3 『松川 利沙』〜出会い〜
とても冷たい風が吹く季節、この物語のヒロイン・・・利沙はいた。
その顔は美しく、肩甲骨辺りまで伸びた長い髪はそれを主張させるようにさらりと流れている。まさに、大和撫子という言葉が似合う姿だった。
今日は日曜日。
高校生である利沙は、高校での知り合いと一緒に買い物に行く約束をし、今は待ち合わせの場所で
まだ来ない友達を待っていた。
「あ、いた!」
不意に、利沙の後ろから軽い声がする。
利沙が振り向くと、そこには自分が待っていた友人の姿が目に入る。
利沙の親友、雛子だった。
「ごめん利沙、待ったぁ?」
全く悪気のないその笑顔に、利沙はいつものようにほんの少しの微笑と返事を返す。
ヒナは、利沙と違って柔らかい雰囲気を纏っており、それは同姓の利沙から見ても可愛いと思える程だった。
髪は優しい色の薄いブラウン。肩くらいの長さの髪は、緩いウェーブがかかっており、ヒナにとても似合う髪型だった。
ヒナとは対照的な利沙は、普段からクールな雰囲気で異性を虜にしている。
ちなみに2人共、完全自覚なし。当然学校でモテてます。
「ヒナ・・・。ううん、大丈夫。私が来てから、あんまり時間経ってないし」
利沙は、左手の袖をまくって腕時計を見る。
「後の3人は? まだ来ないの?」
「わかんない・・・・・・。何にも連絡なかったから、一応みんな来ると思うけど」
ヒナは、キョロキョロと辺りを見まわしている。
「あっ、いたよ! ほら、アッチのほうから3人共歩いてくる! おーい、百合奈ちゃん、亜紀ちゃん、未久ちゃん、こっちだよ〜!!」
利沙がヒナの手の振るほうを見ると、そこには自分の友人3人がこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。
「あ、本当だ。・・・大丈夫、遅刻はいないね」
「ごっめーん、利沙、ヒーナちゃん!! ちょっと準備に手間取っちゃって」
利沙がポツリと呟くと、向こうからやってくる友人の1人、亜紀が酒やけした声で高らかに言った。機嫌がいいのか、やけに声のトーンが高い。
「何言ってんのよ。どうせ女同士で遊びに行くだけなんだから、亜紀はそんな準備って程の準備はしないでしょ?」
利沙が馬鹿馬鹿しい、という顔で言うと、亜紀は指を振りながら舌を鳴らす。
「じ・つ・は! 今日は遊びに行くんじゃなくて、合コンだったんだ〜♪ 先に言ってなくてゴメンね? あっちのメンツ揃えるかわりに、絶対利沙とヒナちゃん連れてきてってご指名があったからさ。あ、でもあっちのメンツも結構いいの揃ってたよ? 今日出る前に全員の写メ送ってもらったし♪」
放っておいたらいつまでも話し続けそうな勢いでしゃべる亜紀は、段々と顔を俯けていく利沙には気付かなかった。
「・・・ふざけんじゃないわよ・・・」
「え?」
「――・・・っふざけないでよ!! 何勝手に私のこと決めてるのよ!? 亜紀、あんた馬鹿じゃないの!?」
「何言ってんのよ、利沙、合コンって言ったら来なかったでしょ?」
「当然でしょ!? ・・・もういい、私帰るわね。あっちにはドタキャンってことにしといて」
そう言うと、利沙は自分のバッグを持って足早に人込みの中に足を進める。
「あ、ちょっと利沙!! 本当に行かないの?」
「うるさいわね!! 私は行かないって言ってるでしょ!?」
利沙のその言葉を聞くと、亜紀は残念そうな顔を残った仲間に向け、ポツリと呟いた。
「残念だなぁ・・・・・・。合コンの場所は、あの○●○レストランだったのに・・・・・・」
「・・・え?」
亜紀のその呟きに、ふと利沙は立ち止まる。
○●○レストラン
その言葉に、他の友人達も一気に騒ぎ出す。
「知ってる知ってる! あの有名な☆★☆シェフが出した最近のレストランでしょ!?」
「私も聞いたことあるわ! 確か、前にテレビでおいしそうなお菓子作ってたの見たわ!」
「みんな知ってたんだ! あっちのメンツの一人と一緒に下見に言ったけど、もう最高だった! ちょっと高級なトコだけど、あっちの人が出してくれるんだって! ・・・でも残念だなぁ、あのレストランは、前に利沙が行きたがってたし」
女子達は一通り騒いだ後、ふうっとため息をついた。
「そうだよねぇ・・・利沙行きたがってたけど、女一人で入るようなレストランじゃないからって諦めてたな・・・・・・」
「うん・・・もー、しょうがない。とりあえず、あっちの人に今日は理沙は来ないって連絡するか」
そう言うと、亜紀は自分のバッグから携帯電話を取り出し、何度かボタンを押す。
やがて、電話の呼び出し音が鳴った。
『プルルルルルップルルルルルップルルル・・・ブツッ』
「え!? ちょっ・・・」
急に亜紀が携帯電話を取られ、電話をきられる。見ると、亜紀から携帯電話を取ったのは、利沙だった。
「・・・私も行く」
「・・・え?」
「――・・・っだから、私も行くってば!! 合コン!!」
利沙がギュッと亜紀の携帯電話を握り締め、必死な顔でそう告げると、周りにいた友人達は呆然とした。
その中で、後ろを向いてニンマリと笑う亜紀が一人。
「利沙、行くんだ!! 良かった〜♪ んじゃ、早く行こ!! もうあっちの人達待ってるかも♪」
亜紀はそう言うとスルリ利沙の腕に自分の腕を絡め、嬉しそうに歩き出す。
周りの友人達もわいわいと騒ぐ中、利沙は亜紀に引っ張られながら、ポツリと呟いた。
「・・・私、騙されたのかなぁ・・・・・・」
まんまと亜紀の言葉に乗せられた利沙の哀れ、悲痛な声は、誰の耳にも届かなかった。