながら窓辺で待機している。ネルはその伝言鳥と呼んだ鳥に触れると糸がほつれるようにバラバラに分解されてしまった。


「なんです? これ」

「見とけよ。これは便利な鳥なんだ」

「なんか分解されちゃいましたけど?」


 天がそう言うのと同時に糸が今度は勝手に動き出して文字を作り始めた。その文字は糸で一筆書きのようになって読みづらいのだがそれ以前に天はその文字を読めなかった。


 見たこともない文字でそれは初めて見る文字だったのだがネルはそれを読んでいるらしく視線が文字を上から下へと動いている。


「なんて書いてあるんですか? 全然読めないんですけど……」

「んー、なんか模擬試合をして欲しいって書いてあるな」

「模擬試合? 誰ですかそんな意味の分からないの事を送ってきたの……」

「ここの王だな。あの狸め、変に気分がが上がってやがる」


 あっさりと言ったネルに天は驚く。まず、これを送ってきたのが王さまという事実に。そしてその王様の事を狸呼ばわりした事にだ。というか狸って言葉は通用するのね、とか天は頭の中で思ったりした。


 けれど天は思い出した。そういえばネルは騎士長だと言っていた。役職的にそれはかなり高いのではないだろうか?


 さすがに王様よりは下だとは思うがそれ以前の問題でネルが誰かを敬う姿を想像出来なかったので天は変に納得してしまった。


「どうするんです?」

「行きたくねぇな……」

「けど王様からの命令なんでしょう? いいんですか?」

「……チッ、早めに行って早めに終わらせてくるか。ああ、そうだ。どうせならタカシも来るか?城なんか入れる機会がそうそうないからな」

「えっ! 良いんですか!?」


 天が食いついてきた。ネルはポンと天の頭に触れるといいよ、あくびをしながら答えてくれた。


「……着替えるかぁ」

「なんでそんなに着替えるのに抵抗を見せるんですか……」


 ネルは下着をちゃんと着るとスパッツと黒のインナーを着用しキューブを手に取る。一言二言ネルが何か呟くとキューブが展開されてまるでパワードスーツの様にネルの体を覆うとそれは甲冑と兜となりいつも通りのネルの姿となった。


 どうやらネルは天以外に自身の姿を晒す事はしないらしく、同時に甲冑が不思議な装備だという事に気づく天。正直今の装着シーンはちょっとカッコいい、そう思う天だった。

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