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7  やりすぎたよ・・・

 呑気なアイ様(キューピットの方はそうとは言いづらいが)とは反対に、今利沙の所は微妙な空気が漂っていた。

(ん〜・・・なんだろな、この雰囲気・・・・・・)

 静かに食事をしている利沙の横で、亜紀は一人思っていた。

 利沙と龍のケンカが終わった後、確かに亜紀のおかげでその場の空気は良くなった。だが、未だに話そうとしない龍と利沙に、周りの人間は明らかに戸惑っていた。

 当の本人達はそれに気付いていないのか、それぞれ食事をしていたり窓の外の景色を眺めていたりと、自由気ままに過ごしていた。

「ね、ねえ、みんな自己紹介でもしない? ほら、気分でも変えてさ!」

 亜紀が不意に口を開く。後に付け足した言葉に龍と利沙は不思議に思いながらもそちらに顔を向ける。どちらも、特に機嫌が悪いわけではないようだ。その表情は穏やかだった。

「自己紹介? いいねそれ。んじゃ、男からする? それともそっちから始める?」

 亜紀の言葉にタカシはいち早く反応すると、明るくみんなに問い掛ける。

 このメンツのムードメーカーは随分と逞しいな、と他人事のように利沙は思った。

 亜紀とタカシ以外が口を開かない中、その話はドンドンと進んでいく。

「んじゃ、俺達からさせて貰おうかな? まずは俺から!」

 そう言うとタカシは、全員の注目を集めるようにスッと立ち上がる。

「俺は藤本 隆志(ふじもと たかし)って言うんだ、高校はこいつ等全員同じ、三波ってトコ。部活はバスケやってて一応レギュラー入ってんの。ちなみに、好みのタイプは利沙さんです!」

 最後の方は張り切って手を上げて言っていた。

「おいタカシぃ〜、お前ソッコーアタックするつもりかぁ〜?」

 そんなタカシを、ショウヤはニンマリと笑って肘で突く。

 当の利沙は、話自体を聞いていなかったのかそれとも無視しているのか分からないが、食べ終わった食事から手を放して口元を拭いていた。

「ヒュ〜、やるじゃんタカシ〜♪ 完全無視されてるけど♪」

「おまっ・・・そこは言わないでいるのが優しさだろ!?」

「まっ次々〜♪」

 涙目で訴えるタカシに茶々を入れながら、亜紀は次を促した。




 そして、段々と盛り上がってきた自己紹介は男女交互にやってきて、遂に龍の番になった(ちなみに、その次は利沙の予定)。

 だが、今まで黙って外を見ていた龍は一度だけタカシ達を見て言った。

「いや、俺は別にいいよ」

 その目は鋭くはなかったので睨んでいるというわけではなかったが、やはり、合コンという事自体が面倒だったのだろう。その言葉だけで自己紹介を終わらせた。

「お前もツレナイな〜、龍。・・・ほら、次は利沙チャンだよ」

 そう言って利沙の自己紹介を促すタカシだが、利沙も龍と同じようにそれをやんわりと断る。

「私も遠慮しとく。元々亜紀に連れて来られただけだったし・・・・・・」

 その瞳も龍と同じく、不機嫌というわけではなかった。

 二人共、合コンという形のものが苦手だったからだろう。断っていながらも、態度は遠慮がちだった。

「えぇ!? 利沙チャンもやらないの!?」

 そう言って身を乗り出したのは、タカシだった。

「え・・・って?」

 不思議そうに首を傾げる利沙に、タカシは慌てて首を振る。

「いっ、いや・・・! 別に、なんでも・・・・・・」

「・・・? ・・・まぁ、いいや。私、そろそろ帰ろうかな・・・・・・」

 ポツリと言う利沙の向かいで、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がる龍。

「んじゃ、俺はそろそろ帰るわ。じゃな、タカシ達」

 そのままそこを離れようとする、龍。

「あ・・・ちょっと待って!」

 そう言って、突然龍の腕を掴んで引き止めたのは、なんと利沙だった。

「・・・は?」

「・・・え、あれ・・・・・・?」

 急に引き止められた龍はもちろん、なぜか利沙まで困惑しきった顔でいた。

(あ、あたし何やってんの!? 手が・・・声が勝手に・・・・・・!?)

「・・・何? 俺に何か用?」

 利沙の手を振り解こうとはしないが、不思議そうな目で見つめてくる龍に利沙は正直焦る。自分が取った行動や言葉が理解できない。

「あ、いや・・・別に何でも・・・なくない!! 龍クン、ちょっと話があるんだけど♪ 一緒に外行かない?」

(また!? 何よさっきから!! っていうかなんで見ず知らずの人を誘ってんのよ!? ・・・とうとう、私の頭はおかしくなったの!?)

 放そうとしていた手には更に力が入り、思っている言葉とは裏腹の事を口走る。

「はぁ!? ・・・何言って・・・・・・! どうした、お前大丈夫か!?」

 当然、それに龍も困惑する。

 先程までは自分と同じ様にこの合コンに乗り気ではなかったはずの人間が、まさか自分を誘うとは。

 そしてもっと不審なのが、喋っているときの可笑しな言動と、話し終わった時に自分の発した言葉で落ち込んだような、訳がわからないといったような顔をしていること。

 まるで、自分が言いたい事、話したい事と全く別の事を口走っているような・・・。

「ちょっと利沙、本当にどうしたの?」

 利沙の隣りで心配そうに、というより不安げに言う亜紀。

「いや、なんかさっきから私おかしい事ばっかり・・・イヤ〜何でもないよ♪ 大丈夫だよ、あんまり気にしなくて!」

 亜紀に向かって、明るく言う利沙。

「・・・お、おい・・・お前、本当に大丈夫か? ちょっと、放せって!」

 とうとう本気で不審に思い始めた龍は、利沙の手を振り解く。

「大丈夫だって! ほら、龍クン、ちょっと外行こうか!」

「はぁ!? 誰が行くか・・・そうですね、行きましょう・・・じゃなくて行くか、利沙」

 ギュッと利沙の手を引いて歩き出す龍。それに連れられて、当然のようにそれについていく利沙。

 それは端から見ればとても仲の良い恋人のようにも見えるが、知り合いから見ればこの上なく異様な光景だった。

「あれ・・・どうしたの? 利沙と龍って人・・・・・・」

「・・・さあ・・・・・・?」




「・・・ねえ、キューピーさん。なんか色々失敗した気がしてならないんだけど・・・・・・」

「はい、明らかにあの場の空気を色々吹っ飛ばしてやってしまいましたね・・・・・・」

 画面の前でコントローラーを握る二人。

「・・・二人に、ちょっと説明してきた方が良いかな・・・・・・?」

「・・・はい、それがいいでしょう・・・・・・」

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