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11  全ては成り行きで決まるもの

「あ――・・・そんな気にすんな。あんま俺達と変わらない世界の住人だぜ、アイツ」

 俯いてぶつぶつと何かを呟く利沙の後頭部を叩きながら龍は言う。

「そうじゃなくて・・・あんた・・・そんなトコ通ってて、何で合コン来る必要あんのよ・・・・・・S高校なんて・・・・・・モテるでしょ・・・」

「あーそれ、ユキの専属家庭教師に俺も教えて貰ってるから。別に良いって言ってるし」

「そんな・・・そんなのって・・・・・・」

 利沙がますます肩を落とすと、元は人情深いアイ様がその横に座りながら言う。

「大丈夫よ、人間の価値は脳みその重さじゃないから!」

「貴女に言われてもね・・・・・・ちょっと」

「・・・う、わ――ん!! キューピーさーん!!」

 ギャー、とキューピットに泣き付くアイ様を尻目に、利沙はユキを見上げた。長い後ろ髪が前髪に混じって、疲れた印象を深く与える。

「・・・私も、一緒に勉強・・・・・・」

 小さく言って、利沙ははっと息を詰める。

 ここで一緒に勉強させてなどど言えばアイ様やキューピット達の思い通り。友人も一緒に勉強する事が出来るというのは耳寄りな話だが、友人でもない異性が一緒に勉強など、まるで恋人同士のする事。何故自分からそれに参加するような発言をしようとしたのだろうか。

 S高校に入学出来る程の学力が持てるのは、相当羨ましいのだが。

「え、何? どうかしたの?」

「勉強・・・・・・?」

 聡く聞き取ってしまった龍とユキに、利沙は酷く残念に思いながらも右手を振って応答する。

「何でもないわ。もう私、今日は家帰るから・・・・・・」

「そっか、君もう帰っちゃうんだ」

「何すんだ? 今帰っても暇だろ」

 眉根を寄せるユキに、怪訝そうな表情を見せる龍。

 毎回反応の違う二人に当惑を感じながらも、利沙は確かに帰っても暇な家でやる事を苦々しく口にする。

 ダメだ、何か展開読めてきたわ神どもコンチクショ。

「・・・勉強。昨日の授業の復習と明日の予習、後宿題やらないと・・・・・・」

「ふーん・・・・・・」

 興味なさそうにそっぽを向く龍。良かったどうやら帰れそう。

 しかし、いつの間にかの出来事ではあるが今は恋人同士の筈なのに、あまりにも冷たい態度を取る龍に利沙は小さな苛立ちを覚える。だがそれもつかの間。先程よりも少しは人当たりの良くなっている龍に気付き、一応は恋人としての自覚がある事を確認する。

 少しの苛立ちを物珍しさからの笑みに変え、利沙はカバンを取ってすっくと立ち上がった。

「じゃ、私は帰るから」

「あっ、君ちょっと待って」

 それに待ったを掛けたのはユキ。利沙は前に進もうとする体にブレーキを掛け、首だけをそちらに向けて振り向いた。

「今日カテキョの日なんだ、一緒に来ない? 宿題だって5倍速で終わるよ」

「え、おいユキ・・・」

「ね、どうかな? 龍も来るよ?」

 龍の咎めるような声には耳を貸さず、ユキは独特の笑い声を溢しながら提案する。

 ほとんど予想していた展開に利沙は内心ガックリと床に膝を付けながら、ぎこちない作り笑いを浮かべた。

「い・・・やぁ、有り難いんだけどー、その・・・・・・」

「あ、途中じゃやっぱ抜け難い? でも君、龍とくっ付きそうな感じだから一石二鳥かなーって思ったんだけど」

 いやくっ付いてるから居づらいんだけど。

 心の中ではそう言いつつも、事実である為拒否はし難い。

 妙な苦笑いを浮かべたまま、利沙は説明した方が良いのかどうかを一瞬人生かけて悩んだ。恐らくそれ程でもなかったかもしれないが、普段あまり悩まずに行動するタイプの利沙に取ってこれは重要な問題。ユキに話をする中で、アイ様やキューピットの正体を打ち明けても良いのだろうか。

「あー・・・ユキ、俺達もう付き合ってるぜ。ついさっきくらいから」

 そうこう考えている内に、アッサリと龍に喋られてしまった真実。しかも、無駄な部分は器用に省略されている。

「え、そうなの? なんだ、言ってくれれば邪魔はしないのに」

「別に邪魔って訳でもねーし。・・・じゃ、一緒行くか、利沙。断る理由なんてもうないだろ?」

 説明の仕方が分からない時の簡単な手助けに心底感謝しながらも、利沙は小さく頷いた。普通に考えてそうだろう。恐らくだが、これでS高校に入学出来る程の学力が手に入るのだから。オプション程度だが、S高校に通う彼氏も出来た。

 奇跡のような展開に胸を躍らせる利沙の袖を不意に引っ張ったのは、アイ様。

「ね、別に私達の正体は一部にならバラしても大丈夫だよ?」

「さ・・・先に言いなさいそんな事ー!」

 さっきまでの私の悩みはなんだったの!? そう内心叫び散らす利沙は、妙な呻き声を上げながらグシャグシャと頭を掻き乱す。周囲から見ると明らかに不審な事をしているという自覚はあるが、こればかりはどうしようもない。

「お前恐ぇーぞ。・・・ユキ、そろそろ時間だろ。行くか」

「あっホントだ遅刻するかも。行こっか、えーと・・・利沙ちゃん」

 うち専属だからあんまり時間は関係ないけど。そう言いながらハハハと笑うユキと龍の歩く後を、そういや私承諾してないんだけどと思いながらも素直に付いて行く事にした。

 最後チラリとアイ様達を見やると、明らかに何か落ち込んでいるアイ様を適当に慰めるキューピットと目が合い柔らかに微笑まれた。利沙に取って始めて見るキューピットのその表情に少々落ち着きを取り戻した心で驚いたが、あとは付いて来ない事を知り、小さく頭を下げてそのまま喫茶店を後にした。

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