神様に祈りました。
私は前世と現世で人間の生活をしてきたから、普通のドラゴンと違うのは分かっている。
もっとラギのことを考えるべきなのも分かっている。
分かっているのだが……。
(それでも、私は人間として生活していきたい)
ラギは私がいればそれでいいと言う(訊いて確かめた)。ならばそれに甘えてはいけないのだろうか。
「王太子様に私の気持ちは分かりません」
「……確かに、そうだね」
王太子はそう言って目をふせた。
王太子が去っても、私の心はもやもやしていた。
自分がとても悪いことをしている気がしていた。
「ラギ、ごめんね」
私がそう言うと、ラギは首を傾げた。
そんなラギの腕の中で、私は嫌な考えを追い払うように目を閉じた。
(とにかく今は、明日の仕事のことを考えよう)
そうやって、私は考えるべきことから目を逸らしたのだった。
翌日は気持ちの良い青空で、私の心も少し明るくなった。
キースたちと待ち合わせた城門の所で待っていると、魔狐の姿のラギが何かに気付いたように唸り声を上げた。
見ると、魔術師らしきローブの男がこっちをじっと見ている。
私は自分の姿が何か変なのだろうかと急に不安になった。
私が自分の格好を確かめていると、ローブの男が近付いて来た。
そしてラギを見ながら言った。
「その魔狐は、あなたの使い魔ですか?」
「ええ、そうですけど……」
「魔力が異常ですが、本当に魔狐なのですか?」
そう言われて、ラギに隠蔽の術をかけるのを忘れていたことに気付いた。
(マズイ……どうやってごまかそう……)
私が冷汗をかきながら男にしどろもどろな言い訳をしていると、肩の上のラギの気配が大きくなって、止めようとした時にはもう人型に変身してしまっていた。
「魔狐が人間に……」
そう言って、男は絶句している。
私はラギを張り付かせたまま、男から見えない所まで走って逃げた。
「ラギ! 人前で変身しちゃダメって言ったでしょ!」
そう言ったが、ラギは私に頬擦りしてくるだけで聞いていないようだ。
「もう! ラギってば、聞いてる?」
そう言うと、ラギは頬擦りするのを止めて私の頭を撫で始めた。
「……とりあえずお城の中に入って、キースたちに伝言を頼もう」
そう言って私は王城の裏門から中に入ることにした。
今日の仕事がどうかうまくいきますようにとこの世界の神様に祈りながら、私の心の中は不安でいっぱいだった……。