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暗躍する者と、長くはもたないシリアスⅠ

「ふむ……?」


 一体、何を見せるのだろうか。そう思って覗き込もうとしたところ、ユスティーナの手は閉じられた。

 現在は深夜である。真っ暗なのでパッと見では何があったかもわからず、集まってきた誰しもが首を傾げた。

 どういうことだろうとユスティーナに目を向けると、彼女は前屈みになる。


「カド様。やはりもう少し人がいないところで致しましょう」

「そういうなら別に構わないですけ――」


 周囲をふいふいと見回し、カドの胸に手をついてからユスティーナは語る。

 『人がいないところ』やら『致しましょう』やら、若干如何わしくも聞こえる発言だなと他人行儀に思っていたところ、この場に飛び込んでくる影があった。リリエである。


「な・に・が、致しましょうかーっ!?」

「どぉーーう!?」


 彼女はユスティーナに跨られていたカドを力尽くですっぽ抜き、女子の魔の手が届かないエワズの顔面に向けてそのまま放り投げた。

 いきなりのとばっちりながらも、カドを口でキャッチしたエワズは見事の一言である。


 「あ、どうも」なんてエワズに向けて悠長に礼を言うカドと、ぜえはあと肩で息をするリリエ。そして、ぺたんと座り込んだまま聖女の微笑みを浮かべている下着姿のユスティーナと、順次騒ぎに駆けつけてくる外野一同。

 そんな外野の一角では、エワズに託されたのにカドを監督しきれなかったトリシアが早速頭を抱えていたり、「少年、聖女と天使を二股かよ。やるな……」と、イーリアスが勝手に解釈していたりする。


 なんとも混沌とした状況になってきたものだ。

 この状況に今から出くわした者からすると、敵襲? 夜這い? 痴情のもつれ? などと憶測でざわめくばかりだった。


 そこに自警団の長であるフリーデグントがエイルを伴ってやってくる。


「これは一体、何事だっ!?」


 原因の所在を求めて周囲を見回した彼は、最初に盛大な咆哮を上げて目立ったエワズに目を向けた。

 エワズは顔をしかめてカドを睨んでから、彼を地面に降ろす。


『すまぬな。我の早とちりで騒ぎを大きくした。敵襲はない。安心せよ』


 怒ってもいいところだろうに、エワズは謙虚な物言いをしている。

 一方、騒ぎの元凶は暢気に手を上げて発言権を求めていた。


「あ、このついでに団長様のお耳にも通したいことが。このまま、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「それは構わないが、若い娘がいつまでも肌を見せるべきではない。体に障るだけでなく、衆目もあるのだからな。続きは私の家で聞こう」


 同じような年頃の娘を持つ彼はユスティーナに歩み寄ると、傍に落ちていた毛布を彼女の肩に掛けた。


「皆の者、これは大事ではない! このような夜半でもある。詳しい説明は明朝、させてもらいたい。警備の者は通常の警備態勢に戻って引き続き当たってくれ!」


 フリーデグントがてきぱきと指示をすると、辺りに集まっていた人々は順次解散していく。

 そんな時、ユスティーナはまたカドに密かな視線を向けてきた。彼自身も気付いて目を向けると、彼女は手をちょいちょいと動かして近づくように求めてくる。


 リリエが鋭く目を光らせている中、カドは求められるままに近づいた。


「カド様、もっとお傍に。集まって話をする前に、確かめてもらいたいものがあります」


 そう言われて彼女の傍にしゃがみ込むと、毛布がたくし上げられた。

 リリエは一瞬、ムッと気にしそうになっていたのだが、カドは露わになった足を真剣に見つめる。


 ユスティーナは色香を使ったわけではない。それならもっと誘う顔をしていただろうし、『確かめてもらいたい』とは言わないだろう。彼女は比較的真面目な顔だ。

 すらりとして、白い柔肌を持つ足――そこには過剰に反応したハンコ注射のような痕が一つあった。


 それに視線を落としていると、彼女は耳元に口を寄せて囁いてくる。


「服の内にこれがいました」


 先程手に隠したものを、そう言って衆目を避けるように見せてきた。

 そこにいたのは三匹の〈剥片〉だ。一センチ以下の極小サイズであることと、その背に妙な破片が刺さっていることと、この〈剥片〉自体が石と化していること。そしてもう一つ特異なものが見て取れる。

 これが漂わせる魔素はクラスⅣのそれなのだ。


「どう思われますか?」

「〈剥片〉が寄生しようとした痕でしょうね。でも、僕の〈毒霧〉を浴びてもらっていたから、まともに寄生する前に死んだんだと思うんですけど……あれ?」


 魔物が死ねば魔素に還る。けれどこれは死んでいるのに体が残っているようだ。

 石であることといい不思議に思っていると、ユスティーナが答えた。


「魔素に還ろうとする個体でも、治癒術を応用すれば体を残すことができるのですよ。できないのであれば、二人の時間を作って練習いたしましょう?」

「あっ、それはいいで――」

「ふんっ!」


 喜んで応じようとしたところ、カドは首根っこを掴まれた。

 最後のやり取りはリリエ的レーティング判定に抵触したらしく、カドはまたエワズに向かって放り投げられる。

 足に噛みつかれて逆さ吊りとはなったものの、相変わらずナイスキャッチだ。


 シリアスだか、そうでないのかなんとも測りかねる流れであった。

 その後、カドとユスティーナ、リリエに続いてエワズにカドの世話を再度頼まれたトリシアがフリーデグントの家についてくることとなった。


 その際、そそっとカドに近づいてきたトリシアは泣きごとのように主張してくる。


「カドさん、なるべく自重をしてくださいね? 世話をしきれないと私がエワ――」

「あ、はい。それはそうと、ドラゴンさんの名前は人前では出さない方が良いですよ。多分、真名がわかると呪いがかかりやすくなるとか、本家に迷惑がかかるとか気にしてるんだと思います」


 名前を随分と言い渋られていたカドとしてはその辺りが身に染みていたのだが、トリシアはそこまでの意識がなかったようだ。

 ハッとして口を押さえると、こくこくと頷きを返してくる。


 そして、フリーデグントの家に着くとリビングで改めて先程の〈剥片〉が議題に上がった。


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