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Five Brade  作者: 有栖
1章 聖剣アシュタルト
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#1-6

頭を槍で貫かれたドラゴンに金髪で白い甲冑を身に纏った騎士が飛びかかる。


「トドメです!」


長剣を抜き、ドラゴンの背中の鱗の隙間を突き刺す。

丁度心臓の部分を貫かれたドラゴンはすぐに息絶えて動かなくなる。

更に3体目のドラゴンがディアナから狙いを変えて騎士に向かってくる。

ドラゴンの噛み付きを騎士は冷静に避け、懐に入り込む。

懐に入った騎士は長剣でドラゴンの脚部の腱を深く斬り裂くと、ドラゴンはバランスを崩す。

バランスを崩して、横ばいになったドラゴンの鱗のない腹部を滅多斬りにし、腹部から突き刺してそのまま喉の部分まで斬り開いた。

この圧倒的な強さ。そしてスラクジャンヌでは王族以外には珍しい金髪。ドラゴンの返り血を浴びた騎士団長の甲冑。


「えっ!?貴方は竜に食われてさっき死んだはずじゃ...?」


「あれは私の偽物です!私はクーデリア様を裏切ったりなど絶対にしません。」


幻惑の魔法に自分の姿形をそっくりそのまま別のものに変えるというものがあったことを思い出した。

騎士団長リカルドのクーデリアへの忠誠は絶対なもの。

そっくりの偽物の言葉とはいえ、想い人のことを一度は疑ってしまったことが恥ずかしい。

しかし、今はそんな状況ではない。

国王達がクーデリアを裏切り、喰竜王ラーライがクーデリアの身体に召喚されてしまったのだ。

ディアナにとって最早国はどうでもいいが、クーデリアの身体を好き勝手されるのは非常に不愉快極まりなかった。


「ディアナ様、今は逃げましょう。」


「でも!クーデリアが!」


「お話したいことがあるのです。それ以前にここでは私達が圧倒的に不利です。体制を立て直しましょう。」


リカルドの性格ならば今すぐにクーデリアを取り返そうとするのだと思っていた。

話したいこと。彼は何かを知っているのだろうか。


「...分かりました。」


「ではディアナ様、こちらへ!」


ディアナはリカルドに手を引かれて最深部から基地の外へと逃げる。

基地の中はそれほど広くはないし、狭く入り組んでいるのでドラゴンの追手は撒くことができるだろう。


(しもべ)共よ!聖剣の使い手を逃がすな!」


喰竜王ラーライの命令により更なる追手が放たれる。

スラクジャンヌの、いや、世界の余命は刻々と迫っていた。





ディアナとリカルドは帝国基地から離れ、スラクジャンヌとは反対側の帝国領土側へ逃げ延びていた。

逃げ延びた末にたどり着いたのは小さな町の廃墟。

かなり荒らされており、滅びてから十年以上は経っているようだ。


「こちらです、ディアナ様。」


「ここは?」


連れてこられたのは、少し町から外れたところにある大きな屋敷。

多少崩れてはいるものの、他の建物より大きいためか他のよりまだ元の形を保っている。


「ここは私がスラクジャンヌに来る前に両親と住んでいた家です。生前、両親はこの町を取り仕切っていました。」


「確かリカルド様はスラクジャンヌの出身ではなかったのでしたね。」


「様は要りませんよ、ディアナ様。」


ディアナは実は王女だったわけだが、普段侍女として過ごしてきたため、騎士団長に、ましてやリカルドを呼び捨てにするのは少し躊躇われた。

裏切られたときは普通に呼び捨てして、痴れ者と言っていたような気がするが、その場の雰囲気もある。

屋敷の中は外とは裏腹に、内装はそれなりにしっかりしていた。

少し整備され、修繕されている。


「私はこの家で幼少期の大半を過ごしました。しかし、11年前突然この町は帝国に襲撃されたのです。」


「襲撃された結果がこの惨状というわけですか...酷い...」


今のこの町の惨状が当時の悲惨さを物語っていた。

この状況だと生存者は数少ないだろう。

これほどスラクジャンヌから近ければ、これほど無残に帝国に襲撃された町の情報は普通知られているはずなのに、ディアナはこの町を初めて知った。

リカルドに案内されるがままに、屋敷を進んで進んでいくと応接室のような所に辿り着く。

扉を開けると落ち着いた雰囲気の老人が椅子にじっと座っていた。

ディアナはその老人に見覚えがあった。


「ご隠居なされたお祖父様!?どうしてこんなところに!?」


「お久しぶりですね、ディアナ。随分とご立派になられましたな...」


この人物の名はアルベド。

現国王の父で、先代国王。

比較的若い頃に現国王に王位を譲った後、城で一人何かを研究し、5年前に隠居した。

小さい頃にクーデリアと一緒によく遊んでもらったことがある。

ディアナが本当の王女だとわかった今は実の祖父ということになる。


「今から私が知り得た全てのことをディアナ様にお伝えしようと思います。その為に、今日は先代国王であるアルベド様をお呼びしました。」


「私もこの事態を招いた責任の一端はありますゆえ。本当に謝らなけばならないのはクーデリアですが...」


「すいません、間に合いませんでした。既にラーライがクーデリア様を...」


ディアナはこの2人が今回の訳の分からない事態の事情を知っていると確信した。

喰竜王ラーライ、偽物の王女、そして本物の王女。

何故こんなことになってしまったのか。


全員が椅子に座って向きあい、ディアナに対して話し始めた。


「まず私のこれまでの経緯から説明しておかなければならないでしょう。


この町の襲撃により両親は殺され、私は命からがらスラクジャンヌに逃げのびました。ですが、年の離れた幼い妹は帝国に連れ去られてしまったのです。」


「難民としてスラクジャンヌへ落ち延びた私は剣の才能を見込まれ、跡取り問題で困っていたオイゲンシュタット家に養子として引き取られました。」


「オイゲンシュタット家は遠縁の親戚の息子と発表していましたが、違ったのですね。」


「はい、家のメンツというものがありましたから。養子として引き取られた後、私は家の指示通りに騎士として修行を積みました。その頃の私は帝国に連れ去られた妹を探し出すことで頭が一杯で、騎士となることは帝国と戦うチャンスだと思いました。」


「そして晴れて騎士となった日、私は信じられないものを目にしました。」


リカルドは普段は見せない少し暗い顔をし、額に手を置く。


「帝国に連れ去られ、生き別れとなっていた私の妹がスラクジャンヌの王女になっていたのです。」



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