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第一話 人は誰しも容易に人を傷つける

決心。

ある事をしようとはっきりと心を決めること。

また、決めた心。決意。


街は明るく、空は暗く何一つ変わらない日常のワンシーン。幾千年、いや遥か昔からそこに存在していた明るい点は今や街の明るさにかき消され姿を見せない。

そんな日常にぽつり、消えてしまいそうな点が一つ。決心をした少女が眺め考えた。

空は私と似ているな、と。

少女の決意は一つの終末に向かいゆっくりと身を移した。


少女は朝方にその終わりを人々に見せ付ける。変わり果てた姿に誰もがまるで絵本に出てくる不幸な国民のように「嘘」の涙を流す。ただ一人少女と共にいた、けれど少女たちとは別の世界に生きる少年以外は。






夜が過ぎれば朝が来る、これは生を持つもの全てに起きることだろう。俺はそう思う。

そして、朝が来ると必然的に起きなければならないと思うのは人特有の遺伝情報なのだろうか、俺はそう思わない。俺は遺伝情報の一部が欠落していると考えられるほど起きたくない。

一周回って別の考えに収束した俺の思考は二度寝の選択をし、再び睡眠に身を委ねようとした。

「お兄ちゃん、朝だから起きて、可愛い妹が朝のご挨拶ですよー。起きてくださーい。」

しかしである、現実は甘くはなく妹という頼んでもいないお節介な目覚まし時計によって朝を迎えさせられた。


食卓にはこれまた珍しくもない一般家庭でよくある朝食がバランスよく用意されていた。

こんがりと焼かれ口に含めば外側はサクサクとしているのだが、中はしっとりとバターの味が感じられるパンを一瞥し、シャキシャキとして水分を多く含んでいる少し苦味のある葉物野菜を端に寄せた後、甘みがあるが過剰ではないとろとろとしたスクランブルエッグをゆっくりと咀嚼して呑み込んだ。

ただし、妹はそんな俺の姿を気にいることはなく苛立ちをストレートにぶつけてきた。

「早く食べてよ?私が礼拝の時間に間に合わなくなるからさー。」

「煩い妹だ、お兄ちゃんは食事こそ至高のときそれは何人たりとも侵害することはあってはならない、と教えたはずなんだが。」

「お兄ちゃんが朝の光が俺を溶かす、やめろ布団を剥ぐなとか言わなければ時間に余裕があったんだからワガママ言わないでよ。」

前言撤回、お兄ちゃんの所為だった。すみませんでした。

それを心の中で謝った俺は日常の会話に起動を修正していく。

「今日は何時ごろ帰って来るんだ?」

適度なスピードで食を進めつつ妹に尋ねる。

「いつも通り夕方かな、お昼は用意していないからちゃんと自分で作ること、ごちそうさまー。」

「食べるのが早い、30回噛んでから呑み込むんだ。」

「急いでるって言わなかった?洗い物はやっといてね。」

「了解、いってらっしゃい。」

左手を挙げ背を向けたまま手を振った。

「手に痣できてるけど大丈夫?」

痣には特に気にも留めずに手元にあった飲み物を飲み、答えた。

「これ牛乳じゃないか、さりげなく苦手なもの置いておくなよ。痣はどうせたいしたことないだろし、放って置いて大丈夫だろう。」

「飲むまで気づかないとか私びっくりだよ。痛むようだったら治癒するから後で言ってね、いってきまーす。」

牛乳を飲んだことに顔を顰めながら俺は妹を見送った。

さて、食事も終わり俺は先ほど失敗した計画をもう一度遂行することにした。

「寝るか。」





洗い物を終え俺は自室の扉を開けて部屋に入ろうとすると、窓の側で長い髪を風に揺らせているあの少女が立っていた。廃ビルの屋上から飛び降りたあの少女が。

彼女は振り返り怪訝な顔をしながら声を発した。

「おはよう、アレン・ブルーアイズ。貴方の性格からして二度寝に来たのかしら?」

「水無月神奈、ここは俺の部屋だ。出て行け。」

「死んだ魚のような目をしているけれど銀髪碧眼のイケメン顏が台無しよ?顔以外はクズなんだからシャキッとしなさいよ。」

「口を開かなければ美人で清楚な感じがするから黙ったらどうだ?そうだ、お前のためにその災いの口を縫い付けてやろうか。」

「ふふ、面白いこというのね、褒めてあげる。」

「座布団一枚やるよ。」

軽く冗談を言い合った俺たちだがその後は何も話せなかった。

別の世界の死んでしまった少女を前にした俺は何を話せばいいのか分からずその場に佇んでしまった。短いのか長いのかそれすらも分からないほど思考が停止して脳が現実を受け付けない。

先に静寂を破ったのは神奈だった。

彼女はへたへたと座り込み、俺に問いかけた。

「なんで何も聞かないの?」

彼女の声は震えていた。いつも彼女と共にいた俺にだけわかる小さな、でも確かな違いだった。

「現実を受け止める覚悟がない、そう言えばいいか?」

今にも崩れてしまいそうな彼女に俺は普段と変わらずに答えた。いつも通りの最低な答えを。

「誰が私の状態を答えろって言ったの!これは夢なんでしょ!ねえ!これは夢だって言ってよ、お願いだから、もうあんな思いしたくない!」

予想通り彼女は決壊した。泣き喚き、怒りに震え俺に自分の中の恐れをぶつけてくる。

俺はその恐れを知っている。

彼女がそれを独りで耐えてきたのも知っている。

諦めたことも。

俺と神奈の違いは何もない。

同じ弱者だ。

全てから嫌われ虐げられる人生を歩んできた弱者。何も違わないだから何も言えない、答えなんて誰も必要としていないから。


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