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ハルアジスへの復讐 Ⅰ

 ハルアジスの屋敷では、最下級の弟子が門前を掃除していた。

 その弟子が走って小門から中に入るとまた別の者に主の帰還を伝え、自分は門を開きにかかる。

 屋敷の前まで来ると、帰還を伝えた意味がわかった。

 勢揃いした弟子たちが深々と頭を下げ、屋敷までの道を作っているのである。


「ご帰還、お待ちしておりました!」


 下げた頭はハルアジスが通り過ぎても上がることがない。なんとも堅苦しい歓迎だ。

 ハルアジスはこうやって崇められることを当然と思っているらしい。


 骨や馬から降り、屋敷に入ろうとしたところ背後で崩れる音がした。

 ハルアジスが骨に対する魔法を切ったのだろう。接合が解け、屋敷の前に散らばる。これを拾い集め、納屋まで戻すのは弟子の仕事のようだ。

 納屋で術を解除すればそれまでだったというのに、無駄な仕事である。こういう恣意行為が認められていないと、自分の地位にあぐらをかけないのだろうか。


「一号実験室に生きたウサギを持て。今すぐにだ」

「はっ、ただ今ご用意いたします!」


 スコットと同じく、衣装が多少は豪華な高弟が返事をしてすぐさま行動を開始した。

 そして、ハルアジスは一号実験室とやらに向かい始める。


 数カ月も屋敷で杖になっていたので、掃除をしていた弟子たちの呟きからどういう部屋かは理解していた。

 後ろ暗い性格のハルアジスなので拷問部屋まで用意されたこの屋敷の中、一号実験室というのは、部外秘を行うための部屋だ。


 この部屋は地下にあり、入り口も結界が張られて厳重に守られるらしい。その維持管理が面倒なのだというボヤキがよくあった。


(高弟は外で大体確認できた。猜疑心が強いハルアジスなら外部の人間は雇い入れないだろうし、部屋で待ち伏せをされている可能性は少ない。となると、普通に警戒をされているだけですかね?)


 魔力量が少ないとはいえ、ハルアジスを上回る魔力の質なのだ。警戒は当然だろう。


 素直についていくと、聞いた話のとおりだ。

 その見た目は小さめの理科室とでも例えればいいだろう。やたらと骨の模型が飾ってあることを除けば、机や器具の充実加減はまさにそれだ。


「安全対策です。失礼ですが、外套などの装備をこちらへ。それから使い魔についてはあちらの檻に入れてください」


 まあ、この程度は普通にあるだろう。

 なければ魔本から剣を突出させ、そのまま刺殺してやろうと思ったのだが、そこまでは流石にないらしい。


「サラちゃん、そういうことなのですみませんが……」


 檻を見たサラマンダーは暴れるのなんの。フードにいるサラマンダーを掴もうとする手にも噛み付いてくるし、びちびちと暴れる。

 それによって手のひらなどにも粘液がついてしまった。


「ふん。下等なサラマンダーなぞを使い魔にするとは無駄にも程がある」


 ハルアジスはじたばたするサラマンダーとのやり取りを睥睨してくる。忠実でないところも減点なのだろう。

 爬虫類の王様のような骨を操っているからこその言葉だろうか。

 カド経由で多少は意識の共有が働いているサラマンダーはその言葉にカチンと来たらしい。抵抗は急に止み、ハルアジスを睨んだ。


「いいえ。僕としてはこの子にとても大きな可能性を見出していますよ。行える事の幅としてはとても広いと考えています」


 そう言いながら、カドはサラマンダーを撫でる。

 ハルアジスが疑いの目を向ける一方、スコットは関心を見せていた。

 そうしてサラマンダーを檻に入れたり、装備を解いたりしているうちに籠に入れられたウサギが連れてこられた。


 すると部屋が施錠され、出入り口には結界が起動する。

 また、スコットが呪文を唱えると周囲の骨が一斉に動き出し、囲ってきた。

 敵意は見えない。これは単なる警備なのだろう。


「して、貴様はどのようにしてあの小僧を生かした? その〈呪式契約ギアス〉にかけて説明せよ」


 契約を履行せよとの強制力が働こうとしているのが、呪いが刻まれた喉に圧力となって伝わる。


「その前におさらいしましょう。僕がどのような魔法で彼を復活させたと思っているのですか?」


 問われると、ハルアジスは眉を寄せた。

 そんな当たり前のことは答える義理がないと思ったらしく、スコットに代打を顎で指示をする。


「そ、それは〈彷徨う死者〉の高位に当たる魔法を行使したのでは?」


 そうとしか考えられないとの表情である。

 訂正をしてこない辺り、ハルアジスとしても同じ答えらしい。


「その魔法が適切と考えた理由はなんですか?」

「え? それ以外の選択肢はないかと思うのですが……。まさか、全く別種の魔法を?」


 ああ、なるほどとカドは理解した。

 この世界は魔法があって便利だ。そんな超常の御業が使えるだけに、発達すべき技術が発達していないらしい。


 例えば、火起こしならまだしも、鉱石から金属を精錬する魔法なんてあればたたら製鉄のような技術は発展しない。

 同じく、怪我が魔法で治せるのだから痛み止めなどの薬や縫合、断脚などといった処置は考案されても、それ以上の技術体型というものは考案されないのだろう。


「じゃあ、その〈彷徨う死者〉に関する構成要素については理解していますか?」

「系統魔法のことですか。それは無論です。ただし、各流派の秘奥に当たることなので部外者に話すわけには……」


 スコットはちらとハルアジスに目を向けた。

 いつまでも説明が始まらないことやこの問いに、彼は怪訝な表情となる。


「ふん、他家が送り込んだ間者であろうと構わぬ。儂はこれ以上の情報は明かさぬ。しかし契約した以上、貴様にはその秘密を開示してもらおうか」


 ハルアジスは杖で床を叩き、高圧的になった。


 情報的にはある程度有意義なものが得られた。

 この世界では医学などは対して発展しなかった代わりに、魔法に関してはかなり体系的に進化をしているらしい。

 誰しもが扱える上に、多くの分野に応用できる代物なのだ。それは確かにもう全部あれを研究しておけばいいじゃんとなるだろう。


「ええ、それが約束ですし生命維持の魔法に関しては実践して説明しますよ。じゃあちょっと……手頃な大きい布がないので僕の外套で失礼します」


 まだまだ元気のあるウサギだ。それを力尽くで固定なんて骨が折れやすいウサギにはよろしくない。

 例えば動物病院などでは暴れる猫は洗濯ネットに入れて処置をするように、ウサギはバスタオルで包む事で保定をする。


 広げた外套にウサギを乗せ、折り込むようにして顔を隠し、後退も出来ないように後ろも包み込んだカドはちょいちょいと手招きをしてスコットに保定を代わらせた。

 動物病院でなら、こうして耳の動脈から採血したり、胃や盲腸の膨らみ具合からウサギに多い食滞を診断したりするところだ。

 今回はサラマンダーの治療と同じく硬膜外麻酔から始めようとする。


(牛ならともかく、こういう小動物は暴れるから全身麻酔がないとなぁ。ドミトールとかケタミンとか、せめてペントバルビタールやジエチルエーテルなんかがあれば良かったんだけど……)

「何をちまちまやっておるか複数臓器の損傷を直したのであろうが。この程度は治してみせい!」


 悩んでいたところ、ハルアジスは杖を振りかぶると、その先端でウサギの横腹を貫いた。

 ギキィッと鳴いて暴れたのも束の間のことである。すぐにショックを起こして力が失せていった。


「うわっ、なんてことをするんですか……!」

「黙れ! そもそもこの程度も治せなければ需要があろうはずがない。さあ、見せてみよ!」


 杖が引き抜かれ、机にウサギが放られる。


「……っ」


 説明をすると言った立場だ。強気にされるのは仕方がない。

 全身麻酔の手段がなく、手をこまねいていたのは真実だ。カドはすぐさま処置に取り掛かる。


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