#1-4
「リカルド、そんな、貴方は最初から帝国側だったっていうの!?」
歴代最高の騎士団長。クーデリアに誓った忠誠。
そんなものは全くもって偽りだった。
「私だけではありませんよ。」
周囲を取り囲むは、基地突入まで一緒に居た兵達。
大臣。そして、彼女の父である国王。
「どういうこと...!?どういうことなの...!?」
身体の痛みも忘れ、這いつくばったままきょろきょろと辺りを見回す。
きっと夢だ。そう思いたかった。
だが、これは紛れも無く現実だ。
「お父様...!?嘘、嘘だと言ってください!」
最初から自分の周りは帝国側だったのだ。
クーデリアは何のために戦っていたのか。
「私を二度とお父様などと呼ぶんじゃない。」
「えっ?」
何を言っているのか分からない。
初めて見る父の怒りの表情。
激しい憎悪。
まるで家畜を見るような軽蔑。
確実に父から娘に向けられるようなものではなかった。
「ハハハ!親愛なるクーデリア様に全てを教えてあげましょう。」
リカルドがクーデリアの前に近づいてきて言う。
それは非現実的でとてもじゃないが信じられないことだった。
「貴女は聖剣を使えるように改造されただけのただの戦争孤児ですよ。誰が親かも分からない、そんな子供。そこにいる国王は貴女とは赤の他人なのです!」
しかし、その言葉がトリガーとなって忘れていた、いや、忘れさせられていた記憶が蘇る。
親が帝国に惨殺される光景。
施設に隔離され、毎日自分の身体を実験台にされていたこと。
そこからスラクジャンヌの王女、クーデリアとなったことを。
それらの記憶はリカルドの発言が真実であることを証明してしまっていた。
脳が理解を拒否する。
頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなる。
「貴女はただの実験台。聖剣がどこまで我ら神聖帝国に有益なものかという実験です。」
初めから仕組まれていた。
全て手のひらの上で踊らされていただけだったのだ。
クーデリアが苦痛に耐えながら死にそうな思いで国を守ろうとしたその行動は全て無駄だったのだ。
「結果その剣の力は非常に強大だった。その剣の力を用いれば、全ての大陸が神聖帝国のものとなる日も近い。貴女の努力は無駄ではなかったのです!」
「違う!私は...そんなことの為に戦ってきたんじゃない!」
「現実とはいつも皮肉なものなのですよ、クーデリア様。」
これが現実だなんて。
こんなのってない。
クーデリアは血が出るくらい右手を握りしめる。
そして床に転がっている聖剣を手に取り、剣を杖にして死ぬ気で立ち上がる。
「ほう、まだその身体で立ち上がれますか。」
「私のやってきたことが例え偽りであっても。せめてここにいる人間だけは、この国の為に地獄へ連れて行きます...!」
「ふふ、この国?貴女が偽りであることは国民の誰もが知っていたのですよ?つまりこの国は貴女を騙していた。貴女はそんなものの為に戦うんですか?」
「この国には親友がいるから。私は、戦います!」
クーデリアの周りに蒼き業火が渦巻く。
ブラッドガーネットの輝きによって規模は多少小さけれど、この部屋を焼き尽くすのには容易い。」
「おお、ブラッドガーネットがあってもこれほどの力が出せるとは!素晴らしい、素晴らしいぞ、聖剣アシュタルト!」
リカルドは自分の身が危険に晒されているというのに、心底嬉しそうにする。
国王も兵達も微動だにしない。これから起こることが分かっているかのように。
「さぁ、クライマックスです!」
指を鳴らす。
すると、ある人物が兵に連れられてくる。
「ディアナ...!」
手を錠で繋がれたクーデリアの親友。
一連の話を聞いていたのか、目に涙を浮かべている。
「クーデリア様、今すぐにその剣で自害しなさい。さもなくば、この女を殺します。」
「!?」
私が反抗してくるのも全て計算済みだったのだ。
そのための人質。
「クーデリア!私のことは構いません。この者達を焼き払って!」
そんなこと、出来るわけがなかった。
親友ごと焼き払ってしまえば、今度こそ生きる意味がなくなる。
むしろこの状況には感謝すらしていた。
死に親友を助けられるという意味を持たせてくれたのだから。
クーデリアは自分に剣を向ける。
「やめて!クーデリア!私の話を!」
ザクッ
血が飛び散る。
クーデリアは自分の胸を刺した。
そのまま床に倒れこみ、すぐに動かなくなった。
「あ...ああ...!!」
ディアナは兵達を振りほどいてクーデリアに駆け寄る。
死んでいる。間違いなく、もう助からない。
「私が初めから全て知っていれば、こんなことには...クーデリア...」
「仕方のないことです。貴女も騙されていた一人なのですから、クーデリア様。」
ディアナも同じだった。
自分の正体も知らされず、自分がやっていることも知らず。
ただ城で飼われていた哀れな姫。
そう、本当のクーデリアは彼女だったのだ。
「私をその名で呼ぶな!これ痴れ者!リカルド、貴方が以前話してくれた志は全て偽りだったのですか!?」
「はっ、あんな綺麗事が真実だとお思いですか?おめでたい話ですね。」
騎士だった時代には考えられなかった顔で言う。
ディアナが焦がれていたリカルドという青年は最初から居なかったのだ。
「リカルド、これで我が国は助かるんだろうな?」
今まで黙っていた国王が口を開く。
「ええ、助かりますとも。スラクジャンヌは我が神聖帝国の属国となります。ですが今までの貢献により属国でも最上級の待遇をお約束しましょう。」
つまりそういうことだ。
聖剣の譲渡とその性能チェックをする見返りに、属国として最上級の待遇を受ける。
最初から神聖帝国に歯向かう気などなかったのだ。
「こちらとしては祖母を狂わせた忌々しい聖剣を処分できたので好都合だ。さぁ、娘よ。城へ戻ろう。今まで出来なかったことをこれからしていくのだ。」
「貴方のような下衆を父とは呼びませんわ!」
狂っている。この国王は何もかもが。
いや、こんなことが平然とまかり通ってしまうこの国も狂っている。
こんな国は滅びてしまえばいい。
そしてディアナは呪った。何もかもを。
「こんな国、滅びてしまえばいいのよ!」
「ふふ、ふふふ...」
どこからか笑い声がする。
それはディアナにしか聞こえない笑い声。
我が末裔 クーデリアよ
汝、滅びを望むか?