death death death
カチカチカチカチ
蜂の音が聞こえる。いよいよか。
「麻央と猫は土管の中に避難してもらったしやることは済んだよな……」
俺は思いっきり叫んだ。
「こいよ、タナトス!!」
大量の蜂が飛翔し螺旋状の塊になる。
周りの蜂が次々螺旋に飛び込み、次第に人の形になっていく。
瞬きをする間にそこにはタナトスが立っていた。
「蜂から出てきた!?」
「なるほど蜂を利用して現界したわけですね、人間の身近な生物で最も死に近いこの生物を……」
そういう事だったのか。タナトスが自らの伝承にも残っていない蜂を使役している理由が分かった。
「私の名を知ってる、うんそうか。そこの女、名は分からんが相当な神気を感じる。情報源は貴様だな」
相変わらず口調からは怒りを感じる。
「俺の名前は高橋かず「知ってるわ」
俺の名乗りは怒鳴り声でキャンセルされた。
「高橋和馬、貴様はどういう訳か何度も死亡復活を繰り返してる。一度なら奇跡で二度なら奇蹟としてありえる話だ。だが三度、貴様は最低三度は生き返っているな?」
どうしてそんなことが分かるんだろうか?
「どうして分かったか聞きたそうにしているな教えてやろう。私は死を司る神だ、故にこれから死ぬ人がリストアップされて頭の中に情報として送られてくるのだ、しかし」
「しかし……?」
「お前は何度も確定された死をくぐり抜けた。これはこれからやって来る死を知ってて備えたと言うことだ。ゆえに何度も死を回避するため時間を巻き戻していることに他ならない。どんな高位の予言者でも自分の死は予言できぬからな」
なるほど彼女が俺の生き返りを察した理由は分かった。
「お前が俺のことを怒ってるのは知ってる、だけど事情があるんだ。話し合えないか?」
しかしタナトスは冷徹にそれを突っぱねた。
「ならぬ、ゆえに……死ね」
タナトスが刀を取り出そうとしたその時、テミスの拳が殺到する。左手は俺と手を繋ぐのに利用してるため右手で思いっきりぶん殴る。
「ぐっ」
タナトスは超高速の拳を避けきれず吹っ飛ばされた。蹴鞠みたく跳ねた後塀に激突してめり込んだ。
「はぁはぁお主もしかしてテミ」
言い終わらぬうちにテミスの追撃は続く。
「耐えてください、仮にも神なんですからこの程度じゃ死にませんよね」
先程のパンチをスピードや重さも変えず、何十発も打ち込む。
ただただ圧倒的だった。彼女には手を繋いでる俺に振動が伝わらないように配慮する余裕もあったのだ。
タナトスを見るとボロボロになっていた。
「やりすぎだ。テミス」
「あちらが攻撃しようとしたので正当な反撃ですが……?」
テミスは何でいけないのかという顔でこちらを見る。
「いや今回は話し合いをしようと思ったのに話し合いする体力すら残ってないでしょあれじゃ……」
「話し合うにもまずは落ち着かせるべきかと思いました、それに見てください。全然大したことありませんよ」
テミスはタナトスの方を指を指す。
土煙から出てきたタナトスはほとんどの傷が癒えていた。
「まっマジかよ」
「仮にも神ですからね。お兄様、タナトスを止めるには今のラッシュを5時間は続けることが必要です」
そんなに待てない。どうしよう?
「テミス、タナトスを暴れられない程弱らせるんじゃなくて拘束する方向ではいけないか?」
テミスは少し考えてから言った。
「片手でですので難しいですがやってみます」
そして彼女はタナトスに飛びかかろうとした。
しかしその時、テミスには気づかなかった。タナトスの手に刀が握られていたことを。
「ダメだッ」
しかしテミスは俺の制止を振り切った。否、止まれないのだ。
タナトスは叫んだ。
「死を思い出せ」
振り降ろされた刀は彼女に当たった。彼女は避けない、それは長い間神様をやっていて、そして何度もタナトスと戦ったから起こった癖だろう。
しかし今の彼女は人間と融合した真性の神ではない何かだった。
彼女の体に刀身が触れた途端彼女は静止する。
「あっ」
次の瞬間、彼女は握られていた俺の手を突き放した。
「お兄様ご無事で…… 私は先に帰っています」
「テミスうううううううううううううううううううううううう」
俺は叫んでいた。
絶望が始まる。