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8  キューピットの心の叫び『黙れ』

 1歩・・・2歩・・・3歩・・・。

 レストランをでて、並んでまっすぐに20メートル程歩いたところで、2人はバッと手を放して思い思いの反応を見せる。

「イヤァ――!! なんなの!? 私どうしちゃったのよぉ――!!」

「なっ、なんだ!? おぉお、俺の中に誰かが・・・・・・っ!! 誰かがいる――!!」

 他の通行人に不審な目で見られているが、そんな事を気にするような2人では絶対にない。

 隣りにいたお互いに勢いよく振り向いて、ほぼ同時にギッと睨み付ける。

「誰よアンタ!! なんであたしの誘いに簡単にノってんのよ――!!」

「知るかバカが!! んじゃなんでお前は俺を誘ったんだよ!? それに俺はノりたくてノったんじゃねぇよ!!」

 利沙の理不尽極まりない発言に、ただでさえ気の長いほうではない龍がとうとう切れる。

 その騒ぎを不審に思い・・・というよりなんの喧嘩かもよく分からない会話の内容を不思議に思って、ワラワラと人だかりが出来ていく。

 とはいっても言い合っている2人の形相が般若を超えるものだったので、その半径15メートルには誰も怖くて近付けない。

「はぁ!? 意味分かんな・・・あれ、私と状況一緒・・・・・・?」

「・・・は? 一緒って・・・・・・?」

 利沙の態度の変貌振りに龍は一瞬キョトンと意識をどこかへ飛ばすが、その言葉が気になって尋ねる。

「あっ、アンタ、もしかして自分を違う誰かが操ってる感じしなかった!?」

「あ、あぁ、したけど・・・・・・。って、まさかお前もか!?」

「やっぱりアンタも!?」

「やっぱりって・・・・・・。何だよ、何がどうなってんだ・・・・・・」

 2人はお互いの言葉にがっくりと肩を落とす。

 だが、どういう事なのかがいまいち分からない。自分の体が操られた感じがしたといっても、まさか他人がそんな事出来るはずがない。

 考え込む2人の周りでは、あぁ良かった仲直りしたのねーやら、きっと彼氏の浮気が原因だったんだわーなどと、喧嘩が終わったと勘違いしている人達が和やかなムードを楽しんでいた。

 その隙間を、ヒョイヒョイよ避けて利沙達に近付いていく人物が2人。

 その男女は利沙と龍の前に立つと、片方はとても気安く、もう片方はとても礼儀正しく話し掛けてきた。

「はっじめましてー、お二人さん♪」

「初めまして、キューピットという者です。先程は大変お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」

「「・・・誰?」」

 当然驚きはするが、そこは気の坐った2人。今の不機嫌な状況では、睨み付けるしか頭には浮かばない。

「ん、私? 私はねー、さっき利沙チャンのほうを操作した、藍っていう者です♪ よろしくね!」

「それで私は、こちらのアイ様の躾役・・・もとい、世話役です。龍さんのコントローラーを操作させていただきました。名前は先程言った通りです。色々混乱するところはあると思いますが、まずは落ち着いて話を聞いて・・・」

 取り合えず穏便に話を聞かせようと思ってキューピットは話を切り出したが、今の状況に冷静ではない2人が怒鳴る。

「ちょっと!! 操作したってどういう事よ!! なによアンタ達、ふざけてんの!? ブチのめされたいの!?」

「キューピットとかふざけた名前で名乗って、俺等をバカにしてんのかよ!? あぁ!?」

 その絡み方は、まるで躾のなっていない犬か何かだった。

「ふざけたっ・・・!? ・・・チンピラですか、あなた達は・・・・・・。取り合えず、落ち着いて下さいと言っているでしょう」

 それを軽くチンピラと例えたキューピットは、酷い貶され方をした自分の名前に悲観しながらも2人の大声を制止する。

「ほら、ね? まぁまぁ取り合えず落ち着いてさ、ほら!! ね? キューピーさん」

「・・・キューピー・・・・・・?」

 アイ様の言葉に、更に困惑する利沙。

 そんな全体の様子に、とうとうキューピットの怒りが爆発する。

「あぁもう、わざわざこの場を混乱させないで下さい! ・・・龍さんと利沙さんは落ち着いて話を聞いて下さい! アイ様は大人しく黙ってて! 分かりましたか!?」

「え、キューピーさんなんで・・・」

「黙 っ て て 下 さ い」

「・・・・・・」

 振り返ったキューピットの余りの形相に、アイ様は左手でベシリと自分の口を塞ぎ、右手でグッと親指を立てて見せる。その顔には、大量の冷や汗。

 それと同時に黙り込んだ、龍と利沙。

 それを再度確認し、ようやくキューピットは人心地付いたようにため息を漏らす。

「それでは・・・ここで話すのもなんですし、その辺の喫茶店にでも入りましょうか」

「え、でも私達はもうそこのレストランで・・・」

「あまり食べてはいなかったでしょう? ついでですよ」

「「・・・・・・」」

 飄々と答えるキューピットに不審感を抱きながらも、龍と利沙、そして未だに口を塞いでいるアイ様はその後ろを黙って付いていった。

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