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序 ①
そよそよと吹く風のことを「玲瓏」と呼ぶ。
古の詩人が実った稲穂が風に揺れる音を、「玲瓏」と表現したのが始まりらしい。
細長く広大な瓏国の都から西の領地。
宋禮領では農作物が実ることを、神の恵みとして尊んだ。
農業国として、国内一の知名度を誇る宋禮領だが、決して気候が温暖というわけではない。
河川が氾濫しやすい雨期もあれば、日照りがいつまでも続く乾期もある。
極めつけは風だ。
気まぐれにやってくる激しい風は、せっかく木々に実った果物を吹き飛ばし、麦の穂を横倒しにしてしまう。
国民の半数が農民である宋禮領では、ほとんどの男女が農作業に邪魔な髪は、束ねるか、短く切ってしまっている。
例外は、病弱で外に出ることが出来ない人間か、滅多に外に出る機会がない高貴な人間くらいだった。