プロローグ1
ある時、名前のない誰かは願った。
———愛されたい
そんな素朴な願いを、ふと願ってしまったのだ。
火の爆ぜる音、周りから放たれる罵詈雑言、次から次へと投げられる石に、名前のない誰かは涙した。何故自分がこんな目に遭わなければならないのかと。
———どうして?
名前のない誰かはあらん限りの声で否定する。
———違う、僕じゃない!
けれどこの声は誰にも届かない。誰も彼もその声を聞きはしなかったのだから。ゆっくりと近づく破滅にようやく名前のない誰かは———
死を受け入れた。
◇◆◇◆◇
苦しいな、と思った。
———なんでこんな目に遭うんだろう
死にたくないな、と思った。
———私は何も悪くないのに
誰か助けて欲しいな、と思った。
———どうして私ばっかり
だから決めた。なに、単純な話だ。私に、いや、人間に出来る事なんて限られている。これはその人間らしさからかけ離れる行為だ。
子供の自分では出来ることなんて限られている。だから出来る事は全てやる、どんな手を使ってでも生き残ってやる。
誰が死んでやるものか、違うと叫んでも誰にも届かない、いくら否定しようとその声が届かないのであれば構わない。
諦めよう、私の気持ちなんて誰にも伝わらないんだ。私は生き抜いてやる。殺されるものか、逆だ、私が殺す。
ドロドロとした何かは私を変えていく。それは上から泥が積もっていくように、本当の私は覆われていく。もう、私という存在は埋められた。あるのは肥大するだけの恨みだけ。
だからもう、私にも分からなくなったのだろう。泥の下に埋まっている私の願いを。その願いが、見えなくなる前に心でその願いを語った。
その願いを忘れる事に、報いる事が出来ない事に懺悔するように。
———誰か、私という存在を愛して欲しかった