despair
まだ読んでない方は第1話からどうぞ
神殿に戻るとそこにはクロノスとテミスが俺のことを心配そうに見つめていた。
「大丈夫か和馬……」
「お兄様……」
さすがに今のは堪えた。逃げても無駄だという絶望感もそうだが、何より自分の浅ましさを叩きつけられた。
「俺は最後に友人を置いてでも逃げようと汚くて生き延びようとした」
これは到底許されることではない。
「そんなの人間なら当たり前じゃ」
クロノスが慰めるように言う。しかし俺には届かなかった。
「俺はもう誰かの力を借りる、そんな資格はないんだ。所詮俺にとって友人なんて利用する価値のある人間にしか過ぎないんだ」
「お兄様……」
「テミス、君はいつも俺を心配してくれる。それは嬉しいんだが、でも演技なんだろ? 俺のためにない感情を演技して作ってまで心配しなくても大丈夫だ」
「……」
テミスは黙った。
自分でも最低なことをしてると思う。しかし、もう誰の手も借りたくなかった。クロノスの能力による時間移動は仕方ないとして他は一切の助けを拒絶する、1人で運命に挑む。それが土壇場で友人を捨てた俺への罰だと思えた。
「クロノス頼む、時間移動だけは君しか出来ない。 今すぐ俺をさっきの時間に飛ばしてくれ」
「しかし今のお主を送るのは……」
「今すぐにだ!!」
語尾が荒くなってしまった。
「今飛ばす……」
かくして俺は元の時間、麻央がやってくる五分前に戻った。
俺は誰の手を借りず死に続けた。
蜂に刺されて死んだ、塀から落ちて死んだ、隣の家のシャッターが急に開き車庫から飛び出してきた車に轢かれて死んだ、水たまりで滑って死んだ、ブロック塀が急に崩れてきて死んだ、マンションからの落下物で死んだ、上ばかり気にしてたらマンホールに落ちて死んだ、そこまで全て乗り越えてもなお先回りしたタナトスにより死んだ。
死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ、死んだ。
ああもうダメなのかな……
クロノスの力でまた戻る。もうクロノスは何も言わないで飛ばしてくれるようになった。
いつも通りラインで麻央に来なくていいと伝える。俺1人の戦いだ。
決戦前に妹の顔でも見ておこう。そう思いリビングに向かうと妹はテレビを見ていた。
テレビは今全国で大ヒットしているアニメ『戦え小太郎くん』がやっていた。
「こんな時にアニメ見てるなんて呑気だな」
「うーん蜂は怖いけどほっとけばいなくなるでしょ。それに今回は神回だから見逃すわけにはいかないし」
「そう……なのか?」
俺も少し見ることにした。
小太郎という男の子はどうやら今敵のボスと戦ってるらしい。全身ボロボロで今にも死にそうだ。
「フハハハハ小太郎よ、投降しろ。そして我が下僕になれ。されば世界の半分をくれてやろう」
よくある展開だ。俺は小太郎がなんと返すか気になっていた。
「それは出来ない」
小太郎という男は言い返した。うん、まあそうだろ。主人公ならこう言い返すだろう。
しかしその後に言い放った言葉が衝撃的だった。
「俺はお前を殺した後世界の全てを手に入れる。じゃないと死んでいった仲間達に申し訳が立たない。俺はお前を倒す。そして世界を征服する。ここまで来た道、その全ては支えてくれた仲間達がいたからだ。だから彼らの墓に勝利報告しに行くんだ。」
は? 何言ってんだこいつ。本当に主人公かよ……
しかし、ここまで来れたのは全て仲間達のおかげか。
確かに俺もそうなんだろう。しかし前の世界で俺は……
「お前が戦いに巻き込んだから貴様の仲間は死んだのではないか?」
そして小太郎は言う。
「真の仲間っていうのはな、そいつの為なら死んでもいい人間のことを言うんだ。だから俺は悪くない!! それにみんな俺に全てを託して笑いながら死んでいった。そういう仲間が一人もいないお前なんて怖くない!!」
!?
そいつの為なら死んでもいいのが仲間だと。
自分の胸に当てて聞いてみる。俺は彼らのために死ねるだろうか?
分からない。少なくとも以前は死ねると即断できただろうが、前の世界で俺は仲間を捨てた。
だが……逆に彼らは。
「そうかそうだよな」
「おにーやんどうしたの?」
妹は不思議な顔をしてる。涙が流れてる。きっとアニメに感動したんだろう。
「少し気負い過ぎてたなって」
まずは疾風には謝ろう。
自分は全て仲間達がいたからここまで来れた。だから、今回も仲間なしで学校に行くことは無理なんだろう。
恐らく今回の世界俺は死ぬ。だが次の世界では謝る。例え記憶がなくとも俺のために1度死なせてしまった麻央、そして疾風に謝って許してもらう。そして命をかけたこの戦いに協力してもらおう。
「行くか」
俺は2階へ着いた。そして塀に乗り移る。
「よしっと」
そのまま数歩歩いた時、足元が崩れる。
グラッ
俺は地面に叩きつけられ死亡した。
死にゲー的人生論
第2章 死の女神との戦い
死亡回数 現在20回
次回新展開