fight together
次次回で2章も終わります
目が覚めると俺の部屋にいた。手はまだ固く握られている。
「ではお兄様、作戦を開始しましょう。私はどうしたらいいでしょうか」
テミスの体温が手を通して伝わってくる。
「とりあえず麻央が来るまで待っててくれ、そして麻央が来たら急いで猫の秘密基地まで移動する。そこで先回りして準備を整えよう」
「了解です」
今回は最強の援軍がいる。だからと言って一騎打ちをするんではなく、まずは話し合いたい。
タナトスという神は怒っていた。死を冒涜しているという自分達に。
だがそれは死というものに対していかに真摯に向き合ってるかということの裏返しだ。きっと善神なのだろう。
話し合えば分かりあえるはずだ。
「全くお兄様はお人好しというか前向きというか不思議な方ですね」
それは自分でも自覚している。こんな奇妙な出来事に巻き込まれてすぐ事情を飲み込めたり、何度死んでもその度にチャレンジできたり。俺の異常なまでの能天気さゆえだろう。
何故俺がこんな性格になったのか、それは自分自身にも分からないのだが今回はそれがプラスに働いてる、そう信じたい。
「だけどそのおかげで私を仲間として信用してもらえてるわけですもんね」
ああそうだぜ。何も疑ってちゃ始まらない。信じることでも道は開けるはずだ。
心臓がバクバクと音を立てる。今回は今までで一番生存可能性が高い世界だ。だから逆に普段以上緊張感が襲ってくる。
しかし、テミスの手を握ってそれを何とか追い払う。
「テミスは神じゃ。本来憑依でもしない限りこの世にいられぬもの。今回は余の権能で送り届けてるがそれも和馬の付属品としてだ。和馬よ、テミスから手を離すな、神殿まで戻ってきてしまうぞ」
クロノスの言葉を思い出す。俺はこの手を何があっても離してはいけないわけだ。
クロノスは流れで俺とテミスを送り出したわけだが、今頃手を繋いでる俺たちを見てヤキモキしてるかもしれない。
コンコンと窓を叩く音がする。
「あー和馬くん、その子は何なの?」
しばらくすると案の定麻央は来た。バステトも一緒だ。
「麻央とあとバステト、よく来てくれた。今すぐ猫の秘密基地まで案内してくれないか? あそこの場所覚えてなくて」
「ちょっと待ってよ。私、バステトと秘密基地の話いつしたっけ? あと事情が飲み込めないんだけどあの蜂は何なの?」
「悪いが説明は移動しながらでいいか?」
俺の返事を聞いた麻央は分かった!!と快く返事してくれた。
塀の上を歩きながら俺は麻央と話していた。
「という訳なんだ。あの蜂は俺に恨みを持ってるサーカス団の団長が操ってるんだ。それでこの子はその団長の娘のテミス、彼女は団長から虐待されてて俺が保護したんだ。だけど色んなもの恐怖症で常に俺が手を握ってないといけない」
かなりやっつけな言い訳になってしまった。しかし麻央は信じてくれてる。本当にありがたい。
「なるほどね、その団長を待ち構えるには確かに秘密基地はピッタリだよ」
スキップをしながら麻央は先導する。麻央の歩いた道を通ることで塀が崩落する恐れはない。
「あのさ麻央」
「ん?」
麻央はどうした?と言った表情でこちらを見た。
「危険なことに巻き込んじまってごめんな」
すると麻央は言った。
「気にしないでよ。こんな面白い事件に首突っ込まずにはいられないしそれに私は和馬くんに借りがあるんだよ。とってもとっても大きな借りが」
「借り…?」
残念ながら心当たりはない。
「あーその調子だと覚えてないんだ」
「なんだよそれ教えてよ」
「恥ずかしいからやだよっと」
そんな話をしながら進むとやっと猫の秘密基地に着いた。
この前来たとおり土管や廃材が乱雑に積まれている。時間は少し早いみたく猫が何匹もいた。
「さあ迎え撃つ準備とするか」
テミスと麻央との命をかけたやり取り、その準備が始まった。