密偵に会いました。
次に入ったのは、カイという密偵の夢の中だ。
「よう。無事にオルムに着いたか?」
あの時の剣士が私に声をかけてきた。
「うん。ちゃんと着いたよ」
「ドラゴンも無事だよな?」
「もちろん」
やっぱりレキが目的なのだろうかと私は疑った。
「ドラゴンを手に入れたいの?」
私がそう訊くと、彼は「まさか!」と答えた。
「ドラゴンは神聖なものだ。人に手に入れられるものじゃない」
「でもアストニアの国王は手に入れてたよ」
「ドラゴンから卵を盗んで、魔道具で魔力を封じてな」
男は軽蔑するように言った。
「あんたもドラゴンを利用するつもりなら許さないからな」
本気で言っているようだ。
……そういえば、ロゼス王家はドラゴンを神聖視しているってどこかで聞いたような気がする。
「ロゼス王家の人なの?」
「俺が!? まさか!」
もしかして、と思って訊いてみたけど、答えは否だった。
「じゃあ、ロゼス王家に関係のある人?」
「……そりゃあ、密偵だからな」
(ま、そりゃそうだよね)
とにかく、このカイという男も、ロゼス王家と同じでドラゴンを神聖視しているのだろう。
「私はレキを利用するつもりはないよ」
「じゃあ、手放すんだな?」
「……レキが放してくれないよ」
「けど、ドラゴンと一緒じゃ、人間の中で住めないだろ」
「まあね……」
本当は、人型になったレキとなら、人間の中でも一緒に暮らせると思うのだけど。
私はカイにそれを言うつもりはなかった。
「ドラゴンはオルムに置いて行くよ」
「離れないんじゃないのか?」
「……頑張って説得するよ」
「……まあ、とにかくドラゴンは早々に手放せよ」
「分かった」
私はそこでカイとの会話を切り上げた。
ほかにも夢の中を回って情報収集しなくてはならないのだ。
「じゃあ、キースとライのこと、よろしくね」
そう言って、私はカイの夢から出た。
そしてロゼス人の夢を探して夢の中を漂うのだった。