さらわれました。
ドラゴンは、城の真上まで来ると旋回して王宮の庭らしき所に舞い降りた。
そして私を抱え込んだまま、何かの建物へと向かって歩き出した。
「あー! 戻って来た!」
中にいたおじさんがそう言って近付いてくる。
するとドラゴンはそのおじさんを羽を羽ばたかせて威嚇した。
そして建物の奥まで行くと、私をそっと藁の上に降ろした。
私は辺りを見回した。
どうやらここは竜舎のようだ。
大きさからいって、ここに住んでいるのはこのドラゴンだけらしい。
ドラゴンは寄り添うように座りこむと、私の身体に頬をすり寄せてくる。
喉からグルグルという音がする。どうやらご機嫌らしい。
私はその頭を撫でながら、これからどうしようかと思いを巡らせていた。
しばらくすると、でっぷり太って偉そうな人たちと、その従者のような人たちがゾロゾロとやって来た。
その様子を見て、まるで院長回診のようだなぁと思っていると、一番偉そうな人が私を見てガッカリしたように言った。
「なんだ。まだ食べてないではないか」
残念そうに言うその言葉を不思議に思って、私は首を傾げた。
「ほれ、レキサンライート、早く喰わぬか」
その促すような声と視線に、私は彼らが何を見たがっているのか悟った。
(ドラゴンが私を食べるのを待っているんだ)
そう思ったら、怒りが湧いてきた。
(人が食べられるところを見たいなんて、なんて残酷なやつらなんだ)
私がキッと睨みつけると、偉そうなやつその二が「無礼者!」といきなり怒鳴った。
「あの者を捕えよ!」
偉そうなやつその三が声を上げると、兵士たちがどこからか涌いて出て私のほうに近付いて来る。
「グルァ!!」
今まで私に寄り添って寝そべっていたドラゴンが、起き上がって兵士たちを威嚇し始めた。
羽をバタバタさせて怒っている。
「アンソート、なんとかしろ!」
その二が声を荒げると、集団の後ろのほうからフードを被った男が一人現われた。
その男が何かをボソボソ唱えると、黒いものがビュンとこちらに向かってきた。
私はとっさに結界を張ってそれを防いだ。
「! 魔術師か!」
誰かが叫び、アンソートと呼ばれた男は再びボソボソと何かを言った。
すると後ろから何かが私の身体に絡みついた。
「グルァァ!」
ドラゴンが吠えた。
私は大丈夫だと言うように笑って、身体に絡みついたものを魔力で弾き飛ばした。