2 『香山 龍』〜出会い〜
大勢の人で賑わう街の中に、この物語の主人公・・・龍はいた。
元々色素が薄く茶色い髪は、本人の性格とは裏腹に軽い雰囲気を漂わせ、整端に整った顔立ちを隠すように少し長く伸びている。
今日は日曜日。
高校生である龍は、中学校の頃からの友達と久しぶりに街で遊ぶ約束をしており、厚着の上にマフラーを首に巻いてまだ来ない友達を待っていた。
「・・・−ぃ・・・・・・ぉーい、おい、龍!! ごめん、遅れた!!」
ぼんやりと遠くを見ていた龍のもとに、同年代の、一人の男性が走ってくる。
龍がそこへ目をやると、ゼェゼェと苦しそうに息をつく男性と目が合った。
「遅かったぜ、省吾。俺30分も待ったんだぜ?」
「だっ・・・だから、ごめんって・・・・・・!」
その男性・・・省吾は、両の手のひらを、少し折り曲げた膝について苦しそうに喘いでいる。
そんな省吾を見て、龍は軽くため息をつく。
「まあ、別にいいけど。他の奴らは? まだ来ないのか?」
「え? ・・・さあ、あいつらも遅刻なのか?」
「この状況を見りゃ分かるだろ。まだ俺とお前以外は誰もいないぜ」
「そっかー・・・・・・」
省吾は荒かった息をようやく整え、膝についた手を離して背筋をピンと伸ばす。
彼は、龍ほどとまではいかないが中々顔立ちが整っており、運動をしている人間のように真っ黒で短い髪をしていた。実際、省吾は高校の部活で陸上をしており、それも中々の成績だった。
人並み以上に運動神経のいい龍も何度か省吾に誘われたが、幾度となく断っていた。理由は、「自分はそうゆうの向かないから」らしい。
「つっても・・・今いるのは俺と省吾だけだし。おまえあいつらのメアドか番号、知ってるか? 今すぐ連絡してくれよ」
「えーと・・・あと3人だったっけ・・・・・・。確か、ユキのは知ってる。他は多分知らないや」
「んじゃ、今すぐ連絡」
「了解」
そう言うと、省吾は自分のケータイを厚手のジャンパーから取り出し、冷たい風が吹く中、かじかんだ指でケータイのボタンを押す。
「・・・あ、もしもしユキ、俺だけど・・・・・・」
省吾が電話を始めて暇になった龍は、ほんの少し雪が降り始めた空を見上げる。
(あー・・・降ってきた。・・・寒いわけだ)
龍はあまりの寒さに、下に垂らしていた手をコートのポケットに突っ込む。
そのうちに、話が終わったらしい省吾がこちらを振り向き、なんとなく苦い顔をする。
「・・・? ・・・どうした、省吾?」
「えーと・・・ユキは来れないって言ってたけど、他の奴は遅れるって言ってた。なんかユキの方に連絡行ってたらしいよ」
「マジ!? ユキ来ねーの!?」
「ああ、そう言ってた。・・・それで、あの・・・」
そこまで言って口篭もる省吾に苛立ちを感じ、龍は省吾の足に軽いローキックをかましながら言う。
「なんだよ、どうかしたのか?」
「いやー・・・あのさ、俺も今知ったんだけど、今日は俺達男だけで遊びに行くんじゃなくて・・・『合コン』・・・なんだって・・・・・・」
合コン。
その言葉を聞いた瞬間、龍は思い切り眉間に皺を寄せた。
「はぁ!? 聞いてねぇよ!! ・・・ユキ、知ってて来なかったのか」
「さぁ・・・多分。後の奴等は、その合コンの準備で遅れるってユキが言ってた」
「・・・・・・」
そんな省吾の言葉に、龍は苛立ちを隠さずに舌打ちをする。
そうとう、仲間に騙されて合コンに連れて行かれることが嫌らしい。不機嫌丸出しでその辺をうろついている。
「・・・もういい、面倒臭ぇから、俺帰るわ。ショウヤとタカシには適当に言っといて」
「え? ・・・あ、おい、龍!」
さっさと後ろを向いて行こうとする龍を、省吾が慌てて引きとめる。
今の時点で相当苛立っている龍は、なんの関係もない省吾に向かって声を荒げる。
「うるっせぇな、なんだよ!」
「いや・・・ショウヤ達、もう来たけど・・・・・・」
「はぁ!?」
困ったように首を傾げている省吾の横に、いつの間にか登場してニヤニヤと笑っているショウヤとタカシ。
先程まで不機嫌な表情だった龍は、呆れたように肩を落とした。
「・・・お前等・・・一回、全員殺してやろうか?・・・省吾とユキ以外」
ポツリと呟く龍の肩にポンポンと手を乗せて、ショウヤはニカッと笑う。
「それじゃ行くか!! レッツ合コン!!」