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これより冒険者の街へ

 

 話を終えたカドはアッシャーの街に向かうためにも最終的な確認を始めた。


 まずは処置をした化け猫である。

 少々探し回ると、その姿は見つけられた。

 無論、押さえつけて尻をいじり倒した後なので酷く警戒されている。普通の二倍程度の警戒範囲にも近づかせてもらえなかった。


 ただし、それでも十分である。

 逃げる際の後ろ姿から、遠目でも直腸が再脱出していないことを確かめられた。

 あとは安静に一日、二日も経過すれば、腸内での腫れも治まって正常に戻ることだろう。


 最後は、アルノルドの容態確認である。

 カドは彼を樹の幹にもたれかからせると、手を取った。


「この状態になってから、半日程度は経ちます。体調はどうですか?」


 まず触った時点で体温がかなり低い。おまけに脈もかなり弱めだ。

 やはり初級治癒魔法や操作魔糸を組み合わせただけの術式では補いきれないらしい。体調が緩やかに下降傾向である。


「少し、眠い。……けど、平、気。むし、ろ……」


 アルノルドの目はこちらをじっと見つめてきた。

 その瞳に映る自分を見て、カドは自覚する。

 自分の顔色は相当悪いのだろう。リリエが横で物言いたそうな顔をしていることからも明白だ。


 疲労は収まるどころか、徐々に増しているのだから仕方がない。


「ええ、僕はそんなに保たないと思います。アッシャーの街までは何とか保たせますが、やり残したこと、やりたかったことに優先順位をつけて考えてもらった方がいいと思います。力不足で救いきれないこと、すみません」

「オ、レ……忌み子になって、人……殺してる。死んだ人……もっと、悔しかった、はず……。気にしないで。オレ、元に……同じことになった人……助けてあげて」

「……はい。補える面を補うためにも、いろいろと聞かせてください。それも貴重な勉強にさせてもらいます」


 正直なところ、どのような影響があるのか言葉で伝えてもらえるのは非常に意味のあることだ。

 今ここで無理をする分、得られるものもある。

 彼の状態を把握し続けるためにも、会話を続けて確認していくべきだろう。


 それだけ終えると、カドらは竜に乗り、同じ道を戻ってハイ・ブラセルの塔を後にした。

 竜の背に乗っていると上空の冷たい風が吹き付けてきて堪える。


 しかしそこはアルノルドにサラマンダーを抱かせて対策をした。あとは、その後ろにバイクの二人乗りと同じ格好でカドとリリエが続いている。

 リリエが天使の翼で全員を覆ってくれることも、寒さへの備えになった。


「冒険者の街まではドラゴンさんでもしばらくかかりましたよね。どの程度の時間を見ておいた方がいいですか?」


 カドはリリエに問いかける。


 竜の飛行速度はリリエよりもかなり速い。

 だが、そんな彼はお尋ね者なのだ。そのまま街まで突っ込むなんてことはできないので、途中で移動手段を変える必要があるだろう。

 その時はリリエの翼と徒歩に頼る必要があるはずだ。


「そうねぇ。今はちょうど夜が最も深いところかしら。明け方に向かって、それから街の手前に出没する英霊が沈静化するタイミングを見計らわないといけないわね」

「危ないですよね。あの英霊は倒したりしないんですか?」


 あれは暴走状態に陥った存在と聞く。そんな者を町の入り口に野放しにするなんて危険もいいところだろう。

 そう思って問いかける。


「あの英霊は比較的、大人しいわ。落ち着いている頃を見計らえば、人ならば素通りもしてくれるの。魔物に対する門番として利用している感じね。倒そうと思っても高位の冒険者を揃える必要があるし、労力が馬鹿にならないし、下手に刺激して様子が変わっても困るし、新たに警備を立てる費用も悩ましい。だから基本は放置なの」

「なるほど。つまり運が悪いとそこでも時間を食われるわけですね」


 正直、時間がかかるのは好ましくないのだが致し方ない。

 怪しい行動を取ればカドがわざわざサラマンダーと契約して魔力の見かけを偽装した意味もなくなってしまうのだ。ここは何とか堪える必要がある。


 少なくともあと十二時間程度は気張らなければならない。カドは密かに覚悟をするのだった。





 □





 結局のところ、竜との別行動はかなり早くのこととなった。

 やはり冒険者の拠点であるアッシャーの街が近くということもあり、冒険者の数が多いのだ。

 そこでカドやリリエが行動を共にしていることを見られれば、まとめて怪しまれかねない。別行動の理由はそのようなところだ。


 竜から降りたカドらは、彼と向かい合う。


「ドラゴンさんはどこで待機をする予定なんですか?」

『あれから二日が経過する。準備が早ければもう旅立っていることもあろう。それも考慮に入れ、この辺りの冒険者を確認して回る。脅すなり、交渉するなり、上手く行けば我が情報を得ることも可能であるかもしれぬ故な』

「そうなると、ここでお別れというわけですね」

『左様』


 竜であろうとカドであろうと、情報を得られれば意識の共有で連絡ができる。わざわざ会う必要はないのだ。


「この意識の共有での会話は、これからもずっと続けられるんですか?」

『否。流石に階層を跨げば不可能であろう』

「なるほど。本当にお別れで、次に会えるのは追いついた時ですか」

『うむ、達者に暮らせよ』


 別れについての話はもう塔で済ませたのだ。ここでは引きずりすぎることもない。

 竜はそれだけ告げるとバサバサと翼を羽ばたき、夜闇に消えてしまった。

 それを見送ったカドはリリエに目を向ける。


「それじゃあこっちも街に向かいましょう」

「そうね。君の体調も気になるし、急ぎましょう」


 ここからの移動は歩きではない。忌み子の討伐に向かったときと同じく、彼女の翼だ。


 移動をしているうちに空は白み始める。

 冒険者が多いことはこの暗闇だと目立った。街道やそれが行き着く遺跡地帯などで魔法と思しき光が瞬いているのである。


「駆け出し冒険者といえば、本来はこの辺りの狩場で徐々にレベルを上げていくものよ。低級の遺物には多いのだけれど、地上表出型の迷宮がいくつかあるの。冒険者の修練場として、管理局がわざわざ設けているところも多いわ」

「なるほど。安全地帯近くにあれば挑みやすいですもんね」

「ええ。でも、そんなことだから地域単位で根こそぎ魔素を集めて環境を破壊してしまうということも起こっているのだけれど」


 あまりに効率を求めすぎると、それもまた悪いらしい。

 本当ならばこのような話は興味深いものだ。この世界で生きていく上での勉強にもなる。


 しかしながらカドとしてはあまり集中ができない。頭痛や疲労が激しくなってきたからだ。

 リリエは気を紛らわしたり、反応を確かめるためにも熱心に話を続けてくれるが、カドの様子を確かめては表情を曇らせていく。


 そうしているうちに、アッシャーの街の麓である遺跡に到着した。

 そこに至る街道の途中には、何やら警備の詰め所のような施設が置かれている。


「私はちょっと挨拶をしてくるわ。カド君は外套をよく被って注意しておいてね」


 自分の魔力の質を他人に悟られないため、魔力を遮断する外套を羽織っているのだ。


 そのフードを深く被ったカドの胸元からはサラマンダーが顔を出しており、背にはアルノルドを背負っている。

 負傷した荷運びを冒険者の一人が街に帰しに来た。それを見かねたリリエは引率をしているという体である。


 施設の人と窓口から会話していた彼女は、しばらくすると困り顔で手招きをしてきた。


「遺跡の監視員からすると、英霊はまだ荒れているそうよ。中に入って他の冒険者と一緒に休憩しておいてって」


 時間がかかることも冒険者の目があることも困りものである。

 しかし敢えて拒むのも傍目から見れば目立ってしまうことだろう。


 カドは彼女に応じて施設の中に入った。

 中にはいかにも駆け出しという粗末な装備をした戦士や槍使いといったパーティが二つ。そしてそれとは明らかに違う雰囲気の二人組がいた。

 まるで企業の受付のような制服の人物、そしてもう一人はカドにとって見覚えのある人物だ。


「……!」


 竜がハルアジスの屋敷を襲撃した際、一番に駆け込んできた女性騎士である。

 談笑をしている彼女を見た瞬間、カドはドキリと緊張を覚えてしまった。


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