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Five Brade  作者: 有栖
1章 聖剣アシュタルト
3/35

#1-3

クーデリアが聖剣を手にしてから半年が経っていた。

それまでは圧倒的な劣勢であったスラクジャンヌは一気に持ち直し、元あった国境まで戦線を押し返すことに成功している。

しかし、まだ帝国の戦力はスラクジャンヌと比べれば天と地ほどの差がある。

今までに植民地としたところから徴兵し、物量で持って攻めてきているのだ。

それだけ必死になるのは、肥大化する人口や異常なまでの技術の発展によりスラクジャンヌが保有する豊富な資源を何としてでも確保しておきたいからというのが通説だ。

スラクジャンヌはクーデリアの奮戦により何とか持ち直してはいるが、もし彼女が倒れれば次こそ滅亡は避けられない。

一度の敗北も許されない。

そのことを彼女はよく分かっていた。





来るな!近寄るな!化物!

神は絶対だ...私が死んでも神は...

俺はこんなところでしぬのか...

母さん!

死にたくない!



クーデリアの心は"まだ"罪悪感に苛まれている。

夢で見るのは自分殺してきた人達の幻影ばかり。

聖剣に囚われた私が虫でも殺すかのように人を黙々と殺していく、そんな夢。

うなされ、満足に寝ることができない。

だがクーデリアの本当の悩みは聖剣に精神を蝕まれ、罪悪感すら感じなくなってしまわないかということだった。

沢山の人を殺したのに、こんな夢すら見ないようになってしまったら。

それは果たして人間なのか。

...もはや身体も心も限界だ。いつまで持つか分からない。

でもやらなければならない。この国の為に。

聖剣で国を守れるのは私しかいないのだ。



「クーデリア。国境近くにある最後の帝国基地を攻め落としてきてもらいたい。対スラクジャンヌの基地の中では最重要拠点だ。今回の作戦でここを落とせるか落とせないかでスラクジャンヌの未来が決まる。頼んだぞ。」


「...分かりました。」


クーデリアは軍を率いて帝国基地へと攻め入った。

スラクジャンヌ領内では最後の軍事基地だ。

ここを取り返しさえすれば、一旦は帝国の支配から解放されることとなる。


「私が正面から突入します。皆さんは炎に巻き込まれないように、側面から基地に突入してください。」


いつものことだった。

蒼き業火は敵味方関係なく全てを焼き尽くす。

近くに味方がいれば全力が出せない、つまりそういうことだ。


クーデリアは堂々と正面から基地に入り、施設を手当たり次第壊していく。

その姿はまるで歩く災害。炎の台風の目。

帝国兵達は必死になって迎撃するが、魔導兵器の攻撃は全て焼きつくされ、近づくことすらできない。

そのまま基地中枢へと難なく入っていく。


それにしても、拍子抜けだ。

最後の軍事基地なのに今までのような抵抗しかしてこない。

こんなことは通用しないと今までの戦いで分かっているというのに。

流石にちゃんと考えられる人間ならこんな無駄なことはしない。

そんな考えがクーデリアの頭をよぎり、もっと慎重にいったほうがいいのではと思う。

が、体を駆け巡る激痛がそれを許さない。

聖剣を振る度に倒れそうになる。もはや身体は限界を大きく超えてしまっていた。


中枢区画に辿り着くが、今までの基地と何ら変わりない。

魔導兵器と基地に魔力を供給する大規模な装置。そしてそのコア。

このコアされ破壊すれば補給源が絶たれ、こちらの勝利。


「ようこそ、姫君。」


コアの前に一人の将校が立っている。

仮面を被っており、顔を見ることができない。


「おや、返事も出来ませんか。聖剣に精神を蝕まれている今の貴女では。」


「...」


なぜそんなことを知っている。

聖剣にそんなリスクがあることを知っているのは、ディアナと歴代の聖剣の所持者とその関係者しかいないはず。

ましてや、帝国の人間が知りようのない情報だ。

この男はなにかを知っている。今すぐに始末するべきだ。

クーデリアは剣を振り上げる。


「なら、喋られるようにしてあげましょう!」


男が先に右手を上げ、指を鳴らす。

するとみるみるうちに壁全てが自壊し始める。

壊れた壁の向こうから現れたのは、紅色の宝石が至る所に埋められているまたもう一つの壁。

その宝石の輝きを浴びたクーデリアは、


カランカラン


聖剣を落とし、床に倒れこむ。

何が起こったのか分からない。

聖剣を持っているはずなのに、剣を持てないほどの痛みが全身を駆け巡る。


「この宝石はブラッドガーネットと言ってね、ある地域でしか取れない貴重なものなのだよ。」


「この輝きを浴びた全ての魔法は効果を失う。貴女が聖剣から掛けられていた痛みを消す魔法も例外ではないよ。」


突然来る痛みで意識が飛びそうになるがギリギリで堪える。

常人なら失神しているような痛み。

もう左足どころか、右足、左腕もそこにある感覚がない。

クーデリアの姿を見て、仮面の男はさぞかし愉快そうに話を続ける。


「貴女はよく頑張った。聖剣の力に振り回されつつもよく頑張りましたよ。我々の予定ではもっと早く貴女の心は折れているはずだった。」


「貴方は一体...何を...」


「さぁ、ネタばらしだ。この顔をよくご覧になってください、"クーデリア様"。」


仮面を外すと、そこには見知った顔があった。


騎士団長、リカルド。

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