博士と助手と乾電池の旅
暗闇に包まれている。
乾電池の旅も終わりを迎えている。
幾多の砂漠を越えた。マイナス20度の中、ソフトクリームを味わいながらフィヨルドを見た。その時も乾電池は働き続けた。
コーカサスオオカブトに道を聞きつつ、高度数千メートルの山々を抜け、仙人の雀荘に達した。
めまいのするような高さの奇岩の町ではたまたま忌引きだったというデニムの少年からサンパチェンスをおすそ分けしてもらったので、助手は上機嫌になった。
「博士、水差しありますか?」
私たちは旅をつづけた。ラパスにあるという、16世紀につくられた水差しを求め、コクピットに乗り込む。
いつだって乾電池は働き続けたのだ。
ゴールデンキウイのストックは残り少なかった。
私たちは常に壊血病の恐怖と闘いながら、静かな海の前まで来た。
かつてのメガロポリスは何もかもが海中に沈んだが、今もなお、海中では信号機が稼働し、
夜にはその灯りが暗闇の水面に灯っていた。美しかった。何もかも。打ち寄せる波の音が聞こえる。
もはや、この世に残された、最後の乾電池が絶えるのも、時間の問題だった。
「博士、昼間の団地の少年、可愛かったですね」
すべてが闇に包まれる前に…。
「そうだ、博士。コンビニで電池買ってきますね?」
「あ、それと、水差しならこの先のホームセンターがあるみたいなので、ついでに買いに行ってきます」
天佑であった。全てを示し合わせた約束の地に、乾電池は納められていたという。まだ神は我々に旅を続けよと、告げられたのだ。
そして、私たちの旅は続く。異国の地のバラックが広がる市場には、我々の求めていた水差しが……